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森のミステリーサークルで考えたこと

※ 2019/6/23 excite blog より転載

先日、宮崎県日南市にある「森のミステリーサークル」に見学に行ってきました。

九州森林管理局宮崎南部森林管理署(国有林)が1973年に設置した「林分密度試験林」という実験林。小さな範囲で(できるだけ同じ条件下で)スギを様々な間隔で植えて比較することで、植林の密度やその後の管理方法を決める際の材料にしよう、というとても興味深い場所です。

同心円状に植える形をとったため、空から見ると、広大な森の中に幾何学的な円が突然現れる景色を結果的に作ることになり、昨年から今年にかけてネットニュースや林野庁のFBページでも紹介されて、一時期話題にもなりました。

現地の解説板
試験林までは車から10分ほど歩きます

試験林自体は、地元の林業関係者の間ではそこそこ知られていたもので、モニタリングや研究者による経過検証もされています(実験期間は2023年まで)。2011年の論文「低コスト林業に向けた植栽密度の検討」によりますと、

・植栽密度は376本〜10,000本/ha
・行った手入れは下刈、つる切り、除伐などで間伐は行っていない
・密度が高いほどhaあたりの蓄積量(木材の量)は多くなる傾向
・が、2,300本/haを超えると頭打ちになり、高すぎると逆に減っていく
・木材の質(形質やヤング率など)は、高すぎても低すぎてもダメ

といったデータから、どのような投資を行うかは収穫目標(何年後にどのような材をどれだけ育てたいか)によって変わってきますが、と断った上で、約 2,000~2,800 本/haの範囲から植栽密度を選択すると良いのではないか、と提案しています。上記検証は35年生の時点での調査。

また、実際にこの試験林を設置し、モニタリングしてきた国有林の下山氏・石神氏は、植栽密度1,000本/ha、または1,500本/haの可能性について考察されています。

試験林の中心部
試験林中心から空を見上げる
中心に近い円ほど密で、遠くなると疎に(木の間隔が広く)なります

現在46年生のこの山を自分の目で見てみて最初に感じたのは、林床の植生があるところと無いところにはっきり分かれていたことでした。それは、1,000〜1,100本/haあたりのライン。密度がそれ以下になると、草木が生い茂ってきます。まさか内側は刈ったのではないと思うのですが…それくらい明確でした。ざっと見た感じですが、高木になりそうな木の稚樹も混じっていました。周りにカシ、シイ、タブの母樹が豊富なせいもあるかもしれません。

1,000本/haのラインあたりで急に林床の草木がが増えます

また、林業を考えるときには樹冠長率(葉っぱの付いているモサモサした部分が、樹高全体のどれだけの割合があるか)も重要で、樹冠率が低い→葉っぱが少ないので太くならずヒョロヒョロになる、樹冠率が高い→葉っぱがたくさんあるので逞しい木に成長する、という関係がありますが、樹冠率が高すぎる(枝葉がかなり下の方からついている)と節が多くなったりで木材としては質が落ちてきます。

この樹冠率が、1,000本/haあたりでは30〜40%程度に見えました。針葉樹では林業的には理想的とされている範囲です。これより密度が高くなると、樹冠が目に見えて小さくなり、密度が低くなると樹冠率は大きくなっていました。早く太くなりすぎても質が悪くなるというのが、現地では見た目でよく分かりました。

一般的には樹冠長率が30%〜40%あると良
密度が高いと樹冠が小さくなり、ヒョロヒョロの木になりがち

実際に林業をやっている身にとって参考になったのは、ここの条件では1,000本/haで無間伐で育てると、森として決して悪くない感じになるな、ということが観察できたことです。植林密度は1,000本/haでもいい、ということではなく、これをベンチマークとして自分のフィールドならどうするか、と考える材料になるという意味。

この国有林と自身のフィールドは20kmほど離れていて流域も違うのですが、同じ鰐塚山地で地質的にも気候的にも似ているので、反対側の霧島山系よりは近しい事例になります。植えているスギも同じ飫肥杉のアカ系統。もちろん全く同じ立地条件ではないのでアレンジは必至ですが、一から試行錯誤していくよりは遥かに近道になりうるので、とてもありがたい存在です。

このような実験林が、もし全国に20〜30kmおきに設置されていたとしたら…、林業だけではなく、環境保全を考える上でも貴重な国民の財産になるのではないでしょうか。この地を訪れる森林・林業関係者は、おそらく口を揃えて言うはずです。「これこそ国有林・公有林の仕事ですよね」と。木材バブルの当時にこのような試験を発案し、実行した方々に後世の人間として心から感謝申し上げたいです。

試験林の設置期間はあと4年。その後も是非モニタリングを継続し、後世にデータを引き継いでいただけることを希望します。近くには同じ国有林の管理になりますが、三ツ岩林木遺伝子保存林という、ひたすら飫肥杉を太らせている実験林があります。この地域を訪れる際には併せてオススメしたいスポットです。

三ツ岩林木遺伝子保存林(九州森林管理局WEBサイト)


ところで、1,000本/haという数字、もうひとつ意味があると思っていまして、この植栽密度は、植える間隔にすると約3m間隔になります。この3mって、最近普及してきたリモコン草刈機の必要刈幅(機械が入れる幅)なんですよね…。日本でも高速道路の法面管理などで既に導入が始まっていますが、45°までは全然OKだそうです。

リモコン草刈機(動画)
https://youtu.be/J5BCicZdWiA
https://youtu.be/oNMTPa3GNtc

もっとも、個人的には主伐時の伐り方を工夫することで、下刈りをしなくて(または少なくて)済む森づくりもやっていきましょうよ、という派なんですが、選択肢/可能性としては面白いですよね。

参考文献:
福地晋輔・吉田茂二郎・溝上展也・村上拓彦・加治佐剛・太田徹志・長島啓子(2011) : 低コスト林業に向けた植栽密度の検討―オビスギ植栽密度試験地の結果から―, 日林誌 93: 303‒308
下山晴平・石神智生(2017): 飫肥杉密度試験地40年の成果, フォレストコンサル No.147, 3567

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