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【乃木坂46】なぜ、3・4期生ライブだったのか

 先日、8thバースデーライブが開催された。4日間計200曲に及ぶ長大なライブだったが、アイドルたちは思い思いの形で今の乃木坂を表現し、セットリストはそれに応えた。僕はこのライブの2日目と4日目に参加できたが、今年のバスラは去年の7thとは全く違ったライブだったと感じている。8thバスラでは、去年のバースデーライブにおいて僕が感じた"過去と未来が地続きになっていない違和感"が、完全に払拭されていたからだ。

 7thも8thも同じ全曲披露という性質上、卒業生のポジションに後輩が入ることは避けられなかった。だが両者の決定的な違いは、アイドルたちの顔に現れた。7thのセトリは、あまりにも重い歴史と解釈を後輩たちに押し付けた。3期生は卒業生のポジションを埋めるために重宝され、4期生は責任を分散するようにソロ曲の大半を任された。4日間を通して、何人ものアイドルがステージの上で背負う物の重みに震えて泣いていた。乃木坂の歩んできた道と自らの現在地があまりに乖離していて、その曲に向き合う準備など全くできていなかったのだろう。僕が当時感じたこの"違和感"は、今後3期生4期生たちが主体となっていく乃木坂のライブにおいて、避けられないものだと思われた。

 しかし、ナゴヤドームで迎えた今年のバスラは全く違っていた。それぞれの曲に対して歴史と解釈に裏打ちされた丁寧な人選で、若いアイドルを批判から守るばかりか、その曲に新たな解釈を吹き込んだ。先輩の役割を任されたアイドルたちは、去年と打って変わって皆とてもいい表情をしているように見えた。乃木坂46を担う一員として、過去と現在地が地続きになったのだ。ライブ後のブログやSHOWROOM等の媒体でも、彼女たちは今年のバスラについてポジティブに振り返っている。

いざリハーサル期間に入ると、
覚えることも沢山で、
コップの中の水がだーっと
溢れてしまいそうな
すれすれでぎりぎりな感覚に
何度も襲われました。
がしかし、それらが流れ出ることは
なかった今年です。
余裕が生まれたわけでも、
慣れが生じたわけでもなく、
なんでしょう...
楽しむこともひとつ覚えたような
そんな感覚でした。
去年の7thバースデーのときの私よりは
ずっと、強くなれた気がしてます。
堂々と立てた気がします。
楽しめた気がします。

 一体何がこの1年で彼女たちを変えたのか。乃木坂46のメンバーとしての自信が芽生えたきっかけは何だったのか。ここでは、その転機となったライブに焦点を当て、それを牽引した3期生たちによる当時のインタビューやブログ等を引用しながら、その答えを紐解いていく。

背景

 10月20日、全国握手会にて3期4期ライブの開催が発表された。このタイミングでの合同ライブ開催に、ネットは疑問で溢れた。4期生たちはその年、すでに大小様々なステージで単独公演を何度も成功させてきた。そのタイミングでの合同ライブ開催は、それまでの3期生と4期生それぞれの歩みを考えると意外な発表だった。

 3期生にとっては4期生という後輩ができておよそ1年が経ち、3期生自体の活動も4年目を迎えていた。しかしなお、活動期間の大きく離れた1期生2期生に対して、3期生にはいつまでも"後輩"のイメージがつきまとっていた。2019年は4期生の加入に伴ってそんな3期生も先輩になり、乃木坂46を下の期へと伝えていく存在に変化することが求められるようになるはずだった。しかし加入して3年経っても、1期2期が"乃木坂46"であるのに対し、3期生4期生は"次世代の乃木坂46"であるという、彼女たちを取り巻く運営やオタク側の認識は変わることがなかった。

このタイミングで私たちがもっともっと変われば。皆様になにか伝えられるきっかけになれれば。

 3期4期ライブが決定した当時、梅澤美波はモバメでこう決意を語っている。3期4期ライブは、これまで"後輩"としての自分たちが味わってきた苦悩と、向けられてきた厳しい目を払拭するためのまたとない機会だった。それだけではない、"次世代""フレッシュ"という言葉で形容され続けてきた自分たち自身が大きく変化できるチャンスでもあった。その思いは、3期生の皆に共通していたのだろう。中村麗乃は、それまでの3期生の現状を顧みて、当時のブログにこう綴っている。

