プレバト!! 俳句の「月間最優秀句(MVH)」を全部選んでみた

【はじめに】
TBS・MBS系列のテレビ番組「プレバト!!」の俳句査定で、2回ほどに渡り、「月間最優秀句 = MVH(Most Valiable Haiku)」を選出する特別企画が、放送されたことがありました。

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その時期の傑作句が集うということで、歴史を振り返る意味でも、とっても有意義な企画だと思っていたんですが、2回やっただけで、2019年は企画が流れてしまったようです。

今回は、プレバト!!の俳句査定が始まった2013年から、私(俳号:Rx)が、独断と偏見で、勝手に「月間MVH」選んでしまおうという記事になります。

特に、プレバト!! を最近見始めて、どんな俳句が過去にあったのか知りたいという新規ファンの方を含めて、名句を振り返って頂ければと思います。

2014年:空の底強き風恋ふ水芭蕉/杉山愛

俳句査定が始まったのが2013年11月、しばらくは隔週放送がベースでした。つまりは、月に1回ないし2回しか放送されなかった時期です。以下には、一応、毎月の月間MVH相当を選出しますが、現在に比べると正直レベルは…落ちてしまうかも知れません。

2013年
11月:燃える秋道行く人と鐘の音/杉村太蔵
12月:頬紅き少女の髪に六つの花/梅沢富美男
2014年
1月:節分の次の日靴に豆ひとつ/藤本敏史
2月:梅揺する強き風あり東慶寺/山村紅葉
3月:静けさやクラスに満ちて桜咲く/杉山愛
4月:春愉し房総の空ひた走る/中田喜子
5月:五月晴れだから空色のワンピース/藤田弓子
6月:空の底強き風恋ふ水芭蕉/杉山愛 [2]
7月:花火果て星のひとつを探し行く/杉山愛 [3]
8月:夜が明けて迫る雪渓もう1歩/竹財輝之助
9月:満月に相輪の影ひとつあり/市川猿之助
10月:飼い猫の背中のような夕すすき/中川翔子
11月:曲がっても曲がっても燃ゆ紅葉坂/野間口徹
12月:はや6年遥かスイスや古都は雪/春香クリスティーン

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やはりこの中では、杉山愛さんによる番組史上最高得点(88点)を記録した『空の底強き風恋ふ水芭蕉』を年間MVHに選出すべきでしょう。

2015年:向日葵の波に逆らひ兄逝きぬ/筒井真理子

特待生制度が始まった2015年。後の特待生・名人が次々と登場して、平場で俳句を披露していた時期。まだ前半を中心に、月ごとにレベルの差が目立つ「過渡期」といった印象です。

1月:春近し遠きあの日の赤れんが/眞鍋かをり
2月:春の風バスを待とうか歩こうか/柴田理恵
3月:黒板のI can do it風光る/秋野暢子
4月:蒼き踏むあおぐ山頂空青し/梅沢富美男 [2]
5月:残雪やモネの油彩の花想う/髙田万由子
6月:乙女摘む一芯二葉夏は来ぬ/梅沢富美男 [3]
7月:向日葵の波に逆らひ兄逝きぬ/筒井真理子
8月:故郷の声走らせて涼新た/又吉直樹
9月:自転車やコスモスの波風となる/友利新
10月:秋の夜の酒に肴は選ばざる/横尾渉
11月:紅葉燃え五右衛門殿が屋根に立つ/東国原英夫
12月:ジオラマかアクリル性の冬の波/羽田圭介

特にハイレベルな7月。特にこの4句は、いずれも「月間賞」に値する傑作だというふうに感じます。

1位75点:梅雨空にジャズの流れて夢二の画/石倉三郎
1位80点:診察を終えて広がる夏の海/福澤朗
2位78点:サングラス外して対す海の青/横尾渉
1位83点:向日葵の波に逆らひ兄逝きぬ/筒井真理子

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ただやはり「83点」という史上稀に見る高得点を叩き出した筒井真理子さんの代表句を、月間、そして年間MVHに選出したいところです。

2016年:向日葵や畜魂二十九万頭/東国原英夫’

特待生が名人を目指し、昇級を重ねる流れが定着していった2016年。下半期に入ると、東国原英夫、藤本敏史、村上健志といった後の名人10段が、番組を印象づけるような俳句を披露するようになります。

1月:湯気ましろましらましろよ雪見の湯/梅沢富美男 [4]
2月:肩車子の鼻先に触れる梅/藤本敏史 [2]
3月:椅子しづかあの日のごとく窓に花/東国原英夫 [2]
4月:ゆるゆると鷹鳩と化す日のリフト/梅沢富美男 [5]
5月:登山列車近づく空はラムネ色/宮田俊哉
6月:ベル鳴りて立つ七色の夏帽子/ミッツ・マングローブ
7月:許されて寺の笹切る星祭/横尾渉 [2]
 ※向日葵や畜魂二十九万頭/東国原英夫(添削後)
8月:町会長犬を預かる盆踊り/三遊亭円楽
9月:山あいの秋雲工場フル回転/藤本敏史 [3]
10月:羊群の最後はすすき持つ少年/藤本敏史 [4]
11月:テーブルに君の丸みのマスクかな/村上健志
12月:蜜柑「け」とばっちゃが降りた無人駅/梅沢富美男 [6]

