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プレバト!!歴代俳句ベスト50③【推薦】

【はじめに】

2020年6月25日、「プレバト!!」の特別企画として、(放送当時)これまでの全1,719句から、句の良し悪しでランク付けするという触れ込みのもと、『歴代俳句ベスト50』が放送・発表されました。

私も、過去2回にわたって、「ベスト50+α」をご紹介していますが、(【春/夏】と【秋/冬】のリンクは上下を参照)

こういうランキング物の『宿命』として、
 ・「これはもっと上でしょう!」 とか、
 ・「あれが入らないのはおかしい!」 とか、
そういう声がネット上でも広く見受けられました。

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そこで今回は、「ベスト50」にランクインしなかった俳句の中から、私(Rx)が、(ネット上の反応などを尊重しつつ、)独断と偏見で選んだ、『歴代俳句ベスト50③【選外】』と題した記事をお届けしていきます。

1.(18/9)鰯雲仰臥の子規の無重力/東国原英夫

まずは、他の句と比べても「倍」以上、ツイッター上だけで20名以上が、『ベスト50に入らないのはおかしい!』と呟いていた一句です。

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タイトル戦の『廃村のポストに小鳥来て夜明け』/梅沢富美男を抑え、月間MVH、そして2018年度の年間MVHにも選ばれた東国原英夫名人の句から。
『俳句甲子園』の対外試合ということもあり、番外編的な対戦であったことから、実質的に『除外』されてたのかも知れませんが、やはり「年間MVH」にも選ばれた句がベスト50に入らないという事実に、違和感を覚えた視聴者も多くいました。

2.(19/1)賽銭の音や初鳩大空へ/鈴木光

同じく『除外』されていたのではないか?と疑ってしまいたくなったのが、正月恒例となっている『番組対抗戦』の俳句たちです。

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例えば、2020年にプレバト!!チームを下した『雑煮の香 雨の銀座の生中継』は「ベスト50」選外として番組内で紹介されていましたが、その前年である2019年の番組対抗戦での鈴木光さん(現・特待生)の句は、月間MVHに選ばれただけでなく、後の活躍を予感させるほどの大絶賛でした。

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秀逸句に選ばれた『ギャロップの道化師のごと牧開』ほどの技巧的な派手さは無いかも知れませんが、『賽銭の音や初鳩大空へ』の明瞭さと爽やかさはベスト50に入っていても決しておかしくない秀句だと思います。

ただ、番組対抗戦は、2人チームで『相談可』などとなっているため、単独で作った俳句ではなく「ベスト50」からは実質的に選外となっていた可能性も否定できないかなと思いました。

3.(17/1)初日記とめはねに差すひかりかな/村上健志

「プレバト!!」俳句史上2人しかいない『2ランクアップ』の判定。それを番組史上初めて達成したのが、当時、特待生に昇格したばかりで5級だった村上健志(現名人10段)です。
(タイトル戦開始前の)2017年1月・お正月SPの特待生・名人一斉査定をこの句で挑み、夏井先生からの絶賛を受けました。

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後にタイトル戦を連覇した時と同様に、スーパールーキー時代とも言える、平場2回とこの2ランクアップの句は、『半径数十cm』という狭い範囲での光や影などを絶妙に描写しています。

2ランクアップという評価は、特待生5級などの低い地位でしか記録されておらず、名人になってからの俳句が高く評価されての「ベスト50」なのかも知れませんが、やはりこの句の『正月らしいおめでたさ』は、村上現名人の持ち味を存分に発揮した秀句だと感じます。

4.(19/3)「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙/柴田理恵

初日記から2年、同じく特待生一斉査定で史上2人目の『2ランクアップ』を達成したのが柴田理恵さんの一句です。

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『号外を配る写真』という兼題写真から、「犯人逮捕」という見出しを上五に据え、その直後に北陸地方の郷土料理である季語の「干鱈(ひだら)」を配置。“毟(むし)る”という動詞を置きながら、最後には「黙(もだ)」とするドラマチックな展開には感服。

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同じく地元を読んだ句として「75点」を叩き出した『もてなしの豆腐ぶら下げ風の盆』は秀逸句に入りましたが、こちらの「犯人逮捕」の句も、それと同等か或いはそれ以上のインパクトを視聴者に植え付けており、選外なのを惜しむ声がネット上で非常に多く聞かれました。

