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研究費申請書の書き方

イリノイ大学の山田かおりです。独立ラボをもって研究者をしています。今日は自分の備忘録を兼ねて、アメリカでの研究費の取り方を記しておきます。

まず初めに、私にそんなこと語れる資格があるの?という話。いわゆるダニング・クルーガー効果による「完全に理解した」と思い込んでるだけの素人の可能性もありますが、正直私の気持ちとしては「全然わからん。でもこういうことかもしれない」というのがうっすらつかめてきたような…?でもわからん。もっと理解してるはずの教授陣でも苦戦してるから本当にわからんし奥が深いです。

獲得研究費
Scientist Development Grant (AHA) 2013-2016 ($308,000)
Proof of Concept (UIC) 2017-2018 ($35,000 + $150,000)
R56 (NIH) 2016-2018 ($400,000)
R01 (NIH) 2019-2024 ($2,000,000)

戦績
2009 American Cancer Society       --unfunded
2010 K01 (NIH)                               --unfunded
2012 American Lung Association   --unfunded
2012 Parker B Francis                     --unfunded
2012 winter AHA                            --unfunded
2012 summer AHA                          --funded
2013 Campus research board (UIC)  --unfunded
2014 NSF                                           --unfunded
2014 R01 new (NIH)                          --unfunded (scored)
2015 R01 resubmission (NIH)           --unfunded (scored)
2016 R56 (NIH)                                 --funded
2016 AACR                                         --unfunded
2016 DOD lung cancer                      --unfunded
2016 R01 new (NIH)                         --unfunded (not discussed)
2017 POC (UIC)                                --funded
2017 R01 resubmission (NIH)          --unfunded (not discussed)
2017 R01 new (NIH)                        --unfunded (scored)
2018 R01 new (NIH)                        --unfunded (scored)
2018 Portes Foundation                  --unfunded
2018 DOD vision research program  --unfunded
2018 E Matilda Ziegler                      --unfunded
2018 R01 resubmission (NIH)          --funded (4%)
2019 DPI (UIC)                                   --unfunded
2020 Honors college research grant (for students)  --funded
2021 Korean fellowship (for postdoc)  --funded
2021 R01 new (NIH)                         --fundable score (13%)

最初は書き方もわからないから手あたり次第出していたので、戦績が悪いのです。民間助成金は除くとしても、R01自体6回駄目で7回目に初めて獲得しました。ここであぁこういうことか?みたいな手ごたえをつかみ、そういうことなんだろう?と書いてみると、戦績がぐんと上がったんですね。学生さんやポスドクさんのを手直ししたものは勝率が高かったんですが、まぁ元々取れやすいものだったのかもしれないし、とイマイチ不安だったんですが、自分の2個目のR01が1回目から高評価を得たので、このやり方でいけそうだ、と自信につながりました。それで一度まとめておこうという気になったのです。

アメリカの研究費

まず大きく分けてバイオ系ならば、NIH、NSF、DODからの資金を得ている人が多いかと思います。NIHは人の健康に関する研究、NSFは教科書に載るようなメカニズムの研究をサポートする機関で逆に健康に関することは研究してはいけないのです。DODは国防総省の管轄なので、兵士や退役軍人の健康を守るような研究、つまりNIHがやることよりももっと実践的な研究をサポートしています。まず自分の研究が、すごく基礎研究寄りなのか、基礎研究だけど病気を治すこと(動物モデルを使う)方向を目指しているのか、実践寄りなのかで、そもそも出す機関を考えないといけません。私の研究だとNSFやDODには見向きもされませんが、NIHとはどうやら相性がいいようで、8回出して6回スコアは頂いています。上記の戦績の%というのは上から何%にいるかということで、%が少ないほど良く、採択される可能性が高いです。

NIHの査読では、半数の応募書類にはスコアがつかず(トリアージといいます)、Study sectionでの議論をされません。上記の私の戦績のscoredとかnot discussedというのは、議論されてスコアがついたかもしくはトリアージで捨てられたか、ということです。一つの応募書類に3人の査読者がつきますが、彼らが査読中にあらかじめ半数を切り落とし、残る半数を議論しにStudy sectionにやってきます。ここで好意的な査読者と否定的な査読者がいた場合、好意的な査読者が私の代わりに擁護して戦ってくれるわけです。なので、できるだけ好意的な査読者を増やしておくこと、味方につけておくことが必要です。その為には、わかりやすく理解しやすく共感しやすく好きになってもらいやすい応募書類がいいんです。

わかりやすいSpecific Aimページ

応募書類で一番大事なのはSpecific Aim 1 ページと、Research Plan 12ページです。まずはSpecific Aimページを読んで、そのあとResearch Planに読み進める前に、もう査読者の中で気持ちがあらかた決まってしまいます。否定的な気持ちになると、粗を探し始め、ほらこんなに駄目なんだからトリアージになってもしょうがないでしょ、となります。Specific Aimページで、なにこれおもしろそう、となると、多少の粗には気も留めずに、こっちのやりたいことを好意的に汲んでくれます。ですので、Specific Aimページでいかに心をつかむかで、もはや決まると言っても過言ではありません。

