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歩く、赴く、移動する

2月25日、東京都現代美術館 MOTコレクションの「歩く、赴く、移動する 1923→2020  特集展示 横尾忠則―水のように  生誕100年 サム・フランシス」を見てきた。

東京都現代美術館では、戦後美術を中心に、近代から現代にいたる約5700点の作品を収蔵しているとのこと。

今回、この展示会に興味持った理由は、率直にいうと、「サム・フランシス」が好きだからだ。この展示会のポスターに惹かれたというより、その中の一部のアーティストの作品が見たい気持ちが強い。野外フェスのようなものだ。

一見、ごちゃごちゃしていて、何がテーマなのかよくわからない。様々な作品を展示したいため、無理やりこじつけで「移動」という共通項を当てはめたと思えるかもしれない。そのため、「サム・フランシス」や「オラファーエリアソン」など名だたるアーティストの作品が見られるという思いの方が強いのかもしれない。
だが、それもしょうがないとも感じる。たくさんの作品がある中で、共通性を見つけるのも大変だろう。
ポスター自体もかなり魅力的である。ポスター自体、「歩いている」ように感じる。コラージュのように様々な作品を散りばめている。ぱっと見、どこに資産を持っていけば良いのかわからない。

一見、まるで竹のように見えた。カラフルな竹がぽきっと折れているシーン。サム・フランシスの絵は生き物らしさを感じさせる。しかし、無生物のような幾何学的な図形も見出せる。

静的であり動的。その「余白」が好きだ。全体の構図の安定さ、さらにどの一部を切り取っても絵として確立する。

自己のイメージを肉感的な表現に還元した彼の作品はつい足を止め、引き寄せられてしまう。

サム・フランシスのメイキング動画を見ると、ジャクソン・ポロックの「アクションペインティング」のように身振りをしながら絵の具を飛び散らせたり垂らしたりして作品を描いていた。決定的に異なるのは、空間性(余白、間)であろう。

サム・フランシスは1957年に日本を訪れてからは、その作風に日本美術の影響が表出し、「余白の美」を作品に置いたオリジナルな表現を獲得したそうだ。

横尾忠則は、1960年代からグラフィック・デザイナー、イラストレーターとして活躍し、80年代に絵画に主軸を移して以降現在にいたるまで、幅広い分野でたゆみなく制作を続けている。今回は作品のなかの「水」の表現に注目している。

「横尾忠則―――水のように」という文字がカーブを描いている。イントロダクションの枠も丸い。全体的に有機的な印象を与えているディスプレイの仕方だ。

広い空間にずらりと横尾忠則の作品が並んでいる。この部屋に入るだけで横尾忠則の「色」を体感できるだろう。60年以上に及ぶ活動のなかで、「水のように」千変万化してきた横尾の作品のバリエーションの多さに驚きさえも感じる。

この鏡面世界と現実世界が入り混じった作品になぜか惹かれた。まるで鏡の国のアリスだ。一見ごちゃっとしているが、2つの世界の輪郭が脳内で補填されていく。「補填作業」までも誘因する、不思議な絵だと感じた。

こちらは触れる作品だ。その規則的な釘が織りなす摩訶不思議な曲線たち。視覚的にも美しいと感じるのと同時に、触覚的に作品を堪能することができる。作品を通して鑑賞者の「拡大」を感じた。

2020年、移動の自由が制限されていたコロナ禍におけるMOTでの個展に際して制作されたオラファ―・エリアソンの作品である。

ぱっと見、地図のようだと思った。6つあり円形の枠組みの中に、ニューラルネットワークのような線が引かれている。しかし、よく見ると、それぞれ引かれている線がわずかに異なる。オラファ―・エリアソンの作品の醍醐味はそのメイキングプロセスにあると考える。この作品は自然と「どうやって作ったのだろう?」と考えさせられた。

福田尚代(1967-)は、書物や郵便物などを素材に、言葉や文字にまつわる作品を制作し続けている作家である。幼いころから本と親しみ、大人になるまでは「夜年ヴェルヌの『海底二万海里』を開かずには眠れなかった」という福田は、そうして繰り返し読んだ大切な本のページを切り落とし、紙に針を通し、刺繍糸で小さな結び目をいくつも連ねていく。福田は「言葉が内包する景色に挟まれつつ、蛇行する筆跡を奥へ奥へと辿っていく」と語っている。こうすることで、本と自らを一体化させていくような感覚に浸ることができるだろう。

福田尚代「ひかり埃のきみ美術と同文」平凡社、2018

現代に生きる本を素材とする作品は、まるで本から「藻」が生えているように見える。商業ビルのような建築模型のようにも見える。確かに縫い付けることで言葉を反芻している作業に置き換えることができるのではと思った。このような一体となる感覚を作品を通して静かに伝えているのだなと感じた。

多種多彩な作品とともに、思い思いのひとときを過ごすことができる展覧会であった。

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