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当たり前にある「地方の価値」・(株)ブックスタンド 笹本正明さん(地方創生の現場シリーズ)

0. ティーザー版

1. インタビューの背景

ネット集客、ウェブ広告業を営む、(株)ブックスタンドの笹本正明社長にお話しを伺いました。同社は、徳島県美波町と神奈川県真鶴町に、サテライトオフィスを設け、地域の雇用を生み出しながら、事業展開をされています。どちらも過疎地域です。誘致する側のお話は、以前徳島県美波町さんに伺いましたが、サテライトオフィスを開く側の立場から、サテライトオフィスを通して見た地方について、お話しいただきました。

(株)ブックスタンドさんWeb

2. 事業内容とサテライトオフィスに至る経緯

笹本さんは、大阪府でネット集客のマーケティング会社を経営されています。24時間365日顧客対応をする必要があり、そのための人材を探していましたがなかなか集まりませんでした。そこで地方にサテライトオフィスを開設し、特に地方で隙間時間を利用したいという希望を持つ、家庭の主婦を採用して、業務を展開されています。ご両親の縁もあり、徳島県美波町を手始めに、現在は神奈川県真鶴町の2拠点で運営されています。自ら、サテライトオフィスを検索して徳島県美波町にたどり着いたそうです。

地方の主婦は、家事を含め普段多くのタスクをこなしているのですが、どうしても隙間時間ができてしまうといった事情もあり、その時間を活用できないかということで、ブックスタンドさんのビジネスモデルとの相性がよく、地方の遊休人材の隙間時間を活用するというビジネスモデルにたどり着いたということでした。ただ多くの地方在住の主婦の方の働くモチベーションは、お金よりも「社会と繋がりたい」という意識にもあるという笹本さんの分析は、とてもよくわかります。テレワークやオンラインなどの活用は、こうした思いを実現するものであり、明らかにアフターコ×ナの社会とも親和性が高いと思います。

ブックスタンドさんは、このようにいわば必然性からビジネスモデルが発展、確立して行き、特に地方に仕事を生み出すことで、結果として社会企業としての側面も持つようになって行ったのが興味深いところです。現在は、こうしたビジネスモデルを応用して、地方のプロダクトをネット販売する、自称「地産地創」の事業を立ち上げておられます。

笹本さんインタビュー本編

お伺いしたのは、都市部から地方を見た率直な意見や、逆にサテライトオフィスなどを受け入れる地域そのものの条件など、様々な地域に出入りされた起業家の経験からの意見です。

①ビジネスモデルと切っ掛け
②サテライトオフィスの開設
③地域とビジネスの関り
④地方の主婦が働きたい理由
⑤地産地創ビジネスへ
⑥自称何もない町
⑦都市部から来て地方と付き合う

2. 自称「何もない町」

中でも非常に印象的だったのは、おおむねどの地域でも「こんな何もない町に何しに来たん?」と言われるといった話です。筆者自身も、いろいろな場所で何回も聞いた記憶がありますが、その地域にあるものは、やはり地域住民にとっての日常(ケ)なので、そのものの価値を発見することは難いんだということがわかります。笹本さんは「日本の地方は宝の山」とおっしゃっていました。例えば、サテライトオフィスを開設されている徳島県美波町は、徳島県内での伊勢海老の漁獲では断トツな地域だそうで、ブックスタンドさんは、そうした豊かな海産物を扱うネット販売の会社も新たに立ち上げています。

四国の右下水産Web

筆者の経験ですが、東北のある場所にフィールドワークに行ったときに、旅館での夕食に豪勢な海産物がたくさん出てきたことがありました。そのあと宴会の予定だったのですが、宴会料理は中華料理だということで、そりゃ逆だろと思ったことがありました。話を聞いてみると、海産物は普段食べている珍しくもないもので、おもてなし料理は中華とか揚げ物なんだとか。
まさに価値の逆転と言うか、地方はその日常こそが価値なんだということは、なかなか分からない点かもしれません。

もう一点、本編からはカットしましたが、笹本さんとの対話で興味深い話があります。

ブックスタンドさんがサテライトオフィスを最初に開いた、徳島県海部郡美波町は、「波乗りオフィスへようこそ」という映画の舞台ともなりました。

サテライトオフィスを誘致するという地方政策を取り上げたもので、興味深く拝見をしましたが、実はよそ者にとって非常に気になる点があります。
主人公が地方にオフィスを開き地域に産業と雇用生み出そうとする際に、地域の長老が首を縦に振らなかったり、地元の若い連中が主人公たちに対して「とっとと東京へ去ね」と吐き捨てるシーンです。
実はこの映画は、単なる地方礼賛ではなく、地方が抱えるかなりシリアスなネタも含んでいるのですが、Blogなどで映画評などを見る限り、そこに言及している例はありませんでした。過疎地に対して人口の流入や雇用をもたらそうとしているのに、それもその地域の出身なのになぜそういう感覚を持つのだろう、これが都市部の人間の偽りない感覚です。実はこの映画の試写を一緒に見た学生も同じような感想を持っていました。正直言えば、相当ショッキングなシーンなのです。

単なる一過性のフィールドワークではなく、オフィスまで開いてその地に入り込むと、やはり地元との軋轢のようなものが生まれたりするのではないか、その点をお聞きしました。いろいろ難しいこともあるのは確かだそうですが、特に美波町や真鶴のような温暖な地では、人々の気質が穏やかで、直接そういう思いをしたことは無いとのことでした。確かに筆者の知る限り、徳島県で激高している人とかを見た経験はほとんどなかったと記憶します。特に笹本さんは、その土地の流儀に入り込むのも一つのやり方だとおっしゃっていたのが印象的でした。

映画では、おそらくいわゆる田舎のステレオタイプとして描いていたのだとは思いますが、自分だったら「とっとと東京へ去ね」とか言われたら、確実にめげちゃいます。
10分ほどに編集するのが難しいほどの、楽しいインタビューになりました。

Zoomでインタビューに応じてくださる方を探しています。地方で皆さんがやっていることについて、語ってください。



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