スピード2はタイタニックの礎となった映画?

スピード2
1997年8月16日日本公開

タイタニック
1997年12月20日日本公開

不朽の名作タイタニック。
今日の視点から考えると、大ヒットする映画の基本を押さえた様に思える作品ですが、当時はその観客の感情を揺さぶるストーリー、演出にこそ斬新さがありました。

タイタニックが出るまでの90年代のハリウッド映画は、スペクタクルをウリにしたs作品が主流となっていました。それの一因となったのはもちろんCG技術の発展です。口火を切ったのが93年のジュラシック・パーク。さらに遡って91年のターミネーター2の液体金属、89年のアビスのエイリアンの技術によって自由自在に動き回る水の表現、までその原点を辿る事も出来ます。

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95年には現実に存在する動物が街中で暴れまわるジュマンジが登場(日本公開は96年)。ジュラシック・パークの時には驚異的だったCG技術がもはや当たり前になります。

96年にはスペクタクル路線を行きつく所まで極めた作品、インディペンデンス・デイが登場します。都市ほどの大きさもあるエイリアンの宇宙船が世界各都市を破壊する大迫力の映像が、伝統的なミニチュア特撮と当時最新のCG技術によって描き出されて行きます。

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他には竜巻をCGで描いた作品、ヤン・デ・ボン監督のツイスターもありました。

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そして翌、97年にはついにそのスペクタクル路線の映画が飽和を迎えます。
ダンテズ・ピークとボルケーノと言う火山の噴火をテーマにした映画が2本も公開。個人的にはダンテズ・ピークの、噴火に至るまでに起こる前兆を少しずつ丁寧に描いていく演出が初代ゴジラ的で好きでした。
ジュラシック・パークの続編であるロスト・ワールドにエイリアン・シリーズの新作エイリアン4も公開。
そして8月16日に日本公開されたのが、スピード2でした。
この映画は、豪華客船がテロリストに乗っ取られ、港町に乗り上げてしまうというクライマックスのスペクタクルを見せる為だけに全体の脚本、企画が組まれていて、せっかく大勢の人が乗り込んでいる船を舞台に設定しているのに、観客の群像ドラマもほぼ描かれないし、テロリストの綿密な作戦に、主人公と警察的組織がどう対処するか、と言うサスペンスも非常に出来が悪く、観賞中もまったく物語に引き込まれません。
スペクタクル路線で突き進んだ90年代のハリウッドだから成立しえた、時代の徒花の様な怪作なのです。

当時ロードショーと言う月刊の映画雑誌があり、97年に公開予定の映画のライン・ナップが載っていて、それを見た私は、何と今年は盛りだくさんの年なんだと上記の作品群にワクワクしたのを覚えています。そのライン・ナップの中で、雑誌の記事でも、私自身の心情としても、一番疑問視されていたのがタイタニックでした。ただ船が沈むだけじゃないの?史実だし、だれもが結末知ってるんじゃない?でも、ターミネーター2のジェームズ・キャメロン監督だし、それなりにちゃんとした映画にしてくれるのかな?と言う感じだったのを覚えています。

私はそれでも、キャメロン監督のファンだったので、公開日に劇場に観に行きました。その時は、近くの街では上映されてなくて、遠くの大きな街の映画館で夜の回一回のみの上映でした。つまり興行主側からもまったく期待されてなかったのです。開場前に並んでいる時、誰かが「寝ちゃうかもね。でもそこはシビアなもんだよ」と軽口をたたいていたのを覚えています。

観賞中、私は、今まで好きで観続けて来たスペクタクル映画と全く違う次元の物が眼前で繰り広げられている事に強い衝撃を受けました。船が沈む、と言う結末を誰もが知っているからこそ、無邪気に甘く描かれれば描かれるほど切なく胸に迫って来る主人公ジャックとヒロイン、ローズの恋。100歳を超える老女の回想と言う構成で描かれるゆえの、神話的とも言える物語の深淵さとスケール感。そこには、キャメロン監督がターミネーターの1作目から描いてきた、テクノロジーと人間の関係と言うテーマと、一緒に過ごした時間はほんの少しの間なのに一生に一度のその運命の恋が1人の女性の人生を永遠に変えてしまう、と言う物語原型が垣間見えます。

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観客の感情を揺さぶると言う事が映画作品を興行的に成功させる要素となる、と言う事実を鮮烈に示す事で、タイタニックは90年代のスペクタクル路線映画に終止符を打ったのです。

タイタニックと、スピード2が同年に公開された同じ豪華客船を舞台にした映画である、と言うのが何か私には象徴的に感じられるのですが、時代の徒花だからこそのいびつさを内包したスピード2が実は私は結構好きだったりします。映画としては間違いなく駄作ですが、それと好き嫌いはまた別だったりするのです。作品が作られた時代に思いをはせつつ、改めて観なおしてみるのも良いかも知れませんよ。

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