まずは最初のパラグラフ、1ページ目の1/4程で勝負はほぼ決まります。自分が治そうと思う病気の紹介、現在の治療法の利点と問題点、自分ならどういう方向性でこの問題を解決できる、だから自分はこの研究費でこのゴールを達成するんです、という宣言をします。ページが限られているので、ぬるいことや一般的すぎることを書いている場合ではありません。この病気はここが解決していない問題です、と端的に告げないといけません。また、自分ならこれが解決できる、と言うにしても、自分にはこれこれこういうこれまでの実績があるから、ということを冗長に書いている隙間はありませんし、初出の分子の名前を羅列してもこんがらがるだけです。この問題を解決するために、私ならできるこういう方法を提案する、ということをできるだけシンプルかつ分かりやすい言葉で伝えないといけないのです。The approach detailed below...詳しくは後述しますがこういう作戦です、と端的にわかりやすく一文で伝えます。なぜならこうできたから (supporting data)、この作戦でいけます、と。On the basis of these exciting observations, the overall goals of this application are...この問題をこういうふうに解決します、とゴールをわかりやすく端的に述べます。

次のパラグラフ(1ページの1/3~1/4ほど)で少し詳しく背景の説明ができます。これこれこんなことが今まで知られている、でもここがわかっていなかった、我々はこういうことを発見し、こういうツールを作った、だから我々はThe hypothesis is that...こういう仮説を提唱し、下記のSpecific Aimsを基に研究に取り組みます、と述べます。ここがわかっていなかった、ここが問題点で解決しなければいけない、という問題は独りよがりではなく世の中の皆にとって大事な問題でなければならず (unmet needs)、我々が発見したことやこの問題に取り組むために作ったツールは、この問題解決に役立つもので、かつ、我々こそがこの問題を解決するにふさわしい、我々じゃなきゃできない、我々ならできる (feasibility)、だから研究資金を与えるべきという説得力のあるものでなければなりません。もちろんそれはResearch PlanのInnovationやSupporting Dataのところで詳しく述べるんですが、ここでわかりやすくはっきりと説得しておかないといけません。

次にSpecific Aimという、2つか3つの課題を提唱します。これらは、1つのAimの成否が他のAimに依存するものであってはなりません。Aim1がぽしゃったら、そもそもAim2をやる意味がなくなる、だと駄目です。それぞれうまくいきそう、問題があるかもしれないけど仮に駄目でも他のAimは独立していける、という課題を提唱します。また、Research Planで紹介するSupporting Dataは、それぞれのAimの分だけないと駄目です。つまりAim1をサポートするデータはいっぱいあるけど、Aim2はサポートするデータがない、じゃぁうまくいくかどうかわからないね、となって弱くなります。それぞれのAimについてタイトルと、具体的にやることをわかりやすく述べます。

最後のパラグラフ(1/6ページほど)でまとめます。これをすることで新しい知見をもたらし社会にどんな貢献ができるかを述べます。

モデル図をFig1として、Specific Aimページにつけるのもかなり有効です。

参考
CLIMB Northwestern University
Samples of applications (NIH)

Research Plan

12ページありますので、1ページ目でできなかった詳しい説明ができます。論理的に、つながりよく、読者を導いていきます。ここでやってしまいがちなのが初出の分子なのに急に登場させること。物語を紡ぐのと同じように、丁寧に登場人物を整理して、順に登場させていかないと読者は混乱します。ここを説明するのに必要な分子をなぜ必要なのかどういう役割なのかどういう関係なのか、わかりやすく述べていきます。

ことあるごとにこのプロジェクトのゴールはこれなんだからこういう知見が必要だった、こういうサポートデータがある、こういう文献で担保されている、と固めていきます。このゴールのためにはこういうことを調べるのが必要なんだから、こういうツールが必要、そしてそれをもう持っている、ということも。

ぶつ切りにならないように、うまくつなぎながら私達と同じ気持ち、これをやらなきゃ駄目だよね、というふうに読者を導いていきます。そのためには、急に出てきた知らない分子、知らない言葉などがあると読むのを邪魔して、読者の目を覚まさせてしまいます。わかりやすく、わかりやすく、導いていかないといけません。

Research Planは実現可能なもので、かつ、問題解決に直接つながるもので、独自性があり、サポートデータで実現可能性が保証されていること、予想される結果はなにか、例えばどんな予想外のことが想定されうるか、そういう場合どう対処するか、も詳しく書く必要があります。Anticipated results, possible pitfalls, and alternative approachesといいますが、これはできるだけ詳しく、よくよく熟慮されて、かつワクワク感のある書き味のほうがいいように思います。あまりに予想されうる、あーそうなるよねーというプランは退屈なので。

おわりに

これらが、私がNIHのR01には有効なんじゃないかなと思う、ポイントです。多くのことは他のグラントにも応用可能かと思いますが、AHAやDODやNSFや同じNIHでもビジネス系のSBIR/STTRはそれぞれ求めるものが違うので、書くスタイルも変えていかないといけません。そこはまだつかみきっていないので、コメントは避けます。

あと、少なくとも締め切り1か月前にはラフな下書きは書き上げて同僚に見てもらうのがいいです。辛辣なコメントを出すと嫌がられるからって無難な「Excellent! Well written!」などと言う人は避けて、本音でがつがつ言ってくれる同僚を複数持っておくといいです。お互いの信頼関係を築くのも大事です。自分はプロジェクトについて熟知しているから、説明不足だったり初出の分子を急に説明なしで出していたりしても気づかないんです。初めて読んでもわかりやすいか?というのは人にチェックしてもらわないとなかなか気づけません。

最後に、私もまだまだ頑張るし、もしこれが少しでもあなたの役に立ったら幸いです。お互い頑張りましょうね!

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