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連作短歌

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2021年8月の記事一覧

連作短歌「目」

かけがえのない生き物に見えてくる蛍光灯の冬のチカチカ 重力はヒトを殺すが無重力も同じくヒトを殺すのだろう 友達の友達の友達の友達の友達の友達ときす

連作短歌「マフィンの粉」

寝てる人と起きてる人の心の差だけでは説明できないなにか 二人で一つのプレゼントとして渡されたのは初だって気づいていたの 寝てるやん 約束してたこと今もなにも終わらせてないままやん

連作短歌「顔を隠す」

他人を呼ぶときの感じが心地よいこの人となら、柔らかくなる ハンバーガー食べてるところを見ていたいという叶わぬ過去の入り口 近況を銃弾のように撃ち込んでくるその口が大きくて怖い

連作短歌「降り出す瞬間」

軽やかな足取りで駅を離れゆくあなたとぼくの生活の差異 強く吹く風が運んでいってしまうあなたの肺を巡った煙 黒点がコンクリートを埋めてゆく、反転は夢 揺れるハンガー

連作短歌「愛と洪水」

宇宙から眺める夜の新幹線 体が消えて雪として降る その距離を時間に替えて会いにくるバスにはバスの愛と洪水 誕生日にわたしをあげる 山手線二周してからあなたの部屋へ

連作短歌「泡に泡」

すれちがうひとの視界にいるぼくとぴったり同じ歩幅であるく 夏の花わさわさ揺れる線路沿い、あるいは繫いだ手の絡み合い 売る本を鞄に詰めて真夏日の街の暗さは川沿いの色

連作短歌「まだ出会ってない君について語る方法③」

冷やかしの温湿度計を睨んでる有り余るほど綺麗な斜視で つっかけに赤いスイカのTシャツで走って君は夜を見にいく 再見はまたね 動画に感動を誘われている西口ランプ

連作短歌「食べてもいいよ」

ふとももの痣の色を観察させてもらうハッピーバースデーの名の下に 右足の小指の爪よ舐められてアニメ化されて炎上しなよ アーケード商店街のモスバーガーでキミには秘密の待ち合わせ中

連作短歌「まだ出会ってない君について語る方法②」

ウソ用とホントウ用のアカウントをふたつ持ってて使い分けてる 好いてくれる人を好いてるだけでしょと言われないようにするのがコツさ 重いもの持ってあげると言ってくる奴らのことを下に見ている

連作短歌「まだ出会ってない君について語る方法①」

腕立てをしている僕を眺めつつアイスクリームを食べるのが好き 演劇や映画を隣りで観てるとき寝ちゃったことを隠そうとする 休日を充実させる趣味がある僕は羨ましいと口だけ

連作短歌「天を仰げば涙こぼれないと思い」

噂ってすぐに伝わるものなのねそれがその日の教訓でした 演劇のように二人で過ごすのが楽しいと言う びみょうな距離で 残高がゼロになったらきっとこの花火を飼うよ 畳の部屋で

連作短歌「ふてくされ」

いつまでもあなたのそれは不貞腐れ 私は一人で横丁にいる 頭まで布団をかむって寝る癖の隣りでガリガリこなす推敲 日付を見るともうすぐ十年 ピーナッツバターが好きで写真が嫌い

連作短歌「カミソリパンチ」

死にたいとおもったことのない人を排斥するのもやめてください 全体が茶色い部屋のふかふかの椅子の座面に歴史があった 気持ちを言う 寝てるあいだに濡れていた窓の向こうに よわい、ひかり

連作短歌「her name, pls.」

泣くつもり 初めてデートした千葉の喫茶セピアに呼び出されれば 同じように恵まれてゆく 雨脚を操れるって自慢しながら 今日なんかおかしいよって顔で言う名前を呼んでくれない午後に