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「クイズとき子さん」

クイズとき子さん

放送 中京テレビ無料アプリ「Chuun」/Hulu/2017年?

概要
・コップのフチ子さんなどで知られる漫画家タナカカツキさんの創作。絵コンテに自身の朗読をつけて、小規模な作業でアニメーション作品として成立させている。これを原作にプロの声優などを揃えて作ったアニメーション版もある。

・クイズの作出を職業とする会社員のとき子さんと、家族や同僚が織りなす群像劇。とき子さんは身の回りのものがキチンと整列していないと気になってしょうがない性格で、しばしばトラブルに。小さなトラブルが次第に大きくなって…。

・様々なクセを持った人たちが、社会とどう折り合いをつけて生きていけばよいのかというテーマを、登場人物を通して生き生きと描いている。1話5分程度で全67話。ちなみにコチラで見られます。https://chuun.ctv.co.jp/program/11#

感想
コンテンツ制作者のとても斬新な試みを発見した。面白いものであれば、形はどうあれ作品にできる、してもいいという希望を与えてくれる。加えて、地方局がそれにスポットを当てている。Huluで配信するオリジナルコンテンツにまで昇華させている、とても示唆に富んだ作品。

紙媒体だ、動画メディアだ、4Kだ、8Kだと騒がしい時代です。はい。弊社も4Kのレギュラー番組を担当させていただけることになり、カメラを新調したり、PCのグラボを買い替えたりと大わらわ。そんな中でこの作品に出会った。

クイズとき子さん(原作版)は、絵がチョー雑かもしれない(味はちゃんとありますが)。セリフもナレーションも漫画家さん本人がやっていて、録音状態もそんなによいとは言えないかもしれない。でもそんなことどうでもよいくらいこの作品は面白い。短期間で一気に最後まで見てしまった。逆に、絵が雑(何度もごめんなさい)なことで面白さが際立って、ストレートに入ってくるくらい。そう、メディア多様化の時代に「大切なのは面白いことだよ」と教えくれる作品なのだ。では一体どうしてこの作品は面白いのだろう。私なりに考察してみたい。

■まず、全体を流れるテーマ。はっきりとうたわれているわけではないが、私は「クセ、コンプレックスを抱えた人が、社会でどう生きていけばいいのか」ということだと感じた。私を含め、おそらく誰もがよくも悪くも、自分ではどうしようもない個性的な部分は持っている。社会になじんでいくために、その部分はなるべく見せないようにしながら、時にがまんしながら誰もが「普通の人」を演じていると思う。とき子さんをはじめ、登場人物もそれぞれ社会とのずれを持っている。その登場人物たちが、ズレを感じたり、悩んだり、解決しようと試行錯誤したりする。だれもが思っていながら、決して実社会の中では目に見えないものを見せてくれ、言葉にならない言葉を聞かせてくれる。誰もが持っていて、自分でも持っていることに気づかない…というか、無理して消し去っていること。気になるあのキモチをちゃんと見せてくれる。これは面白くないわけがない。

■でもそれは、見終わった後「ああ、そういうことを描いてたんだな、それで自分は『あるある!』『え?どうするの』とか思いながら見ていたんだな」と思うこと。見ている間はほぼ意識していない。最後までグイグイ見させる面白さの秘訣は、何か。それはエッジの効いた?キャラクターだと思った。
作品にはとてもユニークなキャラクターがたくさん登場する。神経質なとき子さんや、おっとりしながら時にとんでもなく大胆な行動をするお母さん、これらはまだノーマルな方で、両耳から大量の毛が飛び出した頭髪のうすい部長さんなどは、子どもなら大喜びではないだろうか。

余談だが、私はとあるシナリオスクールで3年ほど脚本の書き方を学んだ。そこで先生の一人からヒット作品のタイトルには特徴があると聞いた。それは、人の名前がタイトルになっていること、サザエさん、ちびまる子ちゃん、どらえもん、ルパン三世…。その先生は「タイトルは中身の表れ。人の名前がタイトルになった作品は、作者が人間を描こうとした作品。人間を追求しているから面白くなりヒットする」と話していて、その通りだなと思った。私たちは多分生まれながらに人間、キャラクターが好きなのだろう。

■大きく「テーマ」「キャラクター」以外にも、「言葉遊び」「勘違い」など面白い要素はたくさん見つけられる作品だった。それらをテーブルに並べたうえで、私はあることに気づく。「これって…吉本新喜劇やん!」。多分、笑。困った出来事をめぐって、突拍子もないキャラクターたちが右往左往、そこに関係のない言葉遊びや勘違いがあったり、出来事の解決で家族愛などのテーマが浮かび上がって…。作者さんには「違う違う」と言われるかもしれないが、あのナレーションの大阪弁もあって、私にはそう感じられた。新喜劇というのはちょっと違うかもしれない。大阪の庶民の笑い文化といった方がいいのかも知れない。この文化は、とてつもない可能性を秘めているなと改めて思ったのだった。

コンテンツの作法に困った時、ぜひ思い出しましょう。大阪の笑いを!
そして地方局の皆さん、この大阪弁の作品は、愛知の中京テレビがコンテンツ化しました。コンテンツ作りの「国境」を軽やかに越え、web配信コンテンツで稼いでいきましょう!

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