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noteで歳時記 ~凩(木枯らし)~

【はじめに】
この記事では、『noteで歳時記』と題して、noteの機能を活用した歳時記を私(Rx)が編んでいます。今回取り上げるワードは『木枯らし/凩』です。

※「東京地方」で「木枯らし1号」が吹くのを待っていたのですが、今年も「発表なし」のまま12月を迎えてしまったので、このタイミングでの公開。

基本情報

凩/木枯【こがらし】
・初冬(実態としては「晩秋」も含む) 天文

《 成分図 》

視覚2、嗅覚2、聴覚3、触覚、味覚1、連想力3

◎解説

語源は諸説あるものの、いずれにしても「木」に由来するとされ、古代にも「こがらし」の名の風はあったと見られる。但し、秋か冬かは古くから議論され、「初冬」と定まったのは連歌師・宗祇の頃からなのだそう。

①「木枯らし(1号)」の定義

歳時記的には、「冬の初め頃に吹く強い北風」などと端的に表現されるが、現代における定義は案外複雑で、狭義には次に示す気象庁が発表するものに限られる。

木枯らし(こがらし)とは、日本の太平洋側地域において晩秋から初冬の間に吹く風速8m/s以上の北寄り(北から西北西)の風のことで、冬型の気圧配置になったことを示す現象である。凩とも表記する。

( 日本語版ウィキペディア )

日本の気象庁
東京は気象庁予報部予報課の天気相談所、大阪は大阪管区気象台気象防災部予報課がそれぞれ発表する。…………1991年に現在の基準が採用され始めた。気象庁が発表をいつから発表を始めたか正確な記録がない。

東京においての木枯らしの条件
1 期間は10月半ばから11月末までの間に限る。
2 気圧配置が西高東低の冬型となって、季節風が吹くこと。
3 東京における風向が西北西~北である。
4 東京における最大風速が、おおむね風力5(風速8 m/s)以上である。

大阪においての木枯らしの条件
1 期間 霜降(10月23日ごろ)~冬至(12月22日ごろ)まで。
2 気圧配置 西高東低の冬型の気圧配置。
3 風向・風速 北よりの風が吹き、最大風速8 m/s以上。

以上の条件を満たした風を「木枯らし」と認定する。そして毎秋最初の木枯らしを木枯らし一号(こがらしいちごう)として発表する。
「木枯らし二号」や「木枯らし三号」も起こり得るが、発表は行われない。なお「木枯らし一号」は関東地方(東京)と近畿地方(大阪)でしか発表されない。(以上、Wikipediaより抜粋)

( 日本語版ウィキペディア )

まず大前提として、気象庁の発表する「木枯らし一号」は、東京・大阪のみを対象としており、その他の観測点ではどれだけ待っても「木枯らし一号」の発表はありません。

そして、共通しているのは、「10月の後半」をスタートとし、気圧配置が西高東低で、風向きが「北」寄りで、風速の基準が「8m/s以上」であることでしょうか。※ ちなみにここでの「風速」とは『10分平均の値』で、瞬間風速としては相当な強さになることも見落としがちですが大事な条件です。

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一方、東京と大阪での違いとして、最も大きいのは、「期間」特に終わりのタイミングでしょう。東京は「11月末」ですが、大阪では「冬至(12月)」と1か月弱の違いがあります。

②「木枯らし1号」の吹いた時期

では、実際に「木枯らし1号」が吹いた時期の分布を図にしてみましょう。

「東京」
10月中旬 00
  下旬 92, 96, 97, 10, 11, 14, 15, 17
11月上旬 91, 94, 98, 01, 02, 08, 09, 16, 20
  中旬 95, 99, 03, 04, 05, 06, 07, 12, 13
  下旬 93
発生せず 18, 19(過去6例)

最早:10月13日(1988年)
最遅:11月28日(1969年・1981年)

東京では、10月下旬から11月中旬にかけてほぼ満遍なく分布していますが、2018・2019年と2年連続「発生せず」の事例があり、全国ニュースなどでも広く取り上げられます。

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「大阪」
10月下旬 93, 96, 97, 02, 10, 11, 12, 14, 15, 16, 17, 20
11月上旬 94, 95, 98, 01, 06, 09, 13, 19, 
  中旬 99, 07, 08, 
  下旬 91, 04, 18, 
12月上旬 05, 
  中旬 00, 03, 