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厳密には「対象外」なのでしょうが、番組人気を飛躍させる意味で、極めて大きな功績のあった「向日葵や畜魂二十九万頭」を特例で、「年間MVH」に選出したく思います。
添削ナシの秀句からとすれば……10月に「番組史上最高傑作」と歌われた、フジモンの「羊群の最後はすすき持つ少年」か、11月に「78点」を叩き出し2回目で特待生を決めたフルポン村上「テーブルに君の丸みのマスクかな」のいずれかだと思います。

2017年:初日記とめはねに差すひかりかな/村上健志

夏井いつき先生の選んだMVHは、プレバト!!まとめブログさんの上記リンクをご参照ください。本家では、この年、名人 特待生から選出されましたが、私は平場参加者も含め全ての句からMVHを選ばせてもらいました。

1月:初日記とめはねに差すひかりかな/村上健志 [2]
 ※先生選:銀盤の弧の凍りゆく明けの星/梅沢富美男
2月:節分のセンサーライトが照らす闇/藤本敏史 [5]
3月:卒業の駐輪シール並ぶ朝/村上健志 [3]
4月:野良犬の吠える沼尻花筏/東国原英夫 [3]
5月:はこね号これより初夏に入ります/藤本敏史 [6]
6月:セイウチの麻酔の効き目夏の空/藤本敏史 [7]
 ※先生選:紫陽花の泡立つ車窓午後の雨/梅沢富美男
7月:固きベンチに影と張り付く夏の駅/筒井真理子 [2]
 ※先生選:空蝉の転がるベンチ海の駅/中田喜子
8月:もてなしの豆腐ぶら下げ風の盆/柴田理恵 [2]
 ※先生選:マンモスの滅んだ理由ソーダ水/藤本敏史
9月:夜学果てまだ読みふけるおとがひよ/梅沢富美男 [7]
 ※先生選:秋夕焼赤黒き一〇〇〇グラムの吾子/東国原英夫
10月:紅葉燃ゆ石見銀山処刑場/東国原英夫 [4]
 ※先生選:千年の樹海の風と枯葉の香/横尾渉
11月:秋天はがれ落ちる人にベンチに/石田明
12月:750ccのタンクにしがみつく寒夜/千原ジュニア

ちなみに月間MVH以外の句の中でいうと、

例えば1月は、
・初日記とめはねに差すひかりかな/村上健志
・紅梅や1km10秒縮めたり/東国原英夫
・銀盤の弧の凍りゆく明けの星/梅沢富美男
続いて6月も、
・先生選:紫陽花の泡立つ車窓午後の雨/梅沢富美男
・チーママの裾はしょりたる梅雨の夜/三遊亭円楽
・送り梅雨船員送る千の傘/東国原英夫
・喧騒の溽暑走り抜け潮騒/石田明
・セイウチの麻酔の効き目夏の空/藤本敏史

などが候補に挙がる非常に悩ましい月でした。 さて、

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タイトル戦が始まった2017年。抜けた作品が無い年という印象でしたが、『俳句査定史上初の2ランク昇格』を決めた(当時の)スーパールーキー・村上健志さんの新年1発目の「初日記とめはねに差すひかりかな」を年間MVHに選びたいと思います。

2018年:鰯雲仰臥の子規の無重力/東国原英夫

↑ 先ほどのブログさんから再びリンクを張りました。ぜひご一読を。
※ちなみに、2019年3月末に放送された企画では2018年4月~2019年3月を対象としている点にご注意ください。

1月:雪原や星を指す大樹の骸/千賀健永
2月:元素記号ふたつ忘れて春の風/村上健志 [4]
3月:ビル鎮火濁水まみれのたんぽぽ/東国原英夫 [5]
4月:花震ふ富士山火山性微動/東国原英夫 [6]
5月:石段を帰る石竜子や星一つ/松岡充
6月:歩行量調査戻り梅雨の無言/藤本敏史 [8]
7月:決戦の熱冷めやらぬ氷水/土屋太鳳
8月:旱星ラジオは余震しらせおり/梅沢富美男 [8]
 ※次点:草茂る洞窟のこと他言せず/東国原英夫
9月:鰯雲仰臥の子規の無重力/東国原英夫 [6]
 ※次点:廃村のポストに小鳥来て夜明け/梅沢富美男
10月:段雷に靴紐きつく秋の朝/三遊亭円楽 [2]
 ※先生選:タイカレーのラムは骨付き銀杏散る/藤本敏史
11月:手袋を外して撫でる猫の喉/北山宏光
12月:連覇のさきぶれ沸き立つ初電車/中田喜子 [2]

