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初めてロルフに会った日のこと

※2019/8/16 excite blog より転載

8月16日は、私にとって特別な日です。

9年前のこの日(2010/8/16)は、スイスのフォレスターであるロルフに初めて会った日。自身の担当区で森について語る彼に惚れ込んでしまった日でもありました。実は、1ヶ月の滞在のなかで、そのように心が動いていったきっかけ、というものがあって、それはロルフが「うまくいっていない森」を見せてくれた時でした。

スイスの森林管理/林業がいかに困難な歴史を歩んできたか、そして今でもその"つけ"、すなわち手入れ遅れのモミ・トウヒ林が多く残されていて、自分はどのようにそれらの森と向き合っているかを淡々と語ってくれたその姿に、「ああ、この人は信頼できる」と思ったのです。

コーディネートをお願いした山脇さんに後でお聞きすると、このときの初回の出会いはお互いに手探りな感じだったといいます。たぶんロルフは「日本人?こいつらはどの程度本気なのか?」…こちらは、「ドイツやオーストリアはよく聞くけれど、スイスってなんぼのもの?」みたいな感じ。

でも、彼の話のなかで、失敗は悪くない、失敗に学ばないことが悪い、という言葉を現場を交えて見せてもらったときに、松浦静山の名言「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」が頭をよぎり、そしてスイッチが入ったのです。

合理的な説明は既にある信頼を更に強固にしてくれるけれど、信頼のない人にいくら理論を語ってもらっても入ってこない、という経験は誰しもが持っていると思います。

こういうことを言うと怒られるかもしれませんが、でも、全ての分野の専門家になることは不可能なので、この人(組織)の言う事なら信頼できる(だから聞く、買う)という繰り返しが毎日の生活というものだと思います。

もっとも、この「信じたい」という心理を逆手に取った詐欺という行為には気をつけなければなりませんが、学びになったのは学ぼうと思ったからで、その背景には何らかの信頼が欠かせないものと考えます。

ロルフのその時の解説が、無意識の地なのか、普段からのフォレスターとしての戦術なのかはわかりません。しかし彼はフォレスターとしての理想は、森林所有者から「あなたの言うことだから任せる」と言ってもらうことだと言います。そして、そこを目指すために何を日々研鑽し、どういう言動を取っていかなければならないかを、いつも考え実践しているように感じます。

いずれにしても、私にとっては、彼に最初にそのような印象(この人は信頼できる)を持ったことは僥倖となりました。

そのあとの9年間、多くの皆様のご支援があって今まで来ることができました。実践と普及活動をやってきて、今さらながらに分かってきたのは、一人ではできない(一人では続かない)多様な森づくりを、いかに他人を巻き込んで始めるか・続けていくか、ということの難しさ。

科学的視点で森を観察する、ということと同時並行でやらなければならないことが、この1〜2年でかなり浮き彫りになってきています。

それはつまり、職業訓練をいかに地域で体系化するかということ。ある時ある場所に達人がいた、ではなく、いつもあちこちに同じ釜の飯を食べた人がいるように。

ムラ(地域や組織あるいは世代)の中だけでは完結しない時代、真面目にやっていれば…だけではいつまでも解決できないことがあって、だから新しいパラダイム(考え方の基になるもの)で取り組まなければならないことがある。そのためには、まず自分が変わっていかなければならない。

区切りの日に、そんなことを考えました。

※ 参考記事
フォレスター「ロルフ・シュトリッカー」

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