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(8月)時代ごとの「最高気温」を振り返ってみよう!

【はじめに】
2020年8月16日、静岡県浜松市船明(ふなぎら)で40.9℃を観測、さらに、翌17日には、浜松市の市街地で41.1℃という、日本観測史上最高気温タイの気温が観測されました。
もはや、全国どこかで「40℃」を超えることが珍しくなくなってきました。

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ということで、今回は、「40℃超え」を中心に、日本での歴代「最高気温」ランキングを簡単に振り返っていこうと思います。

1.気象庁「歴代全国ランキング」の注意点

真面目に「最高気温ランキング」について考察していくならば、この記事に「ランキング」の表を引用した上で、高温が記録されるたびに情報を更新していくべきなのでしょうが……
今後も、毎年の様に頻繁にランキングが更新されていく可能性が高いことも考慮し、他サイトのリンクを貼ることとしたく思います。

( 参考 )
例えば「最低気温ランキング」は、平成以降で2例しかランキングに動きが無いのに対し、「最高気温」の方は後に述べる「山形」以外の20例中19例が平成以降に更新されています。地球温暖化などの影響もあるのでしょうが、高温の方が記録が更新されやすい日本列島になっていると認識しましょう。

やはりベースになるのは、気象庁の「歴代全国ランキング」のページです。一般に、メディアなどにおいて「ランキング」として登場するのは、ここの表をもとに作成していることが大半です。 ↓

ただ、注意しなければならない点が幾つかありますので、思いつく範囲で。

(1)“各地点の観測史上1位の値を使ってランキングを作成”している点 = 各地点の観測史上2位以下の値は登場しない点

例えば、「熊谷」で観測史上1位の値は、起稿時点で日本記録となっている「41.1℃(2018/7/23)」なのですが、熊谷での史上2位の記録は「40.9℃(2007/8/16)」です。こちらも災害級の暑さですよね?しかし、この値は「熊谷の史上1位」記録ではないため、先に示したリンクの表には一切登場しません。(見方を変えれば、全国Top10入りしうるのに。)

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集計方法の一つであり、集計そのものをとやかく言うつもりは無いですが、情報を処理・解説する上では押さえておきたい重要なポイントです。

(2)観測網や観測方法(10秒間隔)の時代による変化

これは、地震などでも同じようなことが言えるのですが、1970年代以降、「アメダス」が全国に整備され無人観測が進んだことに加えて、平成以降、無人観測の観測間隔が短くなった(1時間間隔→10分間隔→10間隔)ことなどの影響が極めて大きく出ている印象です。

厳密でないかも知れませんが、単純に10分(=600秒)間隔だったものが、10秒間隔になれば、密度は単純計算で60倍になります。そこを何も考慮せず単純比較をすれば、10秒間隔で観測される今の方が上回るに決まってます。

上の記事の「過去との比較には注意必要」という部分が的を射ています。

こういった注釈や情報を受け取る上での注意点については、もっと積極的に発信していかないと!
「盛大な勘違い」をしたまま、『あー21世紀になって、やっぱり暑くなってんだー』と、名目のランキングを鵜呑みにしてしまいかねません。こうした報道を見かけた時は要注意です。

2.有志の方々による“最高気温ランキング”たち

ここまでで見てきた注意点についての啓蒙活動を行っている有志の方々は、ネット上にもチラホラお見かけします。例えば、Togetterから。

特に、先ほど(2)でお話しした『間隔』の違いを公平にするべく、全て「1時間間隔」にデータを揃えたランキングを発表しています。

( 注 )
これは地震の震度データでも常々私が思っていることと一致するのですが、

「1時間に1度」しか観測の値が無かった“昔”の時代のデータについて、「10秒に1度」という“今”の時代の基準に当てはめるのは不可能に近い。
ただ、「10秒に1度」値がある今のデータを、昔の基準に添って間引いて、「1時間に1度」で揃えることは案外できる。という発想に基づくもの。

そして、そういったデータ整理を楽しみや仕事として、『随時更新』をしている記事を、2つばかりご紹介したい。

繰り返しになるが、この記事では、更新の頻度などを加味して、ランキングそのものを掲載することは断念しました。上記リンクなどを通じて、最新のランキング表をご確認いただければと思います。