5.(17/12) 750ccのタンクにしがみつく寒夜/千原ジュニア

代名詞的な俳句を続いて紹介してきましたが、続いてはタイトル戦にも滅法強い【千原ジュニア】名人の句。これは、俳句のクオリティというよりも、人気先行の面も若干否めませんが、やはり持ち味を経験則に沿って描いた句ということで選ばせてもらいました。

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今や代名詞となっていますが、この「750cc(ナナハン)」という特徴的な名詞を使ったことで、オリジナリティが増しています。
ベスト50にランクインしていた『ヘビメタの担ぐギターと破魔矢かな』の様に、俳句に到底結びつきづらいと思われる単語をしっかり季語と取り合わせて来るあたり、流石は(コツコツ型の?)名人といった所です。

個人的には、「親バカ俳句」と称されるこれらの2句、

・子の利き手左と知りて風光る
・パティシエに告げる吾子の名冬うらら

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また世間的には、750cc 俳句の中でも予選1位に輝いた

・顔面骨折カニューレの接ぐ春の朝

この句なんかもベスト50に入っていてもおかしくないのではないかと感じるほどに、印象的で人によって高評価の句が変わってくる“底の深さ”を感じる名人です。

6.(14/6)空の底強き風恋ふ水芭蕉/杉山愛

そして個人的にはまだ番組を見ていなかった時代の句なのですが、全1,719句と銘打って企画した割に、現・レギュラーの句ばかりで、番組発足当初の句が殆ど登場しなかった点、一部の古参視聴者から不満の声が上がりました。

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《 暦年別、ベスト50 ランクイン数 》
2013年 0句
2014年 0句

2015年 1句(83点:向日葵の波に逆らひ兄逝きぬ/筒井真理子)
2016年 5句
2017年 9句
2018年 13句
2019年 14句
2020年 8句

2020年が5ヶ月で8句ということを考えると、年々、採用句数が増えていることが浮き彫りになります。ちょうど特待生制度が導入された2016年およびタイトル戦が始まり今の制度が確立した2017年以降が大半を占めています。

もちろん番組当初に比べて、全体的なレベルの底上げは感じますし、現在の名人・特待生も初期に比べて上達していることを感じ取れるのは事実です。

その一方で、タイトル戦の優勝句が軒並みランクインしている事実もあり、俳句の得点分布が大きく動いた2016年付近で「一種の断絶」のようなものがあるのではないかと勘ぐってしまいたくなる、初期の『冷遇っぷり』です。

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駄作も多いとはいえ、2015年で1句だけランクインし、それ以前からは1句もランクインしないというのは、少し違和感を覚えてしまいました。

得点の傾向が大きく変わったことは重々承知していますが、番組最高点は、番組初期に記録されたものであり、番組黎明期を支えた実力者たちの句を、『全1,719句の頂点』と大上段に構えているのだから、少しは取り上げないと不自然ではないでしょうか。

ということで今回は、初期の高得点の俳句を厳選して2句取り上げます。

番組史上最高得点88点:空の底強き風恋ふ水芭蕉/杉山愛

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前置きが非常に長くなりましたが、番組史上最高得点であると共に、最初期に開催されたタイトル戦を優勝した【杉山愛】さんの句です。
正直、この句が入るかどうかで、過激に言えば、『初期を黒歴史化』しているかどうか判断が付くのではないかと思っていたので、「ベスト50選外」というのは残念ながら、ここで救済したく思います。

この2014年6月19日の回は、プレバト!! 初期の伝説回に当たりまして、実は歴代1位・2位の得点が、初期の名手たちによって叩き出されました。

7.(14/6)号令も風となりけり水芭蕉/又吉直樹

1位88点・杉山愛さん、2位85点が又吉直樹さんのこの句でした。

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お笑い芸人ピースの又吉直樹さんとして出演していましたが、この翌2015年には「芥川賞」を受賞し、小説家として大注目を浴びることになります。

そんな又吉さんの句の中でも、振り返られる機会が多かったのがこの俳句『号令も風となりけり水芭蕉』です。

遠足や林間学校などとしても人も多く訪れる観光地「尾瀬」の【号令】を、『風となりけり』(平場の人が間違いやすい『になり』でなく『となり』とさも当然のように書いている辺りも流石。)と形容して、最後に季語となる【水芭蕉】を配置する構成力。
これで2位に判定されてしまうのは、本当に気の毒としか思えないですww

