今言われているメタバースって、バースをメタしてますか?|材料開発者の目線から

「メタバース」
解釈が割れる言葉です。一説ではアバターと呼ばれる自身の分身が仮想空間でいろいろやることを「メタバース」と称しており、それに対して「それなら昔からセカンドライフがあるじゃん」という意見もあって、私も「そうだな」と思ったりしました。

今日の主旨です。「セカンドライフもアバターも、メタバースと呼べないんじゃない?」

「メタ-」「-バース」とは

言葉から。

メタ-(meta-)
ネットで調べると「高い次元の」「超越した」という意味があります。微妙な言語の違いはあるものの、複数のサイトで同じニュアンスなので、これで良いでしょう。

-バース(-verse)
こっちはいろいろ出てきますが、"universe", "multiverse"にすると「宇宙」「多元宇宙」。ここは「空間」としておきましょう。

合わせると、メタバース(metaverse)は「高い次元の空間」「超越した空間」・・・「空間」の概念を広げる、次元を上げるもののはず・・・。

仮想空間は「空間」の次元を上げているのでしょうか?

少なくともアバターが歩く仮想空間は私たちが暮らす「実空間」を広げてはいません。あくまでもネット上に別の場所を用意しているだけで、「仮想」以上のものではありません。私たちが生身で実空間と仮想空間を行き来して次元を上げることはできません。

もう一つの候補、拡張現実(AR)は?

拡張現実(Augmented Reality)は現状、眼鏡型デバイス等を介してユーザーの前に別の空間があるように「見せて」くれます。今はハプティクスデバイス(haptics device)という、手袋型もしくは他の型のデバイスを用いて触った感じ(触感)のフィードバックをユーザーに与えようとする研究が盛んで、その他の五感にも研究の手は伸びています。ただ、現状では動きに制約があり(例えば部屋の中だけ、とか、ARと実空間をシームレスに行き来できないなど)無制限に空間を拡張してくれるものではなく、「空間の次元を増やしましたか?」と言われると力不足は否めません。

材料業界の「メタ-」

メタマテリアル(metamaterial)という言葉があります。
詳しくは別記事でやろうと思いますが、こっちは最近納得がいきました。

例えば普通の材料、「木」とか「鉄」とか「ガラス」とか「セラミック」が発展して人工的な材料、ある種の「高分子」とか「特殊な金属」とかに、
さらに発展して複合材料「ファイバーを分散させたポリマー」とか、
・・・
という発展を経て、材料の配列をナノレベルで制御して、「材料そのもの」だけではない概念(「複合効果」「配列効果」とか「表面効果」とか)を材料本来の機能に重畳させて単体材料から予想される機能、概念を超えるものを作ります!

だったら、「まあ『メタ』マテリアルか」となります。ただ当事者たちは「メタマテリアル」という言葉を使わず、それぞれの技術で言っていますが。

と考えると、いわゆる「メタバース」と称するもののプロ研究者も「メタバース」という言葉は使っていない気がする

少なくともハプティクスデバイスの研究者は適用先として「拡張現実」という言葉は使っても、「メタバース」という言葉は使っていない気がします。

どのあたりが「メタバース」のラインだろう?

  • 「空間的な距離を超えた」と人間に錯覚させる(コミュニケーションetc.)

  • 拡張空間(例えば情報的なものは拡張空間に置く、しかし人が触って読んだりすることは可能)等で人が使える空間を仮想的に何倍にもする

  • ・・・という辺りが、できれば心理的なGapを感じないままできる(ゴーグルという非日常を介さないか、ゴーグルが日常と思えるまでになってしまう)

あくまでも「実空間」があってそこに空間以外の概念を取り込むことじゃないのかな?

「メタ-」は限定的なところから存在する

「メタマテリアル」も現状、量産上はかなり無理のある技術。「メタバース」もおそらく同じ。みんなが便利なこと=ちょっと便利なこと。そこに本来のメタバースは、現状コストが合わない。かなり無理なニーズがある人の周りから発達する技術だと思います。

今日のまとめ

  • いわゆる「メタバース」は私たちの空間の次元を上げていないか上げていたとしても限定的で十分ではない

  • もし将来本当に私たちの空間の次元を広げる技術が出てきたら困るから、今は普通に技術用語を使えばいいんじゃない?

  • 大丈夫。この話は日本に限ったことじゃないみたい、むしろどこかから日本に「来た」話だから。

類似の問題

「メタ認知」は「客観視」で良いと思う。

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