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令和6年能登半島地震の余震(大地震に引き続き発生する地震)の震度分布について考えてみた

このたびの能登半島地震で被災された皆さま、ご家族ならびに関係の皆さまにお見舞い申し上げます。

2024年1月1日16時10分ごろに発生した令和6年能登半島地震.地震の発生から1週間がたち,気象庁は1月8日に「令和6年能登半島地震」について(第12報)-引き続き活発な地震活動に注意-」(https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/08a/202401081400.html)という報道発表をしました.

この報道発表では今後1か月程度は大きな地震に注意するように呼びかけています

  1月1日に発生したマグニチュード(M)7.6(最大震度7)の地震から1週間が経過しましたが、地震活動は依然として活発な状態です。今後1か月程度、最大震度5強程度以上の地震に注意してください。
  引き続き、強い揺れを伴う地震への注意をお願いします。また、海底で規模の大きな地震が発生した場合、津波に注意する必要があります。

気象庁「令和6年能登半島地震」について(第12報)-引き続き活発な地震活動に注意-」

過去には本震から1か月程度たってから最大余震が発生した例もあり,まだしばらくは注意が必要です.たとえば,1983年5月26日の日本海中部地震(M7.7,最大震度5,津波は最大14 m)では,本震から26日後の6月21日に震源域の北端付近でM7.1の余震が発生しています.この余震の最大震度は4で,津波も発生しました.

2024年1月1日以降,すでに震度5強以上の地震が本震もふくめて9回発生しています.震源が浅く観測点に近い場合など,M4〜M5程度の地震でも震度5強を観測しています.これまでは局所的に大きな震度が観測される地震もありましたが,また,規模がM6〜7程度だと,さらに広い範囲で震度5強以上となる可能性があります.

余震は本震よりは規模の小さな地震であることが多いですが,それでも震源に近いところでは強い揺れが生じ,被害が発生する場合があります.本震,あるいはこれまでの一連の地震で傷んだ建物や地盤などで被害が拡大することもありえます.本震ではそれほど強く揺れなかった場所でも,余震の震源の位置や規模によっては本震よりも強く揺れることもありえます.

能登半島地震に引き続いて発生する地震で,「最大震度5強以上」になるようなものとして,どのような地震を想定したらよいでしょうか? 令和6年能登半島地震は,震源域が長さ100 km以上と広く,いくつかの可能性が考えられると思います.

なお,ここでは過去の例や,震源の位置や規模を仮定して計算した震源分布の予想を紹介します.ここに書いたとおりの地震が起きるわけではありません.もっと大きな揺れをもたらす地震が発生する可能性もあります.

本震と同じような地震

2016年熊本地震では,規模の近い地震が続けて発生しました.過去の事例のなかでも1〜2割[地震調査委員会(2016)]と割合は少ないとはいえ,注意が必要です.

1月1日の本震と同じような規模の地震であれば,震源の位置や震源過程の違いによる違いは生じる可能性はあるものの,震度7あるいは6強といった強い揺れが能登半島の各所で生じ,新潟県から福井県あたりまで震度5強以上となる可能性があります。1月1日16時10分の地震の震度分布は以下のとおりです(気象庁震度データベースによる)

2024年1月1日16時10分ごろの地震(令和6年能登半島地震の本震)の震度分布(気象庁による)

M7程度の地震(震源域の南西端)

過去の事例のなかでも8〜9割を占めるのは,本震より規模の小さい地震です.このような地震はどんな地震でしょうか?

震源域の南西の端で大きな地震が起きたとした場合の震度分布については,平成19年(2007年)能登半島地震が参考になります.2007年3月25日に発生したM6.9の地震で,穴水市大町,輪島市門前町と鳳至町,七尾市田鶴浜町で震度6強,能登町松波と宇出津,志賀町香能・富来領家町・末吉千古,中能登町末坂と能登部下で震度5強を観測するなどしました.震度分布は次の図のようでした.この地震では,死者1人,負傷者356人,住家全壊686棟,半壊1,740棟など大きな被害が発生しました.土砂崩れや小規模な堰き止めも発生しました.珠洲市長橋で高さ 22cm の津波を観測しました.

平成19年(2007年)能登半島地震の震度分布.

M7程度の地震(震源域の中ほど)

震源域の中ほどで大きな地震が起きたとした場合の震度分布については,2023年5月5日14時42分ごろの地震(M6.5)が参考になります.この地震では珠洲市正院町で震度6強,珠洲市大谷町,珠洲市三崎町,能登町松波で震度5強を観測しました.震度分布は次の図のようでした.輪島港、珠洲市長橋観測点でそれぞれ10 cmと4 cmの津波を観測しました.約7時間後の21時58分ごろにもM5.9の地震が発生し,珠洲市正院町と大谷町で震度5強を観測しました.

