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月光再び

2022年の「ヨルシカ」ライブツアー『月光再演』2019年の開催の『月光』をリバイバルし、『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』の2作品からなる物語をほぼそのまま再びやることになった。ちょうどハマりたての頃にこのツアーは知っていたが、一般でしか取れず、案の定即完で叶わなかった。そんな諦めたこのツアーを当時のまんまでまたやるのは前代未聞。良く言えば「棚からぼた餅」と言ったところか。そんなツアーの「グランキューブ」こと大阪国際会議場での公演を見に行ってきた。

行きの道中

京都の自宅から会場最寄り中之島までの近鉄、京阪特急の道中では上の2作品以外の曲で「ヨルシカ」とn-bunaさんボカロ曲、楽曲提供縛りでセレクト。ちょうど春っぽい暖かさで「春泥棒」はもちろん、「あの夏に咲け」「雲と幽霊」「初恋」といった夏曲もマッチ。

「逃亡」を中之島線で掛けていると暗めのアーバンな駅の雰囲気とジャズな曲調がマッチしていて良かった。

中之島に着いて会場で物販に行き、大阪駅近辺をぶらついたところで、18時の開場。座席に座り、緊張の面持ちで今か今かと待つ。

幕開け

19時過ぎ、今回もブザーと共に『月光再演』の幕開け。n-bunaさんのかすれ声による語りが始まる。

n-bunaさんの感情の出力が上昇したところで「3月10日、グランキューブ大阪、ヨルシカです」と自己紹介し、『夕凪、某、花惑い』。夕方の新快速でよく聴くお気に入りで冒頭のギターで涙がドッと出てきた。

直後の曲は、タイトルが対になっている『八月、某、月明かり』。今回のライブの映像には歌詞で登場する「東伏見(西東京市)」「小平」などの西武新宿線沿線と黄色い電車、「富士見通り商店街」「関町(練馬区)」といったn-bunaさんゆかりの街並みも出てきた。

『藍二乗』に続いて、『神様のダンス』。東京都心を駆ける中央線快速の流れる景色とサポートキーボード平畑さんの軽快で繊細なピアノはよく似合う。さらに『夜紛い』。こちらもギターの軽快なメロディ、さらに最後の叙情的なフィニッシュが最高だ。

続けて「雨とカプチーノ」「六月は雨上がりの街を書く」「雨晴るる」の雨ソング3連打。選抜されない曲がある中で雨ソング3つ全てセレクトしたのは何か並々ならないこだわりを感じられる。

センチメンタルな語りに続いてはハイテンションな『踊ろうぜ』。レインボーの光の演出が直前とギャップがあって凄まじかった。

続いて『歩く』。でも、曲調は「走ってる」し、普通列車よりは新快速や近鉄特急「ひのとり」など高速の列車が似合う。とはいえ、歌詞でエルマがエイミーの後を辿る物語はグッと来るものがある。それを音楽に昇華すると走るメロディになったのだろう。

さらに『心に穴が空いた』。suisさんの表現力は幅が広いし、n-bunaさんの世界観を繊細に表現しているところが強く垣間見える。

『パレード』は去年1番聴いたお気に入りでギターのメロディやストリングスの音が心地良い。やっぱり1音目で泣ける。

海底のシーンとn-bunaさんの語り、インストゥルメンタル曲『海底、月明かり』。煌々とした「月光」と叙情的な声のn-bunaさんの語りはよく合う。本人は自身の声を「嫌い」だと自虐しているが、僕含め聴いている側はこういうのが良い響きだと感じられる。だから、NHKの特番で声の仕事が入るわけだ。

『憂一乗』に続いていく。suisさんの優しく、抑えめの声、そして、階段に座るビジュアルの雰囲気。ここも良い表現だ。

『ノーチラス』からの語り、そして、この物語の全てを語る「走馬灯」というワードが出たところで、『だから僕は音楽を辞めた』が締めくくり振り返っていく。やはり最後だから、suisさんの歌うボルテージが上がってるような雰囲気が肌身に伝わった。CDよりも何十倍も素晴らしい。そして、グランドフィナーレではsuisさん、n-bunaさんにスポットライトが当たって我々に向けて無言の一礼。「ヨルシカ」らしいこの瞬間、また涙が溢れた。

自分とリンクする街並みと電車

今回の物語ではn-bunaさんが上京してからのゆかりの地「関町」「東伏見」「小平」「富士見通り商店街」といった街並みや西武新宿線、中央線のオレンジ色の快速電車が映像で登場するなどした。前回の「1両の列車」同様またもや鉄道がところどころ出てきた。さらに僕自身のゆかりである大阪北摂や今の京都の自宅に近い伏見区桃山の商店街や通りの光景が非常に似てると感じる。

かつて、「東伏見」「小平」を駆けた元西武線。現在は大きな湖のほとりで余生を過ごす。

加えて、西武線は僕の故郷を走る近江鉄道(写真)の親会社で在籍車両の中には実際この風景を駆け抜けた過去がある。前回は田舎の風景が僕の故郷とリンクしたが、今回もいろんなところが僕の過去や好きで豊富な鉄道知識を通じていろんな発見があった。その他にも「生死」を考えるシーンも安定だし、今まで分からなかったこれらの作品の集大成の姿を2年越しに目撃できた。1時間半という制約上出てこなかった曲もあったが、今回もたくさん泣かされて、非常に良いライブだった。次はどんな物語を見せてくれるのだろうか。

帰り道の京阪と近鉄でも、「ヨルシカ祭り」な選曲。京阪の全席指定列車「ライナー」に乗って香里園こうりえん(寝屋川市)を通りかかったときに『八月、某、月明かり』を掛けて外を眺めた。寝屋川市駅付近の高架や香里園の踏切とそばの商店街を曲のようなトップスピードで駆けるのがどこかその曲っぽくて、図らずも似合ってしまい、涙腺が緩む。物語とは全く違う土地ながら、ヨルシカの世界に耽る気分だけは北陸線、JR奈良線、近鉄、メトロ、阪急などでいくらでもできる。

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。