見出し画像

ビッグモーター不正から何を学ぶか

 聞けば聞くほど、うーむという感じではある。
 社長がとんでもない!罵詈雑言のLINEがやばい!副社長はどうしているんだ!なぜビッグモーターの前だけ緑が消えている!記者会見がひどい!知らなかったとはなんだ!水増し請求の手口がひどい!損保会社は被害者ヅラできるのか!、、、などなど、ツッコミどころ満載だ。

 私は大学教員として「倫理観」という授業を担当する。このケースは間違いなく授業でとりあげるべき問題だと感じている。では私たちはここから何を学ぶべきだろうか。そして社会人として、この問題をどう活かしていったらいいのだろうか。

■こういう会社が現に存在する。きっとたくさんある。
 当社の問題点は色々あるが、まず考えるべき課題は当然ながら「保険金不正請求問題」だ。もちろん、店舗の前の緑が消える「環境整備」問題も解決されるべきではあるが、ことの軽重が違う。

 保険金不正請求問題は言語道断で、「ありえないことだ」と思うだろう。しかし、不正は、常に世の中で起きている。不正は、なくならない。起こるべくして起きている、ということだ。だから、これはビッグモーターの問題であるが、ビッグモーターだけの問題ではない。たくさん存在するのだ。

 なぜこうした問題が起きるのか。

■全ては経営者の無能に帰する。
 まず「過度な目標達成至上主義」が背景にある。目標達成に全社員が一丸となるのは素晴らしいことだが、それが目的になるとよくない。そのボーダーはどこにあるのか。

 「何のために働くか、何のために目標があるのか」が共有できているかどうか、だと僕は思う。簡単にいえば、企業はすべからく、お客さまの笑顔のために働くことで、お金をいただく、ということだと思う。それが理解できていないと、ゴルフボールで車を傷つけたりすることになる。

 ここを前社長は全く理解していなかった。これは「お客さまへの冒涜」でしかないのに、彼からすれば「ゴルフを愛する人への冒涜」になってしまう。無能な経営者が目標だけを掲げる。それじゃダメよ、ということだ。

 そしてそのために、「ルールを守る」が大前提。ルールを守れない会社は、存在する意義がない。それがなぜできないかというのが、まさに会社の倫理観だ。「何のために働くか、何のために目標があるのか」を理解せず、ただ目標を達成することが重視されると、「ルールを破ろうが、目標を達成する」という優先順位になっていく。

 そして、「ヒエラルキー(階層制)に対する勘違い」も背景にある。組織は多かれ少なかれヒエラルキーがある。しかしこのヒエラルキーの捉え方を勘違いすると、組織は腐る。
 ヒエラルキーは、意思決定の権限と責任を明確にしているものだ。上位レイヤーにいけば、目標を達成していく責任が増し、一方で意思決定の範囲が広がり、より重要な問題を意思決定する権限を持つようになる。

 ここを勘違いすると、自分は一番「偉い」存在で、幹部や従業員に何を命令してもよく、恐怖で従業員を支配する、というバカ経営者もどきが生まれる。そしてそういうバカ経営者もどきは、「経営計画書」なるものをつくり、「幹部は部下に対する生殺与奪権を有する」などというアホなことを社員に日々伝えることになる。そして副社長は、感情の赴くままに降格人事を繰り返し、経営者や幹部たちはLINEで罵詈雑言を繰り返すようになる。それが許されると勘違いしていく。

 次第に、従業員はどんどん「社会とはそういうものだ」と順応させられていく。無知で無能なバカ経営者につくと、とにかく我慢してバカ経営者やバカ幹部の言うことを思考停止して聞かざるをえなくなる。結果、お客さまのためにやるべき仕事が、ヒエラルキーの恐怖による支配に応えるものとなっていく。

 全ては、経営者の無能に帰するのである。

株主が代わり、経営者が変わっていかないと会社は変わない。
 当社の諸問題は、全ては経営者の無能から生まれた。では経営者が変わったらいいのか。残念ながら、当社の株主は前社長と前副社長の親子である。ここが変わらないと、おそらく何も変わらないだろう。

 そして、以前の体制で一生懸命結果を出してきた人間が後任の社長になってもきつい。以前の体制を全否定できないし、経営の何たるかを学んできたのはおそらく前社長からのみであると、それは全く間違いなので、それこそ学び直し(リスキリング)が必要だ。それができていないから、まず打った一手が、会社のLINEを説明なく全て消す、という意味不明な打ち手になっている。

 前社長と副社長は、経営を辞任したとしても、現時点では、株主であることはやめようとしていないようだ。ここが変わらないと、何も変わらない。

そのカギを握るのは、顧客と従業員だと思う。
 
こうした会社がこのひどい状態のままで存続するのは社会にとってマイナスになる。かといって、中古車流通で相応の影響力を持った会社でもある。無邪気に「このまま潰れればいい」というわけでもない。

 そこでカギとなるのは、まずは顧客だ。顧客はまず、別の会社に行こう。中古車を買おうとすると、事故車を高く押し付けられる可能性がある。中古車を売ろうとすると、安く買い叩かれる可能性がある。修理をお願いすると、ゴルフボールでさらに傷つけられる可能性がある。だから、別の会社に行くべきだ。

 そうすると、売上が減ってくる。業績が下がる。

 そのうえで、従業員の皆さんは、その状況をどう乗り越えるか、みなで必死で考え、議論し、実行していくべきだ。もちろん、転職するのもありだろう。もう、この会社が標榜していた数千万円の高い給料など、望むのは無理だ。何せ、不正をして得ていた高給料だから、世間が絶対に許さない。
 ただ、この会社が好きで働いている方もたくさんいるだろう。一人ひとりの力を結集すれば必ず会社は立ち直れる。自分たちに主体性を取り戻し、自分たちで会社を再起させよう。そのためにできることを全部やろう。

 それによって業績が上向けば、株主は何も言わなくなるだろうし、それでも業績の低下が続けば、株主は会社の株を手放さざるをえなくなるかもしれない。そして前社長、副社長の影響力が切れたところで事業再生が行われれば、立ち直れるかもしれない。それはそれで望ましい。

 だから、カギは顧客と従業員の皆さんだ。特に従業員の皆さんには、何のために会社は存在するのか考え、考え方を変えていこう。リクエストいただければ、僕もこの会社の再生のために、できることをしたい。

最後に
 改めて、僕はこういう無能な経営者が世の中に存在していることを知り、そして改めて世の中にはおそらくここまでではないとしても近い会社もあるのだろうか、と想像すると、世界の幸せのためには、やるべきことがたくさんあると痛感する。

 社会も、顧客も、従業員も誰も嬉しくない。ただ、経営者が我欲を満たすだけの経営は、この世の中から撲滅させていく。そのための戦いを、本格化させる。

 心配はしない。全部、上手くいく。そう信じて。
(photo by aflo)

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?