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この2018年度は、名人10段を目指して階段を駆け上る時期でした。公式に「年間MVH」が選出されており、俳句甲子園のエキシビション・マッチでの東国原英夫名人が詠んだ一句『鰯雲 仰臥の子規の無重力』に私も同意です。

2019年:「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙/柴田理恵

永世名人を目指す10段4人が揃った2019年は、鈴木光の鮮烈75点デビューに始まり、新特待生が立て続けに誕生した1年でした。

1月:賽銭の音や初鳩青空へ/鈴木光
2月:紙雛のにぎやか島の駐在所/梅沢富美男 [9]
3月:「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙/柴田理恵 [3]
4月:サイフォンに潰れる炎花の雨/村上健志 [5]
5月:若葉風部下にあわせてタコライス/柴田理恵 [4]
6月:梅雨寒しコンビニは麻酔の匂ひ/東国原英夫 [7]
7月:行間に次頁の影夕立晴/ 村上健志 [6]
8月:原爆忌弾丸列車光るこの空/千賀健永 [2]
9月:アップルパイの焼きたての札花鶏来る/藤本敏史 [9]
10月:色変えぬ松や渋沢栄一像/立川志らく
11月:パティシエに告げる吾子の名冬うらら/千原ジュニア [2]
12月:オッケーグーグル冬銀河にのせて/東国原英夫 [8]

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勿論、10段の名人の句の上手さは当然のごとく評価した上で、年を代表する1句として考えた時に、最終的には1月と3月の句でかなり迷いました。
しかし、史上2人目の「2ランク昇格」を決めた『「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙』を2019年の年間MVHに選出いたします。

2020年:花束の出来る工程春深し/梅沢富美男

冬麗戦でキスマイ横尾が初優勝を果たして始まった2020年は、タイトル戦の予選会のブロック分けが細分化され、本戦に負けずとも劣らない秀句が複数誕生しました。

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「緊急事態宣言」が発表される中、「梅沢富美男」が初の永世名人となり、「春風亭昇吉」が2回目の挑戦で75点1位となり、特待生昇格を果たしたのが2020年上半期のハイライトでしょう。

そして、下半期に入ると更に時局は加速。タイトル戦優勝句以外の秀句が、連発され、より一層シビアな戦いが繰り広げられることとなりました。

1月:庖丁始都心は計画運休/横尾渉 [3]
2月:春寒のスタアの悲報カップ麺/藤本敏史 [10]
3月:顔面骨折カニューレの接ぐ春の朝/千原ジュニア [3]
4月:まるでシンバル移り来し街余寒/東国原英夫 [9]
5月:花束の出来る工程春深し/梅沢富美男 [10]
6月:万緑に提げて遺品の紙袋/春風亭昇吉
7月:二枚目はベランダで読む手紙かな/村上健志 [6]
8月:読み終へて痣の醒めゆくごと朝焼/梅沢富美男 [11]
9月:<2020年>体温だけ記す九月の予定帳/横尾渉 [4]
10月:ちゑさんの被爆ピアノや秋はきぬ/森口瑤子
11月:夏の海を描くスプレーの秋思/千賀健永 [3]
12月:ほしかもんはなかジャングルジム冷たし/東国原英夫 [10]

そうした厳しい年となった2020年の、「緊急事態宣言」下で披露され、番組初の永世名人昇格を決めた梅沢富美男の『花束』の句をMVHに選出したく思います。非常にハイレベルで甲乙つけがたい中ですから、その年を代表する様な存在、まさに「Mr.プレバト」の偉業に敬意を評したいと思います。

2021年:


1月:風花へしゅぱんしゅぱんとゴム鉄ぽう/森口瑤子 [2]
2月:流星群いくつか海に墜ちて海胆/藤本敏史 [11]
3月:最初はグー聞こゆ志村忌春の星/梅沢富美男 [12]
4月:ユンボの一撃花冷えのごみ屋敷/東国原英夫 [11]
5月:住み込みの夜のケーキの苺かな/IKKO
6月:宵宮の慈雨は屋台の人波へ/千賀健永 [4]
7月:玉葱やこの人結局死んじゃうの/東国原英夫 [12]
8月:手花火の火に手花火と手花火を/千原ジュニア [4]
9月:秋声や台詞をなぞる蛍光ペン/北山宏光 [2]
10月:鯖雲と無人弁当販売所/星野真里
11月:秋暁の富士へ遊覧飛行船/岩永徹也
12月:母の余命知る冬の日のレイトショー/向井慧

2022年:

1月:冬天よ母を泣かせて来る街か/福田麻貴
(暫定)2月:春の駅白杖の傷夥し/千原ジュニア

果たしてこの後、どんな名句が誕生していくのでしょう?
随時、Rx選の「月間MVP」を選出してまいります。今後もお楽しみに!


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