3.歴代の最高気温記録たち

ではここからは、時代ごとの「最高気温」記録たちをご紹介していきます。
ここまでお話ししてきた通り、様々な要因があり、単純比較が難しいため、最高気温に関しては、連続性や小数点以下の数値に固執すべきではないのではないかと考えたからです。

(1)明治時代:39.1℃(1909年・新潟)

明治時代に始まって、全国各地に整備された気象観測網。そんな明治時代を通じての最高気温記録は? というと、(私が簡単に調べた範囲ですが、)こんな記事を見つけましたので、ご紹介しておきます。

1909年(明治42年)8月6日に「新潟」で記録された「39.1℃」が、恐らく明治期における最高記録だったのではないかと思います。
熊谷や浜松など、明治時代から続く観測点でも、年間を通じての最高気温が35~37℃という年が大半な中、この「39.1℃」という値は抜けていました。

ちなみに「新潟」では、2018年の猛暑で『109年ぶりに記録が更新』されたと一部で話題になりましたが、それまで1世紀も記録を保持していたのが、この1909年の事例だったということです。

(2)大正時代:42.5℃(1923年・撫養)

続く大正時代には、先ほどの「最高気温記録」には含まれない記録が2つ誕生しています。

① 関東大震災
一つ有名な話としては、1923年、『関東大震災』による大規模火災により、中央気象台で観測された「46.3~46.4℃」があります。気象庁のデータでは現在『欠測扱い』になっていますが、こうした値は逸話として度々見ます。

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② 徳島県撫養町
もう一つ、こちらはそうした特殊事情では無いものの、先ほどのランキングに登場しない、徳島県撫養町(むやちょう)の「42.5℃」をご紹介します。(ちなみに、撫養町、現在は鳴門市の一部となっています。)

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出典:㈱朝日新聞出版発行「知恵蔵」より引用

……この日本最高気温の記録は、気象庁自らの観測であり、1923年8月6日に徳島県撫養町(現 鳴門市)の中央気象台委託観測所で42.5℃を観測するなど、40.9℃を超える観測例がある。(饒村曜 和歌山気象台長 / 2008年)

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出典:ウィキペディア『気温』
徳島県撫養町(現鳴門市)の42.5℃は、アメダス導入以前に気象庁が観測業務を委託していた区内観測所での記録であるが、委託観測であることや、風の弱い晴天時の百葉箱内では実際よりも高い気温が観測されることがあるため、気象官署や現在の記録とは単純に比較はできない。

出典:同『区内観測所』
区内観測所とは、気象庁がアメダス設置以前に観測業務を委託していた気象観測所のことである。管内観測所とも呼ばれ、その地域の気象官署を含めた総称としても用いられた。
現在のアメダスよりも高密度に配置されており、観測業務は役所や個人などに委託されていた。

先のランキング表は、委任観測の値を除外しているため、登場しません。
しかし、以下の記事にあるとおり、そう簡単に除外して良い値では無い様に感じます。「41℃」を上回る値が、実際に観測された例もあるのです。

ちなみに、1914年には静岡県水窪(みさくぼ、現在の浜松市)で「42.0℃」を、(撫養と同様)委任観測所で記録しており、昭和20年代以前には、数年に一度のペースで「41℃」を超える値が観測されていたことも参考までに。

案外、全国で40℃を超える値が観測されるのって、100年前もそうだったかも知れませんね。

(3)昭和時代:40.8℃(1933年・山形)

先に述べた委任観測所のデータが軽視される昨今において、史上初めて40℃を超えた例として取り上げられることが多いのが、1927年(昭和2年)7月22日の「愛媛県立松山測候所宇和島支所」における「40.2℃」です。

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「宇和島」の歴代の観測の値の中でもずば抜けて高いこの値は、1933年までの6年間、気象庁による観測値としては全国最高記録でした。

更にそれを上回り、長らく「日本最高気温記録」として君臨し続けたのが、1933年7月25日に山形県山形市で観測された「40.8℃」です。
結果的には2007年までの74年間、この記録は更新されませんでした。また、『最高気温記念日』は、今でも7月25日とされています。

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(4)平成時代:41.1℃(2018年・熊谷)

