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連作短歌

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2021年5月の記事一覧

連作短歌「いきたいんだ そこへ」

ならんだことば お金をはらってくれるひと 再来年には忘れててもさ きみがふつうにあるいてる おなじようにやっているのに縮まない影 ことばでは無理だったからてのひらを傷つけながら揺さぶる欅

連作短歌「クラシック」

複数の星をつないでいく作業 魔法のようなあれはこぐま座 ふかふかの枕がふたつ並んでる隙間に顔をはめて落ち着く 泣けそうで泣けない朝にはちみつを湯煎している姿が浮かぶ

連作短歌「誤ハッピーマニア」

お互いが合わせてあげているつもり メールの文のきみっぽい誤字 病院で 病院までの 病院に 病院からの帰りの電車 偶然を装ってみる よくしゃべるきみの口元なんか気になる

連作短歌「失策」

天気予報が外れた朝に思い出す遠い昔の失恋のこと 冗談のつもりで買ってベランダで枯れたまんまの鉢植えの土 虚数空間で知らない誰かの絵を褒める 幾何学的な噴水の色

連作短歌「タイムカプセル放置率」

アロマオイルを継ぎ足すことは生きること はじめて聞いた名前の香り なみだぼくろのね、濃さが変わっていくみたい 葉っぱが濡れて七色になる 運命の人が次々あらわれる狂ったリズムと広い世界と

連作短歌「狭い世界」

この匂いどう?って 声が昔から変わっていないあの声だった 静止画の滝をやたらと見せてくる きみが行きたいならば行きたい 小さい声が小さい声のまま届く狭い世界をきみはつくった

連作短歌「梅雨前線」

新品のルーズリーフに書き殴る 梅雨が明けたら行きたい場所を 考え事してたら濃くて薄めたら増えて腐って捨ててしまった もしかしたら読んでくれてるかもしれない 小さい頃からときどき叶う

連作短歌「顔」

泣きそうになるのはひさしぶりだった 電車にめっちゃ派手な人いた 無印でカレーを買って帰るだけ 店員の表情がまばゆい 近すぎて見えてなかった拙さも黙って許してくれていたんだ

連作短歌「若葉風」

著者に会うのは避けながら駅ビルで三年越しのジャケ買いをする 喧嘩する人は嫌いよ若葉風 君は俳句をつくれる人だ 「つづきからはじめる」という選択肢が「リセット」よりも残酷に見える

連作短歌「飛ぶ蛍」

思い出すことに飽きたら夏風がレジャーシートを飛ばすみたいに コンビニに煙草を買いに行くのにも車に乗ることに慣れてきた 夜っぽい歯が光る窓 向こうから見てくれている人がいるかな

連作短歌「遠浅駅」

同じ夏がまた来るといい 死に方をいまは想像できないけれど 海水の中で一生すごすのはどういう気持ちかインタビューしたい 二〇一六年秋に一歩目を踏み出した、と書いてみて驚く

連作短歌「いまにしておもえば決意」

いまにしておもえば決意 少子化でライバルが減る算段である 寝る前に軽く頭を打ったのがヒントだったのかもしれないぞ 二十年経ったら四十六歳だ そこまで行くか サラダを食べる

連作短歌「君んち」

定期圏外だったけど君んちに行ける日は裏門から帰る 物知りで憧れだった君んちの積ん読のせい いまの私は 君んちが空き地になって 私より背の高い植物が生きてた

連作短歌「スクールライフ」

中庭は立ち入り禁止だったからあれは何かの特別な日だ 階段をダッシュしている男らが見えて置き傘を取りに戻る 先生に用事があるという君を待ってる廊下 中庭を見る