見出し画像

動画コンテンツ「地方創生の現場」シリーズ開始

企画の背景(「過疎」のブランド化のために)

日本の全部過疎650市町村(2022年1月現在)を対象にした、自治体PRのための支援サービス「過疎自治体ファンクラブ」を、2022年3月にサービスインしました。 サービスの詳細は以下を参照ください。

元々筆者が所属していた大学の学部生たちが、田舎や過疎に関してどの程度の知識、意識を持っているかを調査したところ、余りにも過疎に関するイメージが悪いため、さらに過疎自治体650市町村に、自治体PRについてアンケート調査を行ったわけです。
その結果、人々と過疎地の間の大きな乖離に思い至ることになりました。過疎地は今や、国土の6割近くを占めており、決して遠い場所の無関係な出来事ではありません。何より、学生を中心とした若い人たちに、イメージではなく、きちんと過疎地のことを理解してもらいたいと考え、スマホで簡単に過疎地のことを知ることが出来るようなサービスを開発することを決めました。そして学生達と仕様を検討しながら、1年弱ほど時間を掛けて開発したサービスです。

但しこれは、バラバラなデータを一か所に集めただけです。過疎地の650市町村が個々で情報発信をしても、例えば地縁の無い人には届きません。現在、多くの自治体がYouTubeチャンネルを開設して、地域のPR 動画を流していますが、ほぼ全ての動画で視聴回数はごく僅かであり、チャンネル登録者も1,2桁などというのも珍しくはありません。さらにそれらのコメントを眺めて見ると、ほぼ全てが出身者であり、感想も「懐かしい」といったものが大半です。断言してしまいますが、過疎地に限らず、自治体のPRは、このままでは殆ど効果はありません。 新たな顧客の獲得どころか、認知や興味関心を惹起することすらできていないのが現状です。

そもそも「過疎」という用語の意味がきちんと人々には伝わってはおらず、単なるマイナスイメージを持った言葉として捉えられていることが、学生アンケートからはっきりわかりました。「過疎」という概念に、新しい価値を与えたい、「過疎」のブランディングをやろう。それがこのプロジェクトの目標です。そのために、「過疎」でくくられる地域をまずは俯瞰できるように、地域の情報のまとめサイトを制作しました。そしてそこから各地の公式サイトに飛べるように、ポータル機能をも持たせました。

このように、サービス「過疎自治体ファンクラブ」は、単なるデータを集約したもの、いわば過疎地のためのプラットフォームであり、それを使って何ができるか、それをこれから検討して行くつもりです。いずれにせよ、データが無ければ何も始まらないと言えるでしょう。

もっと過疎地のコンテンツを

その上で、「過疎」のことをもっと人々に伝えるには、様々な種類のコンテンツが、数多く必要だと考えました。元々、自治体のPRとコンテンツマーケティングは非常に相性が良く、自治体側も数多くの動画、写真、テキストその他を公開してPRを展開しているケースも多くあります。

例えば、私たちはInstagramにアカウントを設定して、こうした過疎自治体の公式アカウントや観光協会の投稿写真を、リポストして一つに集めてみました。見てわかるとは思いますが、予想以上に素晴らしいアカウントの内容になっている気がします。日本中の過疎地の代表的な風景を集めているのですから、当たり前と言えば当たり前の話です。

但し、Instagram上に公式アカウントを持っていない自治体も数多く存在します。公式が無い代わりに、地域おこし協力隊の方がアカウントを開設している例や観光協会などによる運営の例もあります。ただし、アカウントがあっても、投稿が何年もなされていないものや、地域おこし協力隊の方が任期を終えてアカウントの更新が終了したものも数多くあります。

これら公式、あるいは準公式サイト的なもの以外に、Instagram上には地域のカメラマンの方や住民、観光客などが投稿したコンテンツも数限りなくあります。こうした一般の人々によるコンテンツを、特にマーケティングの世界では、UGC(User Genarated Contents)と称しており、企業側にとっても貴重なコンテンツとして活用しているケースが多くあります。

これは特に動画コンテンツに、最近は顕著にみられる傾向です。例えば最近話題になっているYouTuberである「絶望ライン工」さんのコンテンツ「【チャンネル開設1周年】絶望少年おじさん【39歳ライン工】| 皆様へご挨拶」の中に、過疎地である福島県猪苗代町の湖の傍をドローンで撮影するシーンがあります。動画を詳しく説明するのは至難の業ですが、4分程の映像の中で、1分半過ぎにドローンの引きの映像になって猪苗代町の雄大な景色が映るシーンは、魅入ってしまうほど、地域の魅力を表しています。