私はこのライブの開催が決まったと聞いた時、
このライブがどうなるかで、私たちの今後が決まるくらい、本当に本当に大事なものになると思いました。
 
今、乃木坂46のメンバーでいさせて頂いてますが、やっぱりどうしても1期生や2期生の先輩方より圧倒的に表現力が足りてないと感じるし、今いるこの環境に甘えている部分が絶対あるから、それを踏まえてこのライブをどうするか、どうしなくちゃいけないのかちゃんと考えなきゃいけないと思いました。

 このライブは、立場と実力の乖離を感じてきた彼女たちに変革を促すと同時に、変わろうとする彼女たち自身の力で成功させなければならない、とてつもなく大きなプロジェクトだったのだ。

 代々木体育館という限られた箱に対して、応募倍率は10倍を超えた。3年間"次世代"と呼ばれ続けたアイドルが今、何を見せるのか。多くの注目が集まった。

セットリスト(2日共通)

M1. おいでシャンプー(センター:山下美月)
M2. ガールズルール(センター:山下美月)
M3. 裸足でSummer(センター:与田祐希)
M4. トキトキメキメキ(センター:岩本蓮加)
M5. キスの手裏剣(センター:遠藤さくら)

<4期生パート>
M6. 4番目の光(センター:遠藤さくら)
M7. 会いたかったかもしれない
M8. ハウス!

<3期生パート>
M9. 三番目の風(センター:大園桃子)
M10. 自分じゃない感じ(センター:山下美月)

<4期生パート>
M11. 図書室の君へ(センター:掛橋沙耶香)
M12. 羽根の記憶(センター:賀喜遥香)

<3期生パート>
M13. 日常(センター:久保史緒里)
M14. 自由の彼方(センター:梅澤美波)
M15. 思い出ファースト(センター:大園桃子)

3期生 VS 4期生 乃木坂46クイズ大会

<ユニットコーナー>
M16. でこぴん(岩本蓮加・大園桃子・向井葉月・筒井あやめ・矢久保美緒)
M17. あらかじめ語られるロマンス(伊藤理々杏・阪口珠美・与田祐希・掛橋沙耶香・柴田柚菜・清宮レイ)
M18. 欲望のリインカーネーション(梅澤美波・佐藤楓・山下美月・吉田綾乃クリスティー・金川紗耶・田村真佑・早川聖来)
M19. 私のために 誰かのために(久保史緒里・中村麗乃・遠藤さくら・賀喜遥香)

M20. 逃げ水(センター:大園桃子・与田祐希)
M21. 夜明けまで強がらなくてもいい(センター:遠藤さくら)
M22. 不眠症(センター:久保史緒里・山下美月)
M23. 僕の衝動(センター:伊藤理々杏)
M24. 未来の答え(センター:久保史緒里・山下美月)
M25. 空扉(センター:梅澤美波)

M26. ぐるぐるカーテン(センター:遠藤さくら)

EN1. ロマンスのスタート
EN2. 自惚れビーチ
EN3. ダンケシェーン

EN4. 乃木坂の詩

 ありがたいことに、僕はこのライブに2日とも参加することができた。2日間を通して感じたことは、このライブは「継承」と「打破」の2つに大きく分かれているという点である。前者は主に先輩の曲で、後者は自分たちが主役になる曲で表現された。それだけではない、彼女たちは驚くべきアプローチでそれらを打ち出してきたのだ。

継承

 それは唐突なダンスパートだった。スポットライトを浴びた3期生たちが次々とダンスを披露していく。その演出は、前年に武蔵野の森総合スポーツプラザで行われたアンダーライブ関東シリーズを想起させるものだった。北野日奈子をアンダーセンターに据え、「日常」が披露されたアンダーライブ。それを再現するかのような演出は、まさにこれまでのアンダーライブを踏襲しているような迫力があった。

 アンダーライブは常に力強い解釈で楽曲に新しい主語を付与してきた。座長北野日奈子を始めとしたアイドルたちは、「日常」のパフォーマンスをもって「アンダー」という曲の忌まわしき十字架を過去のものにした。それを間近で見ていた久保史緒里は、3期4期ライブで「日常」のセンターを買って出ることで再びそれをやってのけた。今度はアンダーライブを経験した3期生たちが主体となって、先輩から受け継いだパフォーマンスをやり遂げたのだ。

