見出し画像

民泊という旅のスタイル

民泊とは、住宅の一部を旅行者に宿泊施設として貸し出す形態のことで、貸し出す方法も「一軒丸ごと」、「アパートの一室」、「自宅の一室」など様々なバリエーションがあります。

民泊というのは日本での呼び名ですが、起源は自宅などを他人の寝泊りに提供するシェアハウスの思想に基づいていて、昨今のエアビーアンドビーに代表されるシェアハウスビジネスのプラットフォームは、そのような思想が原点となっているように思います。

ここ数年、日本だけでなく世界各国でこのシェアハウスが注目されるようになってきました。その理由の一つは、いろいろな地域で地域に溶けこんで住むように暮らす旅のスタイルが、多くの旅行者、特に個人旅行を好む若い世代のニーズと合致するからだと思います。

民泊施設は、ホテルや旅館などと比べて安価であると言う説もありますが、ロケーションやサービスの内容によってはむしろ高額の場所もあるように思いますので、一概には言えないかも知れません。

ただ、民泊は大人数の家族やグループ同士での宿泊が可能であったり、部屋にキッチンや洗濯機、その他の調度品が備え付けられているところが多いため、旅行者の構成や予算に応じたオーダーメイドな旅が可能になっている面があり、そのような点が旅行者に、いわゆる受けている気がします。

ところで、民泊は決して良いところばかりではありません。日本では民泊事業が短期間で急激に増加したこともあり、騒音や衛生面と言った住環境への悪影響も言われ始めました。また、素性のわからない人々が急に地域コミュニティに現れ、場合によっては大声で騒いだり、ゴミ出しルールを守らないなど、地域住民と軋轢を産み社会問題化しました。

そういう状況を重く見た日本政府は平成30年6月に「住宅宿泊事業法」という法律をつくり、さらに都道府県においては法を根拠に独自に条例を定め、民泊事業が地域住民の暮らしの安寧に支障とならないように必要な規制を加えることを可能にしました。

正直、法施行前までは、様々な事業者が民泊事業に参入し、管理する人々が不在の施設も多数見受けるようになり、部屋に誰が宿泊し何をしているかもわからないような事例も多く発生するようになっていましたから、法律や条例で規制するようになったのは合理的だとも思います。

問題は、自宅の一室や空いたスペースを旅行者の寝泊りする場所としてシェアし、必要なコミュニケーションやサービスを可能な限り提供していくばくかの収入を得ようと考える良心的で真面目なホストがいる反面、民泊事業を投機目的としか考えず、儲かりさえすればいいと考える事業者も存在することであり、そのような事業者を排除するために作った法令が良心的な事業者も締め出してしまう、文字通り「悪貨が良貨を駆逐する」という状況が生まれてしまっていることだと思います。

民泊は地域や行政側が動いて作った仕組みではなく、通常の宿泊施設環境では得られない旅の魅力を提供してくれるニッチ事業として、マーケットインの発想で誕生したものだということはとても大事な視点だと思います。どのような地域であれ、日本の地域である限り、今後の人口減少と共に内需は萎んでいくのが避けられない状況の中で、外需を取り込む最も期待される産業が観光産業であり、その中の1形態として生まれたのが民泊事業であるならば、もともとの思想を忘れずにマネージしていくことが求められると言えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?