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事々交換

2023/10/29

午後、六本木で。

グッドデザイン賞を見てきた。たくさんの作品を見た。どれも人間の行為を支えるコトモノたちだ。

見ていく中で「なぜ、便利や省エネが持て囃されるのか?」という疑問が出てきた。
それは、その余財をもって「賢さ」と「時間」を手に入れることができるからだと考える。
例えば、原初的行動である料理は、愛情のやり取りの場と、教育・学習機能を備えた。一緒に心地よきもの、充実した気持ち、優しさという情緒、幸福感を手に入れた。

人間になってから料理を始めたわけではなく、人間は料理することで人間になった。私たちは当たり前の行為によって、人間になったのだ。

土井善晴, ケの美

しかし、モノであふれる今、当たり前の事と物、またはその行為は、膨大な情報という刺激的なものに打ち消され、すでに見えにくく、感じられにくくなってきている。

それでは、今の私たちは何に価値を求めているのだろうか。場所と行為の複合体「体験」を通して、その価値を再確認しているのかもしれない。

多くのステークホルダーとつながることも私たちの印象深く記憶に残る。これも新たな「体験」だ。地域や住民など様々な利害関係者を巻き込んだプロジェクトも数多くみられた。特に、建築ではそれが求められているのだろう。

2023年度のグッドデザイン大賞は、地域の人たちが、気軽に立ち寄ることができる縁側のような老人デイサービスセンター『52間の縁側』。高齢者や子供、地域住民の誰にとっても居場所であり、困ったときに福祉の地域拠点となる。

2023年度のグッドデザイン大賞は、老人デイサービスセンター『52間の縁側』に決定! (g-mark.org)

共生型デイサービスを目指す当施設では、介助が必要な高齢者と一緒に、さまざまな事情で家庭や学校に居場所のない子どもたちなど地域の住人も、食事やお風呂など共に過ごしています。その代わり共に暮らす住人は、施設のお手伝いをするシステムです。

新しい介護のシステムを提供したともいえる。場所の提供の代価に介護をお手伝いする。金銭に変換しない新たな物々交換だ。いや、事々交換といえる。

現在失われつつある、「日常の営み」という生き物の秩序の中に現れる美しさにフォーカスを当てた温故知新的なプロジェクトとも捉えられる。

昔を顧みることは、人間の原初的な行為や価値を探求することだと考える。ただただ居心地が良いもの。縁側のような日常を共にすることは、日増しに味わいを深めることにつながり、やがて愛着へと至る。

以下から、簡単に印象深かったプロダクトやサービスを紹介していこうと思う。

閉じるのが楽な傘。 傘閉じるときに止める必要がない、ありそうでなかった商品。

浮力をコントロールして自立する360度カメラ。
浮遊生物みたいで可愛い。これから水中撮影を行うムーブメントを作り出しているプロダクトとも言える。

「構造色インクジェット技術」は色素を用いず玉虫色を発色する印刷技術である。半透明で色を重ねることで色の変化を楽しむことができた。

構造色は、自然界ではモルフォ蝶の羽や貝殻などに見られ、光が干渉・分光することで、見る角度によって色合いが異なるのが特徴。

https://chizaizukan.com/property/685/

ロービジョン向けの網膜投影カメラキット 「見える」という機能的目的ではなく、美しい風景に感動したり、誰かとシェアしたりなど写真に付随する楽しさを引き出している。
網膜投影という技術は度を補正するという限定的な対象者向けではなく、健常者にも使えるため、様々な視覚アプリケーションへの応用が見込まれる。

造形美とコンセプトが一目でわかるプロダクト「HOTAMET」。シンプルだが、流線的な造形がとても美しい。貝の魅力も伝えている。

パッケージデザインと「うんち」というパワーワードの衝撃が大きいプロダクト。独創的な世界観で、本来捨てている「糞」を生まれかわらせた点が印象的だ。

樹脂パッドの蒸れるという「通気性の悪さ」に着目したプロダクト。なんといってもその軟らかさにびっくりした。本当にもちもちだったのだ。

これからのプロダクトやサービスは目に見えない価値同士をつなぐ「事々交換」の橋になるかもしれない。

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