猪苗代

「絶望ライン工」さんのコンテンツから

これはごく一例ですが、どこの地域でもその場所の自然などを中心に記録しているユーザのコンテンツがあり、中には非常に質の高いものもあります。こと地方を対象としたコンテンツで言えば、このUGCのほうが、総時間でも公式コンテンツを凌駕しているケースも多いように思えます。
但し、あくまでユーザによるコンテンツであって、必ずしも地域のPRにはなっていないものや、質的なレベルの問題もあり、自治体側としてはこうしたコンテンツをどう扱うかは、非常に難しいところがあるのもわかります。公式サイトからリンクを貼るのさえも、いろいろな意見がありそうです。

こうした地方の自然や環境を記録した映像は、企業によっても制作されており、商業広告にも特定の地域のコンテンツとしても優れた映像があります。最も知られているものの一つに、日本酸素ホールディングスによる魔法瓶のサーモス(Thermos)のWeb動画があります。同ブランドの最新映像である、「【サーモス】 WEBムービー越後上布雪ざらし篇 【THERMOS】」は、やはり過疎自治体である新潟県魚沼市の、越後上布づくりの職人一家の仕事や暮らしのカメラルポ形式の映像です。

取り上げられている「越後上布」は、新潟県南魚沼市、小千谷市を中心に生産される、平織の麻織物のことで、重要無形文化財に指定されています。2009年にはユネスコの無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも登録された、いわば日本を代表する織物です。本CMは、その工程中での雪の上に布が晒される「雪ざらし」を記録したもので、商業広告としての色彩はかなり弱く、十分地域のPRコンテンツになるような出来です。しかし、魚沼市の公式YouTubeチャンネルには、越後上布に纏わるコンテンツは、全く含まれていません。

越後上布自体は、近隣の小千谷市の公式チャンネルで、小千谷縮に関するコンテンツが取り上げられていますが、実は視聴回数は2桁程度です。尚、小千谷市は過疎地ではありません。
このサーモスブランドのCM映像は、15秒、30秒バージョンも作られており、TVでも流されました。ちなみに15秒バージョンは、2020年11月の公開で、現在視聴回数は、29万以上(30秒バージョンは3600回、2分ほどのWeb版は、視聴回数が5000 回です。ここからもティーザー映像の役割がわかりますが、おそらく一自治体のPR映像として、ここまでの視聴回数を得るのは至難の業でしょう。CM自体が、上質な地域のPRでもあり、さらに地域の文化の記録としても価値が高いものだと思います。しかし、魚沼市公式Webには一切言及が無いのが、いかにももったいないと思います。

サーモス

【サーモス】 WEBムービー越後上布雪ざらし篇

商業広告コンテンツを含めたUGC自体、地域のPRコンテンツとして価値が高いものが多く目に付きますが、実際問題として、自治体がコンテンツとしてリンクを貼るなどするのは、難しいのでしょう。しかし、これらも地域のPRコンテンツとして価値が高いものであり、利用しない手はないと思います。

知りたいのはその町の「ケ(日常)」

ここで取り上げている市町村のコンテンツとは、その地域に関わる人たちが、外に向けて見てもらいたいと思って制作しているものです。その地域のハレの姿、いわば特別な姿です。

私たちは、もっとその場所の普段の姿、いわゆる「ケ」の姿を知りたいと思いました。例えば桜の季節には、様々な場所で花見や夜桜、ライトアップの話題が提供されます。中でも福島県三春町にある三春滝桜は、推定樹齢1000年超という枝垂れ桜で、大正11年(1922年)に国の天然記念物にも指定されています。

4月の開花の季節には多くの観光客が集まり、三春町にとっても重要な観光資源です。でもこの開花のために、この古木を守り育てている地元の人々の努力が背後にはあるわけであり、その人たちの日常がこのハレの日の開花を支えているわけです。
こんなツィートがありました。

日本三代桜の福島県の三春滝桜が見頃を迎えています。三春町大字滝字桜久保にある一本桜。住民の姓名が全て春木さん。千年以上も桜と共に暮らし、大事に守ってきた人達です。桜が咲くと都会に出た家族が戻ってくる、見物人がたくさん訪れる。地元老人にとってそんな意味でも嬉しい季節だそうです。

「千年以上も桜と共に暮らし、大事に守ってきた人達」、そんな人たちは日々どう過ごしているんだろう。私たちは、こうした都市部ではない地域の、いわばその地域だけの普段の姿を知りたいと思いました。なぜなら、それらは意図して残さないと、記録には残らないので、いつか消えてしまうからです。