平成時代に入ると、「10秒間隔」での観測が可能となったこともあり、40℃を超える値が次から次へと観測されるようになります。

・40.6℃:1994/8/4 静岡県「天竜」
・40.6℃:1994/8/8 和歌山県「かつらぎ」

平成6年8月に全国で相次いで40℃超えを記録し、上記2例は、1933年の「山形」の金字塔40.8℃に迫る記録として大きな話題となりました。

そして2007年、ついに昭和の大記録を更新する「40.9℃」が観測されます。アメダス多治見と熊谷地方気象台です。74年ぶりの記録更新ということで、その情報だけが大きくワイドショーでも取り上げられました。

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さらに、その後も平成年間で名目値上は0.1℃ずつの更新が続いて、その度に『日本記録更新』と大きな話題になるようになりました。

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・40.9℃:2007/8/16 岐阜県多治見市、埼玉県熊谷市
・41.0℃:2013/8/12 高知県四万十市(江川崎)
・41.1℃:2018/7/23 埼玉県熊谷市

2018年には、災害級の暑さがユーキャン新語・流行語大賞トップテンに選出されるなど、0.1℃に一喜一憂するほどに関心の高まりを見せています。

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( 参考 )
ちなみに、この2018年7月23日には、東京「アメダス青梅」でも「40.8℃」を記録し、東京都下・初の40℃超えとして注目されました。

ただ、それより遡ること14年、2004年8月16日に、足立区江北で「42.7℃」という大正時代・撫養町をも上回る値が観測されていたというのです。

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東京都環境科学研究所による観測値では、この最高気温に限らず、東京都内でも40℃を超える地域が広がっていることが示されています。
こちらも、先ほどの委任観測所と同様、気象庁による観測値ではないため、ランキングなどには登場しませんが、「41.1℃」を超える観測値が無いか?と尋ねられると、「昔から気象庁以外の観測において実例がある」との答えになりましょう。

(5)令和時代(暫定値):41.1℃(2020年・浜松)

マスクを着用しての酷暑となった2020年夏。2020年8月16日に静岡県浜松市の(天竜区)船明(ふなぎら)で「40.9℃」を観測すると、翌17日には、同市の市街地にあたる「浜松市中区」で「41.1℃」という値を観測します。

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改元を挟んでいるものの、令和2度目の夏で、平成年間に記録した値と並ぶ値が観測されてしまいました。(最新のランキングは上記の画像を参照。)

連日、40℃近い酷暑が続いており、令和の時代において、平成の時代に記録された「41.1℃」という気象庁による観測記録を上回る値が出てくるのも、恐らくは時間の問題ではないかと思います。

4.おわりに

梅雨に入るか入らないかというタイミングで、以下の記事を書きました。

「熊谷」で10分間 50.0mmという観測史上最大の大雨を観測したことから、『歴代「降水量」ランキングを振り返る』と題した記事です。
今年の梅雨は豪雨災害が各地で見られたこともあってか、お陰さまで多くの閲覧を賜っており、励みになっております。

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偶然にも、「熊谷」というと、今回の記事でも登場した様に、『猛暑』の街としての印象も強く、最高気温の(いわゆる)日本記録も保持しています。

『こんなに~~なのは、生まれて初めて』というインタビューが災害のたびに聞かれますが、豪雨に猛暑に、これまで観測したことのない様な気象現象に苛まれている観測点が全国にあることが恐ろしいことです。
(気温のデータの観測間隔が「10秒間隔」に短くなるなど、観測方法の変更による影響もあるとは思います。)

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しかし、2018年に『災害級の暑さ』というワードが新語・流行語大賞10選に選ばれたことからも分かるように、熱中症などへの備えがますます重要な夏が続くことでしょう。

この記事では、“気象庁”が公表している『最高気温ランキング』についての注意点をまとめるとともに、過去の特筆すべき高温記録を時代ごとに振り返ってきました。

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今後も夏が来るたび、ランキングに動きが起こるのではないかと思います。或いは『日本記録更新』と大々的に報道されることもあると想像されます。

ただ、色んな理由から、ランキングに加えられていないデータがあったり、観測方法(間隔)に大きな変化があることも皆さんには把握した上で、そうした情報に接して欲しいと思います。

それでは、くれぐれも熱中症など猛暑にはお気をつけ頂きつつ、次の記事でお会いすることにしましょう。Rxでした、ではまたっ!

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