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人生で重要なイベントは大抵紙っぺら1枚で済んでしまう

 今日遂に、はじめてメンタルクリニックを受診した。
 ここ数年、気分にムラがありメンタルが不安定になっているのを感じていた。とんでもなく鈍感なため、メンタル崩壊ギリギリまで気づかず、気付いたころには受診する気力もない状態だった。崩壊前に受診を選択できた自分を、ムツゴロウさんが動物と戯れるときのように、よーしよししてあげたい。


 予約したクリニックは木目性を基調とした内装で、驚くほどに落ち着いた雰囲気だった。というのも私が入ったとき、待合スペースには一人もいなかったからである。正直ほんの一瞬「あれ?ここ大丈夫かな?」と後悔した。ほんとちょっとだけね。主治医の先生は話しやすい方で、診察はスムーズに進んだ。先生の苗字が「坂ノ上」だったので、“坂の上のポニョ”が流行った時期にはきっとポニョとイジられていたかもしれない、もしかすると今もイジられているのかも、という妄想をしている間に診察は終わった。
 そしてお会計の際、『適応障害』と書かれた紙っぺら1枚を受け取った。まず適応障害とは?と思った方は以下の説明を読んでみてほしい。

 適応障害とは、自分の置かれた環境にうまく慣れることが出来ず、不安感や抑うつ気分、不登校、出勤拒否、対人トラブルなど、様々な症状・問題が出現し、社会生活に支障をきたす状態。
そばにクリニック大井町:適応障害とはより引用


 適応障害だとは自覚があったため、やっぱりかという感じであった。それよりも人生において重要なことは紙っぺら1枚で決まりすぎではないか。
 この診断書1枚で私の休職が正式に決定する。出生届で人一人が存在するという証明となり、死亡届で人一人が存在しないという証明となる。結婚届で夫婦として認められ、離婚届で赤の他人となる。その1枚を完成させるまでには、多くの苦悩と勇気が必要で、この世に存在する唯一無二のドラマがあるはずなのに。そんなドラマもお構いなしに、たった紙っぺら1枚で手続きは済んでしまう。紙っぺら自体はとても軽いのに、そこに内包しているドラマはとてつもなく重い。1話が1時間以上の長さにも関わらず、54話まである“チャングムの誓い”ほどの重さである。いや、もっと重いかもしれない。

 そう考えると、書類を処理する役所の方は毎日膨大な量のドラマを受け取っているとも言える。本人たちにその自覚はないにしても、人生の一部を凝縮した最終形態の書類を受け取っている。その紙っぺら1枚に辿り着くまでの過程に、少しでも想像が行き届けば、書類を処理するという単純作業も悪くないのかもしれない。今から公務員ありかも。

 クリニックから自宅までの帰り道、そんなことをふと思ったのであった。そういえば、今日の空はとても夏らしくて美しかった。

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