と、ここまで記事を書いてきて思い出した初期のスペシャル回があります。

2015年4月に放送された「(当時)全197句」の頂点を決めるというランキング企画です。

1位 88点 空の底強き風恋ふ水芭蕉/杉山愛
2位 85点 号令も風となりけり水芭蕉/又吉直樹
3位 80点 しんしんと仏の白き息あおぐ/梅沢富美男
4位 78点 春の風バスを待とうか歩こうか/柴田理恵
5位 70点 曲がっても曲がっても燃ゆ紅葉坂/野間口徹

ひょっとすると、この時対象だった「俳句査定開始当初から2015年3月末」は、今回のランキングから除外したのかも知れません。
(スタッフの中の認識で、前回として連続性を確保しようとしたのかも?)

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ただそれならば「全1,719句」などと“除外した作品はない”かのような誤解を招く表現を避けてもらった方が『違和感』は残らなかった様に感じます。

本当の意味で、1,719句から頂点を選ばんとする趣旨から今回は、ここまで、上記7句を「ベスト50」にランクインさせることを推薦します!

8.(19/3)紙雛のにぎやか島の駐在所/梅沢富美男

と、ここまで触れられなかったのですが、俺も罵倒されてしまうと困るので『梅沢富美男』名人の句もご紹介させてもらおうと思います。

100句以上あって、秀逸句に入ってもおかしくない作品は沢山ありますが、ネット上で比較的票が集まったのが、名人10段の時のこの句です。

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『にぎやか』などという漠然とした表現を、17音に入れつつも、しっかりと映像として描ききる技術を夏井先生も高く評価していました。
こういう風に、物から人々の生活・営みを感じさせる俳句こそ、永世名人の持ち味だという風に感じて推薦させてもらいます。

9.(18/8)生きる人も死んだ人も宿題かかえ走る江ノ電/渡辺えり

「ベスト50」に入る句は殆どが定型に基づいた、17音の作品ばかりでした。これは選者の好みというか方針も反映されているものと思います。

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しかし、『好きではないが』絶賛した作品として、特に定型から外れた作品を好む視聴者層から得票が集中したのが、プレバト!! における非定型の代名詞的存在である渡辺えりさんのこの作品です。

生きる人も死んだ人も宿題かかえ走る江ノ電/渡辺えり

6・6・7・7の26音という完全なる自由律。もはや短歌に近い文字数でありながら、詩心に溢れ、名人2人も呆然とする迫力のある作品でした。

今回のランキングに対する視聴者の感想を見ても、『印象に残る作品』は、印象的な単語や言葉が配置されていて、代名詞的に語り継がれることが良く分かりました。
(例えば、鰯雲・仰臥、干鱈、賽銭・初鳩、初日記、ナナハン、紙雛など)

10.(16/9)鰯雲蹴散らし一機普天間に/横尾渉

最後にご紹介する句も本当に悩んだのですが、1句目と同じ「鰯雲」を季語に据えた横尾さんが名人昇格を決めた句を推薦することにします。

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『鰯雲』を蹴散らす、と来て、全体を読むと映像がきちんと描かれるという横尾名人らしい趣きのある一句です。

単純な票数では、やはりKis-My-Ft2ファンという母数も多く居ることから、ジャニーズ所属の俳人の句は押し並べて人気が高いのですが、この句は作品そのものに衝撃を受けたとの意見も多く、選外句に選ばせてもらいました。

【おわりに】

「全然、全1,719句から選んでないじゃん!」という視点から、現特待生以外の作品も範囲に、選外10句を選ばせてもらいました。
視聴者の感想ツイートなどを参考にはしましたが、結局のところ、私(Rx)の独断と偏見で選んだ作品たちという点は変わりません。

皆さんには是非自分なりに「どの句がベスト50入りして欲しかった」というのを選んで頂いて、先のランキングを更に楽しんで頂けたらと思います。

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俳句の楽しみ方の一つに句の鑑賞があり、どれが好きというのを明確にすることで、自分がどんな作品を俳句に求めているのかを認識できるはずです。人それぞれ秀句を選べるほどバラエティに富んだ「プレバト!!」俳句、次回のランキングがあるのか分かりませんが、新たな秀句の誕生に期待しつつ、今回の記事を終わりたいと思います。では、次の記事でお会いしましょう!

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