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AIを使って古代叙事詩『イリアス』を翻訳しよう

 毎週水曜日の21時から、「発狂ホメロス読書会」という古代叙事詩の朗読読書会を行なっているのですが、訳者によって表現がブレて、原典ではどうなっているのかと気になることが多かったので、AIを使った簡単な古代語の翻訳方法を考えてみました。

 精度は良くてWikipediaくらいだと思うので、正しく翻訳したい人は古代ギリシャ語を学んだ上、ちゃんとした辞書を使って調べましょう📖


使用するサイト

•CHATGPT

https://chatgpt.com
言わずと知れたチャット型AIです。こいつで翻訳します。

•Perseus digital libraryのイリアス

https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0133%3Abook%3D4%3Acard%3D183
著作権フリーの西洋古典の原典をたくさん公開してくれている便利なサイトです。

•青空文庫 土井晩翠訳 イリアス

https://www.aozora.gr.jp/cards/001099/files/46996_40612.html

朗読会で使っている土井晩翠訳のイリアスです。
(翻訳にあたっては、原典訳であれば、土井晩翠訳出なくとも問題ありません)

1、調べたいところの『通し番号』をメモる

イリアス 土井晩翠訳 青空文庫
聖なるイリオン・プリアモス及び鎗術秀いでたる かの族(土井晩翠訳)
とねりこの槍を揮うプリアモスの治める民 (松平千秋訳)
よいとねりこの槍のプリアモスの民(高津春繁訳)

他の翻訳者は「とねりこの槍」なんだけど、土井先生だけ「槍術」になってます。気になるー。

4歌 163あたり

この通し番号は、日本語でも英語でもドイツ語でも全部同じ場所に振られているので、原典を参照しやすくなっています。
調べてくださいと言わんばかりですね。

2、Perseus digital libraryで調べたい箇所をコピーしてくる

https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0133%3Abook%3D4%3Acard%3D183

4歌163あたり、なので、BOOK4で範囲内のを選びます。

https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0133%3Abook%3D4%3Acard%3D183


https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0133%3Abook%3D4%3Acard%3D127

3 CHATGPTにお願いする。

私は古代ギリシャの叙事詩『イリアス』の勉強をしていますが、
古代ギリシャ語がわからなくて困っています。
どうぞあなたの力を貸してください。

以下の古代ギリシャ語のイリアスを、わかりやすい日本語に訳してください。

古代ギリシャの単語ごとに、()の中に日本語訳を入れて、一目で、
どの単語がどの意味かわかるようにしてください。

また、訳したあと、使われている単語ごとに、
「単語」「意味」「読み方(カタカナ)」の項目を使って表にしてください。

以下、イリアス本文。

# #ここに古代ギリシャ語をコピペ 
#

以上。

よろしくお願いします。

https://chatgpt.com

こんな感じの呪文でお願いしましょう。適当にカスタマイズして使ってください。

結果はこんな感じでした。

οὐ(否定) μέν(確かに) πως(どうしても) ἅλιον(無駄な) πέλει(なる) ὅρκιον(誓い) αἷμά(血) τε(と) ἀρνῶν(羊の)
σπονδαί(供え物) τ᾽(と) ἄκρητοι(薄めていない) καὶ(そして) δεξιαὶ(右手) ᾗς(どれに) ἐπέπιθμεν(我々は信じた)。
εἴ(もし) περ(まさに) γάρ(なぜなら) τε(そして) καὶ(そして) αὐτίκ᾽(すぐに) Ὀλύμπιος(オリュンポスの神々) οὐκ(ない) ἐτέλεσσεν(成就しなかった),
ἔκ(やがて) τε(そして) καὶ(そして) ὀψὲ(遅くに) τελεῖ(成就する), σύν(共に) τε(そして) μεγάλῳ(大きな) ἀπέτισαν(罰を受けた)
σὺν(共に) σφῇσιν(彼らの) κεφαλῇσι(頭に) γυναιξί(女たちと) τε(と) καὶ(そして) τεκέεσσιν(子供たち)。
εὖ(よく) γὰρ(なぜなら) ἐγὼ(私は) τόδε(これを) οἶδα(知っている) κατὰ(〜を通して) φρένα(心) καὶ(と) κατὰ(〜を通して) θυμόν(魂):
ἔσσεται(あるだろう) ἦμαρ(日が) ὅτ᾽(その時) ἄν(もし) ποτ᾽(かつて) ὀλώλῃ(滅びる) Ἴλιος(イーリオス) ἱρὴ(聖なる)
καὶ(そして) Πρίαμος(プリアモス) καὶ(と) λαὸς(民) ἐϋμμελίω(槍を持つ) Πριάμοιο(プリアモスの),
Ζεὺς(ゼウス) δέ(しかし) σφι(彼らに) Κρονίδης(クロノスの子) ὑψίζυγος(高く座する) αἰθέρι(空に) ναίων(住む)
αὐτὸς(自ら) ἐπισσείῃσιν(振るう) ἐρεμνὴν(暗い) αἰγίδα(盾) πᾶσι(全てに)
τῆσδ᾽(この) ἀπάτης(欺き) κοτέων(怒っている): τὰ(それら) μὲν(確かに) ἔσσεται(あるだろう) οὐκ(ない) ἀτέλεστα(成就しない): 

とねりこの槍がない……? どういうことだ?

というわけで、追加で質問してみました。


うーん、AIはすぐ人を喜ばせようとするからなー、本当かなーと、さらに調べます。


https://www.perseus.tufts.edu/hopper/morph?l=e%29u%2Bmmeli%2Fw&la=greek&can=e%29u%2Bmmeli%2Fw0&prior=lao\s&d=Perseus:text:1999.01.0133:book=4:card=127&i=1

英語は、古代語じゃないので、調べやすいです。

おお、ほんとだ。「トネリコ」という意味がある!

最後に普通に訳してもらいました。

というわけで、訳が違う理由がなんとなくわかりました。

聖なるイリオン・プリアモス及び鎗術秀いでたる かの族(土井晩翠訳)

土井晩翠先生は、「良い槍使いの民」みたいな感じで、「槍術秀でたる」

とねりこの槍を揮うプリアモスの治める民 (松平千秋訳)

松平千秋先生は、「良いとねりこの槍を持つ民」として「とねりこの槍を揮う」

よいとねりこの槍のプリアモスの民(高津春繁訳)

高津春繁先生は、わりとそのまま「良いとねりこの槍を持つ民」として「よいとねりこの槍」と訳してることがわかりました。すっきり。

こんな感じで調べると、なんか翻訳の歴史を感じれて楽しいのですので、気になったところがあったらぜひ調べてみてください。

ちゃんと調べたい人はこれを買って調べましょう!!!!!!


A Greek-English Lexicon

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