2023年5月5日14時42分ごろの地震(M6.5)の震度分布.

もう少し規模の大きな地震についても考えてみたいと思います.ここでは,震源の位置は同じで規模だけをM7.1 (Mw6.6)とした仮想的な震源を設定し,Matsu'ura et al. (2022)の震度予測式(距離減衰式ともいいます.震源からの距離と地下構造,地盤などをもとにある地点で震度を予測する式です.)をつかって震度分布を計算してみました.震度分布は次の図のようになります.珠洲市正院町で震度6強,珠洲市折戸町で震度6弱,珠洲市大谷町,能登町松波で震度5強の予想です.津波も発生する可能性があります.

2023年5月5日14時42分ごろの地震(M6.5)について,震源の位置は同じで規模だけをM7.1(Mw6.6)とした仮想的な震源による震度分布.

なお,K-NETとKiK-netの観測点だけで計算しているので,観測点分布は少し違います.また,この震度予測式では,震度の予測値にプラスマイナス0.6程度の誤差があるとされています.震度階級では1程度違う場合があるということです.

M7程度の地震(震源域の北東側)

震源域の北東側で起きる地震については例になるようなものがないのですが,余震のなかからふたつ選んで,もしこれらがもう少し大きな地震だったとしたらどのような震度分布になるかを計算してみました.

1月3日12時54分ごろ震源域の北東側の深さ約23 kmの場所で,M5.0の地震が発生しました.本震の震源分布が折れまがっているように見えるあたりです.この余震と震源の位置は同じで規模だけをM7.1 (Mw6.6)とした仮想的な震源を設定し,Matsuura et al. (2022)の震度予測式をつかって震度分布を計算すると次の図のようになります.珠洲市正院町で震度5弱の予想です.陸地から離れているため震度5強まではならない予想となりますが,海底下で発生する地震のため,津波の心配があります.

2024年1月3日12時54分ごろの地震(M5.0)について,震源の位置は同じで規模だけをM7.1(Mw6.6)とした仮想的な震源による震度分布.

1月4日4時38分ごろ,震源域の北東端に近い場所の深さ約17 kmの場所で,M4.9の地震が発生しました.この余震と震源の位置は同じで規模だけをM7.1 (Mw6.6)とした仮想的な震源を設定し,Matsuura et al. (2022)の震度予測式をつかって震度分布を計算すると次の図のようになります.震源が佐渡に近いため,佐渡市小木町と河原田本町で震度5弱,能登半島では最大でも震度4の予想でます.陸地から離れているため震度5強まではならない予想となりますが,海底下で発生する地震のため,津波の心配があります.

2024年1月4日4時38分ごろの地震(M5.0)について,震源の位置は同じで規模だけをM7.1(Mw6.6)とした仮想的な震源による震度分布.

(2024年1月13日追記)その後,1月9日17地59分ごろ,震源域の北東端あたりでM6.0の余震が発生しました.最大震度は4でした.上の震度分布とわりと似ていると思います.この余震では一時「津波予報(若干の海面変動)」が発表されました.まだまだ余震に注意が必要です.

2024年1月9日17時59分ごろの地震の震度分布(気象庁による)

その他

大地震のあと震源域から離れたところで地震が起きることがあります.誘発地震ともよばれます.この発生可能性については,東北大学災害科学国際研究所の遠田さんの分析(https://temblor.net/temblor/intense-seismic-swarm-magnitude-7-5-japan-earthquake-15891/ のFigure 6)などがあります.

更新履歴

2024年1月8日:noteで公開.
2024年1月13日:1月9日の余震の震度分布を追加.過去の事例に津波の情報を追加.

参考文献

気象庁(2024)「令和6年能登半島地震」について(第12報)-引き続き活発な地震活動に注意-」,https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/08a/202401081400.html

気象庁 地震月報(防災編),https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/gaikyo/index.html#monthly

気象庁 震央分布 (※ hypoだから震源分布じゃないかとは常々思っている)https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#10/37.608/137.406/&contents=hypo

気象庁 震度データベース検索,https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/index.html

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2016)「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」報告書,https://www.jishin.go.jp/reports/research_report/yosoku_info/

Matsu’ura, R. S., H. Tanaka, M. Furumura, T. Takahama, and A. Noda (2020). A New Ground-Motion Prediction Equation of Japanese Instrumental Seismic Intensities Reflecting Source Type Characteristics in Japan, Bull. Seismol. Soc. Am. 110, 2661–2692, https://doi.org/10.1785/0120180337

宇佐美・他(2023)日本被害地震総覧 599-2012,東京大学出版会,https://www.utp.or.jp/book/b306587.html

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