地方創生と称して、地方で様々な活動をしている人たちのことは、比較的知られるようになってきました。派手な活動で、メディアに取り上げられる人も多くいます。でもそこには載らないような、普通に日々を送っている人もいるはずであり、実はそういう普通の人の日常こそが、地域の掛け替えのない瞬間だと思っています。

東京都渋谷、言うまでもない大都市ですが、2022年2月から、渋谷区主催で「未来に伝えたい渋谷を残そう」というInstagramを使ったフォトコンテストを展開しています。

昭和の時代、渋谷にはかつて「恋文横丁」という呼び名の小路がありました。終戦直後、英語で手紙を代筆してくれる代筆屋がいたからそう名付けられ、丹羽又雄の「恋文」という小説にも描かれた、昔の雰囲気を残す小路でした。今は存在していません。実は筆者は行政書士の資格を大学在学中に取得していたので、ここで少しだけアルバイトの真似事をしたことがあります。と言っても恋文ではなく、申請書類の作成でしたが。

渋谷区で言えば、渋谷区代官山町に代官山アパートメント、渋谷区神宮前四丁目に青山アパートメントという、大正時代末期から昭和時代初期にかけて建設された、通称同潤会アパートという鉄筋コンクリート造の集合住宅がありました。戦災を超えて残った、風情のある建物でしたが、今は跡形もなくなっています。東京都渋谷区神宮前1丁目にあった旧原宿駅は、1924年に竣工した木造建築で、都内で最も古い木造駅舎でしたが、2020年には新駅に変わりました。ここまで昔の景観を消しておいて、今更何を「未来に伝えたい」んだろう、いろいろ事情はあるのでしょうが、筆者はそう感じました。
渋谷区だけではなく、東京は破壊を繰り返してきています。これだけでも、都市部のあり方は、どこか健全ではないものを感じます。

残したい記録

地方では、派手に活動している活動家の方が多くいます。でもその人たちが全てではないでしょう。華々しい活躍をしている方々に関しては、いろいろなメディアで取り上げられていますが、本当に各地の現場にいる方は、どういうことを考え、日々何をしているのでしょうか。

そこで、地域で活躍している自治体職員、地域おこし協力隊の方の他、民間の事業者、起業家、NGO、さらに関係人口として学生や研究者など、普段なかなか話を聞く機会が出来ない人々に対して、インタビューをすることにしました。幸い、ある感染症のお陰で(※直接書くと警告文が出るので…)、オンラインというコミュニケーション手段がごく当たり前のモノになって来ました。これを利用して、オンラインでインタビューを行い、時代の記録を残して行くことにしました。

コンテンツはYouTube上のチャンネル「過疎自治体ファンクラブ」で公開し、過疎地、地方に対して広く関心を集めると共に、地方創生の記録アーカイブズとして、蓄積していくことを目指します。要するに、時代の記録としても価値のある記録となると考えています。

以下詳細です。

コンテンツ内容:

 コンテンツ内容は、オンラインインタビューによる対話形式で行います。インタビュー内容としては、現在の事業と未来の計画を骨子とします。コンテンツは10分とするため、1テーマに限定し、過去の経緯などは重視しません。自己紹介とその地域の概要と共に、以下の内容を中心に構成します。

 1.自己紹介と地域、そこでやっておられること(現状)
今、どのようなことを行っていますか。
どういった方針や目標を持っていますか。
その地域はどういう場所ですか。
2.特定のテーマに対する詳細
インタビュー毎に、1テーマを設定し、そのテーマに関して掘り下げて行く。
その事業の特徴、効果、課題、などなど
3.今後の計画
今後は、どういうことを計画していますか。
その地域がどうなってほしいですか。

 原則として、コンテンツ毎に大きく構成は変えません。それによって、各地域の違いなどを抽出、強調できると考えています。

 取材形式と公開:

収録は、対談ホスト及びオブザーバー1名と、対話相手1,2名の少人数で、オンラインZoomベースで行います。編集を行い10分程度の動画として、YouTube本チャンネルで公開します。併せて、1分のティーザも作成し、こちらはInstagramでの公開を想定します。

例えば:

こうした方針で、収録してみました。

徳島県美波町は、過疎指定されている自治体ですが、サテライトオフィスの誘致ではパイオニアとも言うべき自治体として知られています。同地の産業政策課、鍛治順也さんにインタビューさせていただきました。

以降、それぞれのコンテンツ毎に、noteのマガジンで補足をしていくことにします。まずは、100組の方にお話を伺って、100本のコンテンツを制作することを目指します。100本纏まると、新たに何か見えて来るものもあるかもしれません。




 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?