 久保史緒里が伊藤かりん、伊藤純奈とともに歌唱した「私のために 誰かのために」等は、3期生が1、2期生に追随してゆく象徴的なナンバーとなった。アンダーライブ初参加となった久保は伊藤かりん、伊藤純奈とともに、互いに共鳴し合うようにコミュニケーションを交わしながら、楽曲のイメージを分厚く作り上げていく。歌唱力に定評のある3人によるパフォーマンスは、「私のために 誰かのために」という楽曲の像を作り変えるようなドラマティックさを含んでいた。

 久保史緒里は、同じく3期生の中村麗乃や4期生からなる同い年の4人で「私のために 誰かのために」を歌い上げた。これもまた、武蔵野の森で先輩と共に披露した曲だった。あの時アンダーライブで伊藤純奈伊藤かりんがそうしたように、久保史緒里を初めとしたメンバーは、受け継がれてきたこの曲に新たな解釈を吹き込んだのだ。

個人的に、この曲に思い入れがある分、
同じ曲をやることに、
正直、怖さもありました。
でもこの4人で作り上げる世界は、
また別のもの
で、
みんなで支え合いながら
歌っている感覚がとても心地良かったです
アンダーライブの時は先輩たちに支えられて、自分の中で素敵な思い出として残っているんですけど、3期4期ライブで同じことをやっても意味がないので。前回は主メロだったんですけど、今回はハモも担当させてもらったので、「支えよう」という気持ちが大きかったです。(OVERTURE NO.021 久保史緒里のインタビューより)
最近では同期もそれぞれの活動の場で
頑張っていたので久しぶりに
3期生で集まって本番にむけて挑むという事が懐かしく、嬉しくて、ウキウキしていました。
(´・_・`)(´・_・`)♡
でも、今回は後輩の4期生も一緒という事でウキウキばかりはしていられないなと思い
全国ツアーや、
アンダーライブのリハを思い出して、
自分が先輩方から教えていたいただいた事、
嬉しかったこと、色々考えました。
とてもとても先輩らしい事はまだできないし、私が教えてあげられる事はなく、自信もありませんが、
ありがたいことに3期生の中でも
たくさんのライブ経験がある事は
活かさないとと。
先輩との活動を通して学んだ事、
素晴らしいなと思ったことは伝えていかなくては!と思っていました。
(中略)
私が先輩をみて学んだみたいに、少しでも後輩に伝わっていたらいいなと思いました。

 先輩の代役という至上命題を背負った3期生たちはこれまで苦しみ続けていた。しかし、アンダーライブを経験し過去の曲に向き合ってきたことで、その長い歴史に自分たちの力で新たなページを刻む術を獲得した。その証拠に、岩本蓮加はアンダーライブの座長として他のメンバーを先導する立場にまで成長を遂げている。先輩としての自覚が芽生えた3期生たちは、真の意味で、乃木坂46の楽曲を継承したのである。ライブ中盤においてこれらのアンダー楽曲が放った意味は計り知れない。

打破

 このライブは継承だけで終わらなかった。「私のために 誰かのために」の直後に披露されたのは、「逃げ水」。3期生が始めて選抜に名を連ねるばかりか、Wセンターとして抜擢された曲である。梅澤美波は4thアルバム「今が思い出になるまで」発売に際して、この曲について自身の連載でこう語っている。

アルバムの収録曲では「逃げ水」に思い入れが深くて、聴くと当時の感情がよみがえってくるんです。
3期生から桃子と与田が初めて選抜に入ってセンターを務めた曲で、その時期は3期生のみんなが葛藤しながら頑張って、それぞれ意識が変わりました。
だから、今でも「逃げ水」を聴くと気持ちがシャキッとするんです。(日経エンタテインメント! 連載・『梅澤美波の清楚系熱血派』より)

 3期生が再び生まれ変わるには、この曲が必要だった。3期生全員が選抜のポジションに入り、大園桃子与田祐希をセンターに据えて堂々たるパフォーマンスをした。それはあの頃と全く違った、今の3期生たちの「逃げ水」だ。僕はそれを見ていて、これはただのライブではなく、3期生の現状を打破するためのものであると確信した。

