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ぼく(ら)が旅に出る理由

毎週木曜日はバイトまでの空き時間を大学構内のカフェで過ごしている。店名は小説の『白鯨』に由来しているらしい。空席が無いほどに込み合うこのカフェにもバンドTシャツを着た人は何人かいる。あの席に座っているガンズのTシャツを着たあの子は果たしてその楽曲を聞いたことはあるのだろうか…。


『1980年のベストアルバムトップ100全部聴く』の感想

SNSの正しい利用法により、時代を越えて楽曲を聴くという楽しみ方の扉の前にいざなってもらった。その扉を蹴り開けて聴いた100枚のアルバム。コンパスになったのは音楽雑誌Rolling Stone誌が紹介する100 Best Albums of the Eighties。その中から直感的に何かを感じた作品を稚拙な言葉を駆使してなるべく詳細に書きたいと思う。

Sun City/Artists United Against Apartheid
(100位)

一枚目がこれで良かったと思えた一曲目”Sun City"。それはmillennium paradeの楽曲”NEHAN”や”WWW”でのsaxの音の使い方に似ていたからだ。

正直このアルバムの印象はこの曲が強すぎて、あとは管楽器響いてたなーとかRon Carterのベース気持ちええとかしか覚えていない。勿論全曲良かったけれどアルバムという観点では見ることが出来ていないと思う。それでも1985年にリリースされた曲Sun Cityと2020年代メインストリームで人気を博している常田大希が手掛けた”http://”に収録された曲とがリンクしているという事実を感じられた。アルバムを通していわゆる”縦軸”を感じられたことはスタートとしては上々だった。

Freedom/Neil Young
(85位)

ギターをかき鳴らすだけでここまで観客を引き付けられる姿は全シンガーソングライターの憧れだろう。決して綺麗ではない、けれど優しさはあるドブネズミみたいな美しさを感じた。

Let’s Dance/David Bowie
(83位)

最古のロックスターという印象があった。そんな人が出したアルバムだから昔カーステレオから流れていたよく分からない古いロックだろうと高を括っていた。だが実際は、Chaina girlのLet's Danceとの誘い文句にまんまとのって踊り出してしまいそうなほど心を掴まれた。

1984/Van Halen
(81位)

音楽に詳しくない人でも聞いたことはあるであろう名曲"Jump"が収録された一枚。間違いなくギターヒーローの立ち位置だったんじゃないかと思う。随所で使われるキーボードからの高音がハードロック、ヘヴィメタルのギターの良さを隠すことなく、その実態を中和しているように感じた。

Suzanne Vega/Suzanne Vega
(80位)

個人的に女性のシンガーソングライターに一番期待することは声の独自性だったりする。とにかく聴いていて心地の良い歌声だった。消毒のための加工がされた水道水の綺麗さでなく、自然の湧き水のような綺麗さを感じた。当時のロック隆盛期において若干25歳の女性が表れたことに2022年に聴いている22歳の若者は感謝している。雑誌には歌詞の面での評価も書いてあったが、現時点の能力では理解できないことが残念でしかない。

Dare!/The Human League
(77位)

今までは言語化できていなかったジャンル「ニューウェーブ」を知った一枚。YMOっぽいなぁという感覚に、それに相当するNew Waveという言語が付与された。音楽的にも不快な音が無く、なじみ深い電子音が非常に聴きやすかった。

She’s So Unusual/Cyndi Lauper
(75位)

いかにも80年代のポップという印象。Spotifyの再生回数が多い”Time After Time"や”All Through the Night”などに感じられるニューウェーブの気質が関係しているのだろうか。とにかく80’sの好きなポップスの共通項が多く含まれているような一枚。

Sign o’ the Times/Price
(74位)

度肝を抜かれた。アルバムを聴いて衝撃を受けた経験はKID A以来初めてだった。こんなアルバムが74位に甘んじているとはこの先どうなるのかと不安になるほどだった。そんな印象だったからこそ、もっと上位にランクインしていてもおかしくないと思っている。ポップの要素を含む全作品に影響を与えたと言って間違いないだろう。楽曲ごとに顔を変え、しかし唯一無二である声。今聴いても古さを感じさせないメロディやベースの音。どのような言葉で表してよいのか分からない、ただ何度も繰り返して聴くことでその答えを見つけよう。