最早:10月23日(1981年・1993年・2020年)
最遅:12月19日(2003年)

一方、「大阪」では、91年以降で約4割で「10月中」に、約3分の2で「11月上旬」までには「木枯らし1号」が吹きます。しかし、東京では対象期間の関係で現れることのない「12月」での“1号”の事例も1割程度あるなど、特色が思いの外はっきりと出た印象です。

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また、「東京」と「大阪」で同じ日に“1号”が吹くことも、2~3割程度は発生しています。『西高東低』という冬型の気圧配置は、局所的に起こるものではなく、日本列島全体で形成されることが多いのも一因でしょう。

③歳時記的には【初冬】の季語だが

さて、この「木枯らし」に関しては、冒頭に書いたとおり俳句歳時記では、押しなべて『冬(初冬)』の季語として収録されています。

しかし、①~②などからして、「木枯らし」は10月の「晩秋」に吹くこともあれば、12月の「仲冬」にかけて何度も吹くことがあり得ます。最も頻度が高くて印象が強いのは「初冬≒11月」かも知れませんが、これも天文の季語あるあるで、必ずしも現代の体感・実態に即していない年も多いかと思いますので、そこは臨機応変に対応していきたいなと思います。

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◎「木枯らし」の楽曲集

ここからは『木枯らし』にまつわる楽曲をリストアップしていきます。

(1837年)練習曲作品25-11『木枯らし』/フレデリック・ショパン

(1941・1949年)『たきび』/童謡

(1972年)『だれかが風の中で』/上條恒彦 ドラマ『木枯し紋次郎』

(1974年)『木枯しの二人』/伊藤咲子 週間5位、1975年年間36位

(1986年)『木枯しに抱かれて』/小泉今日子 週間3位、年間11位

◎例句

ここからは、歳時記に掲載されている『凩』の例句をご紹介していきます。

『木枯しの大きな息とすれ違ふ』

石田郷子

『凩』は「海」と取り合わせた句が古くから多くあります。

『凩の果はありけり海の音』

池西言水

小説家・芥川龍之介の句としては比較的著名です。また「目刺」も春の季語ではあるのですが、これは「凩」の句でしょう。

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『木がらしや目刺にのこる海のいろ』

芥川龍之介

芥川が亡くなって始まった様な「昭和」の時代。山口誓子は、終戦の前年にこんな句を詠んでいます。どういった思いがあったのでしょうか。

『海に出て木枯帰るところなし』

山口誓子

以上の2句を引いた上で、夏井いつき先生の性格の悪さ(?)を讃えたのは編集者の嵐山光三郎さん。第4回「種田山頭火賞」授賞式で取り上げられたこの句は、句集『梟』に収録されているものです。(39分過ぎ~)

『インク壺には木枯を閉じ込めよ』

夏井いつき

“種田山頭火”の自由律に『うしろすがたのしぐれてゆくか』がありますが、こちらは松尾芭蕉の弟子・服部嵐雪の句。「木がらし」も冬の季語ですね。

『木がらしの吹き行くうしろ姿かな』

服部嵐雪

そんな「木枯らし」に吹かれる「小石」を詠んだ作品を2句。どちらもこの凩の中に身を投じれば、追体験することが容易に感じる描写力です。

『木枯や鐘に小石を吹きあてる』
『凩や耳の中なる石の粒』

与謝蕪村
三橋敏雄

更に、より具体的な光景として描いたのが、正岡子規の臨終を看取るなど、門下生としても、遺構の保存に尽力するなど俳句人としても、功績を残した「寒川鼠骨」のこの句は、単語一つひとつがリアルです。

『木枯や牛立ち尽くす土手の上』

寒川鼠骨そこつ
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ここまで寒々しい句ばかりだったので、最後に少し気持ちが暖かくなる様な作品をご紹介しましょう。

『凩や鞄の中に楽譜あり』

林徹
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「楽譜」が飛ばされたまでしたら、狙い過ぎでしょう。鞄の中に楽譜があるだけです。それだけのことなのに、強風の『凩』の存在を引き立てる非常に有力な味方として「楽譜」が句を、そして季語『凩』を立てていますよね。


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