見せ物

 これぜんぶきみがつくったの?
 知らない男にいきなり話しかけられて、百はおどろく。はい、私がつくりました、と答えるのに、少し間をあけてしまう。
 おもしろいね。
 男はそれだけ言って、百のつくったものを見続ける。
 どれくらい時間かかったの。
 だいたい、一時間くらいですね。
 へえ。そんなあっという間にできるんだ。
 男に関心があるのは事実なのだろうが、しかし自分のつくったものを他人が興味を持つことなどはじめてだったから、百はずっと居心地の悪さを感じていた。
 べつに見せ物ではないが、隠しているわけでもない。本当のことをいうと、誰かに見てほしかった。それでも見られるのは恥ずかしかった。
 なんでつくろうと思ったの。
 とくに理由はないんです。理由も、きっかけもなくて。
 百がそう言うと、男は笑った。そんなことってある? あるんです。でも、きっかけくらいあるでしょう。いや、ないんです。百はそう言いながらどうしてか泣きそうになった。
 そんな百の様子を見て男はしばらく黙った。なにかを考えこんでいるようだった。二人の後ろを子どもたちが通る。子どもたちのひとりがサッカーボールを持っていて、それを勢いよく蹴って公園に入っていく。百は公園の入り口に突っ立っていて、そこで男に話しかけられた。だれかを待っていたわけでも、用事があったわけでもなかった。百はなんとなくそこにいただけだった。八月の、外に出ただけで汗をかいてしまう、真夏日だった。
 

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