あのイントロがかかると選抜に入った2人(大園、与田)と分かれた2年半前のことを思い出します。そんな曲を3期と4期でパフォーマンスすることが不思議な感じがしたんです。新しい世界にきたというか。(EX大衆2020年2月号 向井葉月のインタビューより)

 「逃げ水」に続いて4期生が中心となり披露された楽曲「夜明けまで強がらなくてもいい」もまた、将来同じ文脈で語られるだろう。

ここからライブは怒涛の展開を見せる。

 このライブにおいて「空扉」は最も重要な役割を果たした。梅澤美波の初選抜かつ初センター曲は、元々は彼女の新たなスタートを後押しする曲だったように思う。その後その曲は4thアルバムに収録されることはなかった。幻の曲と思われたこの曲は、3期4期ライブにおいてまったく新しい意味を纏って再び光を放ち始める。この曲が披露された時、サビを3期4期生全員で歌い上げた後の間奏で急に曲のボリュームが下がり、彼女たちが客席に向かってこのように語り始める演出があった。

梅澤「私たちは乃木坂46という歴史のまだほんの一片に過ぎません。でも、私たちにはとても大きな使命があります。未来の扉を探して、私たちは歩き続けます!」
久保「私たちがここにいられるのは、先輩たちのおかげです。でも、そこに甘んじてはいけません。自分たちの力で次の扉の鍵を手に入れてみせます!」
山下「何をするべきか、何ができるのか、その答えはまだ見つかっていません。でも、私たちの思いは1つ。乃木坂46として大空に羽ばたくこと。いつか飛びたてるその日まで、私たちをよろしくお願いします!」

 目の前の光景に目を疑った。「空扉」はいつしか梅澤美波だけのものではなく、この状況を打破しようとする3期生全員のアンセムになっていたのだ。彼女たちはこの曲に、"乃木坂46の3期生"としての矜持を込めた。4期生の加入に伴い、いつまでも"後輩"としての立場に甘んじてはいられない。居心地のいい環境に別れを告げて、自分たち自身を認めてあげるために、勇気を出して立ち上がろうとする彼女たちの強い決意がそこにはあった。3期生たちはこの日「空扉」とともに全く新しいステージに登ったのだ。

 「いつか飛び立てるその日まで、私たちをよろしくおねがいします」という山下美月の言葉には、感情を揺さぶる熱さがこもっていた。とんでもないライブになった。3期生と4期生は乃木坂46をただ継承するだけではなく、自分たちの力で立ち上がりグループに大きな変革をもたらしたのだ。このライブがこれからの乃木坂46の歴史の中で果たした役割は計り知れないだろう。厳しい目に晒され揶揄されてきた後輩たちが、自分たちの存在意義を力強く表明した瞬間だった。

 山下美月の独白のあと、空扉の歌詞はこう続いている。

そう僕たちは思うより
勇気があるとわかって欲しい
そっと手を翳せば どこにだって行けるんだ

"次の世代"と呼ばれ続けることを甘んじて受け入れ続けてきた彼女たちは、もうどこにもいない。彼女たちは、今再び輝きを放ち始めたのだ。

まとめ

継承と打破によって構成されたこのライブは、3期生を後輩から先輩へと変えた。それが可能になったのは、やはり4期生の存在が大きい。梅澤美波は過去の賀喜遥香との対談記事で、3期生と4期生における楽曲の違いについて語っていた。

3期生の『三番目の風』は『三番目の風になろう』で、4期生の『4番目の光』は『4番目の光になれますように』。
伝えたいことは共通していても言葉のチョイスが変わってくるんです。
3期生は『強い意志』で4期生は『優しい願い』なのかな。(EX大衆2019年7月号 梅澤美波のインタビューより)

3期生は『強い意志』でこの変革を成功へと導いた。かつて3期生がそうだったように、4期生たちもこのライブを通して何かを感じ取ったはずだ。彼女たちの『優しい願い』がどんな輝きを掴み取るのか、今から楽しみでならない。

 乃木坂46を語るにおいて「世代交代」という言葉が叫ばれるようになって久しい。それは、3期生4期生ら若い世代への期待も含まれているだろう。彼女たちは自らの手で、"「次世代」ではないこと" を証明してみせた。彼女たちこそが "今の乃木坂46" であり、その輝きは過去や未来と地続きであることを高らかに宣言したのだ。乃木坂46という物語は、登場人物を変えながらも、決して変わることなくこれからも受け継がれていく。

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