バランタイン17年

時々、朝4時くらいまで父と話し込む。

だいたいは似たような話で、父親の昔話。昔聴いた音楽、見たテレビ、好きだった人、行った国、若い頃の「ヤンチャ」話。

よくもまあそんな遅くまで話すことがあるよなぁ、などとスマホを片手にふんふんと聞いてる(聞いてないとも言える)のだけれど、音楽やテレビの話が出た時だけ検索してみる。

「昔なぁ、玉ねぎたまちゃんっていう曲があってなぁ」と父親が言えば、「玉ねぎたまちゃん 歌」で検索する。

全然タイトルが違ってたりするのだが、面白いことにだいたいどの音楽も、誰かがYouTubeにアップロードしている。物好きもいるものだなぁと思う。

そんな話をしながら父親はずっと缶ビールを飲んでいるのだが、昔話の中の父親は、スコッチウイスキーが好きだったらしい。新入社員だった頃、職場の近くの居酒屋やスナックで上司と浴びるほど酒を飲んだとか、上司がスナックにストックしているダルマ(サントリーオールド)を勝手に飲んだり、ちょっといい店に行ってウイスキーを飲んだり…
そのなかでも、「バレンタイン」が好きだと父親が言う。飲みやすくて、クセがなくて…
「バレンタイン ウイスキー」で検索したら「バランタイン」と読むらしいとわかったけれど、父親はずっと「バレンタイン」の話をしていた。

父がウイスキーを飲まなくなったのは、高いからだ。度数も、値段も。

毎日アルコールを飲むせいで、朝起きられなくなってバカラのグラスを母に割られた、という話もある(その後両親の結婚25周年にバカラのペアグラスをプレゼントした)。

ただ、時々出てくる「バランタイン」が気になって仕方なくなった。

だから、アルバイトをして稼いだお金でバランタインの17年を買って、父親に見せてみた。
「あんたが買ったんけ、金持ち」と皮肉のような言葉を言われたが、ことあるごとに「まだ飲まんのけ」と催促してくるようになった。しめしめ。

元から父親と一緒に飲もうと思って買ったお酒だった。だから、金曜日、翌日どれだけ寝てても支障がない時に開けて2人で飲んだ。

やっぱ美味しいな、と父が言う。ゴクゴク飲めるわけじゃないな、と私は思った。
でも、このお酒は好きだ。父が教えてくれたお酒だから。

もうすぐ社会人になって、いつか家を出る。
でも、たまにはバランタインを差し入れて、また2人で夜通し話をしたいと思う。そのときには多分、私もできる話が増えているはずだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?