Radio/LL Cool J
(69位)

今ランキング初のヒップホップ作品。ヒップホップ作品はあまり聞いたことが無いので感じたことに自身は持てないが、かつてタモリが笑っていいとも!でRUN D.M.Cを前に披露した中国人ラッパーの物真似を思い出した。つまりはヒップホップ、ラップの基礎基本がすべて詰まっていた作品なのではないかという仮説が生じている。

Daydream Nation/Sonic Youth
(45位)

ここまでのランキングを聴いてきた中で明らかに異質だった。聴いたときに本当に「あ、間違えた」と確認してしまった。88年に出された音とは思えないほどのメロディや現代にも通ずるギターの歪み方。脳が騙されるほどの洗練されたロックを聴けた。

Document/R.E.M
(41位)

このアルバムを聴くまでR.E.M.のことは存在しか知らなかった。何故知らなかったんだと不思議に思うアルバムだった。知識も経験も足りないけれど80'sと90'sを繋ぎ、そして先のロックに影響を与えていることくらいは分かる。自分が「最近の音楽」と思っていたジャンルは既にしっかりと歴史が紡がれていたのだ。

Kill ‘Em All/Metallica
(35位)

別にメタルは嫌いじゃない程度で、よく聴いてきた訳でもない。それでもこのアルバムはメタル特有の喧しさを感じることなく聴くことが出来た。それは各人の演奏スキルの高さ故だと思う。演奏スキルがとっても重要な要素なんだと確認させられた。

Zen Arcade/Hüsker Dü
(33位)

始めはドイツか北欧のバンドかもと思っていた。どちらにせよ、80'sで鳴らせる音じゃない気がした。カントリーロックかと思えば曲をおうごとにギターの歪みは大きくなるし、ドラムから出るシンバルの音がいい味出すし、好みではないけれど凄いアルバムということは感じた。

Appetite for Destruction/Guns n’ Roses
(27位)

野生の部分をくすぐるサウンドが多いアルバムの一曲目がwelcome to the jangleは一周回って面白い。意図してのサウンドによって人が熱狂する要素が詰まっている。特にギターが野性的サウンドの軸になりつつ、高音域の半ば叫びのような声がそれを更に加速させる。本能をくすぐられる快感を味わえる。クリームたっぷりの期間限定品を飲んでるあの子は絶対聞いてない。

New York/Lou Reed
(19位)

岡村靖幸みたいだなぁというのが第一印象。歌詞をメロディに乗せきらず、かといって話し言葉な訳でもない、ラップでもない。そんな歌詞の乗せ方が好きだった。そして1975にも通ずるメロディは80'sの洗練されたロック、ブルースを感じさせる。曲が進むにつれ曲の重厚感が増していく。ふと気がつけばとても重いドラムとベースが身の回りを旋回している、そんな感じ。

Synchronicity/the police
(17位)

ちょうどこの企画を行っているとき「ストレンジャーシングス」にはまっていた。(2週間で全シリーズ見た。)

時代設定が80年代なのでこのランキングに出てくるアルバムからも多くの楽曲が利用されていた。そのうちの一つがEvery Breath You Takeだった。しかしその一曲だけが魅力的に聴こえ、アルバム全体としては正直な所は分かっていない。それでも書きたいアルバムだった。

It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back/Public Enemy
(12位)

現代に及ばない点は多くあるものの言葉の乗せ方は完全にヒップホップの重要作品と分かるもの。矢継ぎ早やけど聞きやすい、分からない言語でもその熱を感じる。聴衆を先導するためのアルバムのように感じた。

Thriller/Michael Jackson
(7位)

そもそもこのアルバムが1982年、今から40年前に発売されていたこと自体に驚いた。以前Twitterで聞いた「アルバムの凄さとは」の説明に「収録曲の強度が高い」というものがあった。そこで例に挙がった作品はNirvana「Nevermind」小沢健二「Life」などだったが、このアルバムもそのうちの一つだろう。
このアルバムを聴いて一番に「この後にこれはある意味ポップアルバムの幅は狭まっただろうな」と思ってしまった。勿論そんなことは無くて、これ以降にもポップは進化し続けている。ただ40年たった今でも燦然と輝いているだから仕方ないのかもしれない。

Born in the U.S.A./Bruce Springteen
(6位)

これぞアメリカ!という言語化し難い感覚を突きつけられた。このランキングに多数出てきたBruce Springteenのアルバムで一番好きだった。ここまではThe80年代というロックを鳴らし大きなフックは感じられず、これを聴くまでは嫌いになりかけていた。ロックンロールの古いオーラを纏っているもののそれが不快にならない。アメリカの偉大さに認識しながらも、それに溺れることの危険を力強く訴えていることが言語の壁を越えて伝わった。音楽的には好みではないが、それでも凄いと認めざるを得ない。

The Joshua Tree/U2
(3位)

なんたる英国紳士っぷり。と思ったら正確にはアイルランド発のロックバンドだった。何を以てイギリスを感じたのか。一番わかりやすい最近の事例はBeing fanny in a Foreign Language/the1975のジャケ写だろうか。白黒のメンバー中心の写真と横方向を意識させた車とMatty Healyの写真。

oasisやcold play、勿論the1975のサウンドにもその遺伝子らしきものが伺える。これだけでイギリスの歴史の上に立っているバンドだと決めつけるのは早計だろうか。
とにかくUKロックを聴くうえで欠かせない存在だということはヒシヒシと伝わった。多少古めかしさはあるが、それを超越した格好良いベースの音とメロディ。アルバムにストーリー性があるってこういうことかもしれないとも。

Purple Rain/Price and the Revolution
(2位)

圧倒的にストリングスが上手い、上手すぎる。テンポがゆったりとしている中で感情の上下を作ることで壮大な曲に仕上がっていて、人を飽きさせない先端の音楽が鳴っていた。ライブ映えするだろうなぁという終盤へのもっていきかたも含めてアルバムの完成度が高い。プリンスにどんどん惹かれていく。

London Calling/The Clash
(1位)

久々に混乱するアルバムを聴いた。得体が知れない。今まで聞いてきたパンクとかガレージロックとジャズも?入っている事は分かる。けれどそれらがどう作用しているのか把握できない。多分想像以上に多くのジャンルがとても緻密に融合されていて。良いと分かるけれど、なにが何故良いのか分からない。最後の最後に「鍛え直せ」と言われたような感覚。


個人的ベスト3

No.3 London Calling/The Clash

良いと分かるのに、何故か分からないというもどかしさを残されたアルバム。ほぼ初めての経験をランキング1位に与えられるとは思わなかった。

No.3 Thriller/Michael Jackson

King of Popというあまりにも大きすぎる看板を難なく扱える姿に圧倒された。40年前から現在まで劣化する事のないthrillerをアルバムとして聴くことが出来たことに大きな意味を感じた。

No.2 The Joshua Tree/U2

かつて挫折したU2に再度挑戦して良かった。イギリスに根付く国民性やそこから生まれる音楽性を垣間見た。そして何よりアルバムのストーリーを認識する大きな手掛かりになった。

No.1 Sign o’ the Times/Price

明らかにもっと上位で良い作品だ。ポップロックの形を作ったアルバムだろうし、何より今に繋がるサウンドを感じられる。音楽ジャンルの融合を成功させた完成度の高いこのアルバムが個人的No.1だ。


アルバムを100枚聴く極めて個人的な企画。感謝すべきはTwitterで匿名にもかかわらず質問に答えてくれた方。そもそもアルバムを通して聴くことなどほとんど無かった身からすると新鮮な営みだった。ただただ楽しい音楽から、何が良いのかを考える楽しさに出会ってしまった。音楽の旅はまだ続く。Don't mind the sign of the times.

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