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【キネマ宅配便!!】2020年11月の推し映画『恋愛とは、執着と相手を想う心』

11月は久しぶりに1作品だけにしたいと思います。

「詩人の恋」を観ました。
(評価:★★★★☆)

あらすじ:自然豊かな韓国・済州島で生まれ育った詩人のテッキ(ヤン・イクチュン)は、スランプに陥っていた。売れないテッキを支える妻ガンスン(チョン・ヘジン)が妊活をはじめ、彼の人生に波が立ち始める。乏精子症との診断が下り、詩も浮かばない。思い悩む彼だったが、港に開店したドーナツ屋で働く美青年セユン(チョン・カラム)の呟きからインスピレーションを受け、新しい詩の世界への扉が開ける。もっと彼を知りたいとの思いがわき、30代後半にして初めて守ってあげたいという感情が芽生えるテッキ。そんな内心を隠しながら、孤独を抱えるセユンと心を通わせていくが……。

やり手の妻の尻に敷かれながら、小学校の放課後教師をしながら、売れない詩を紡いでいる中年男に訪れた恋心。それは詩にインスピレーションを与えてくれた若い青年。ストーリーラインや予告編を見ると、BLやLGBTっぽい雰囲気を醸し出していますが、一部エロチックな妄想はあるものの、父親的存在が欠乏している青年と、愛おしい対象を求めていた中年男の心の隙間を埋め合う相手として、たまたまそこにピタッとパズルのピースがハマっただけという恋愛劇であり、ゲイ的な映画ではないかなーという印象でした。

という前提を書いたうえで、やはり恋愛というのは、周りの目がどうであろうが自分という存在が確立するために相手を求める恋がまずあり、2人が共に人生を歩むために相手を慈しむ愛があるのだなと思います。恋愛を経験した人なら分かると思いますが、恋というのはまずは執着がある。どういう理由があろうとも、問答無用にその人がいないと自分が自分でいることができなくなる。テッキの場合は、それが詩へのインスピレーションを与えてくれたミューズ的なセユンであり、彼のことを知れば知るほど、自分の中の創造力や生活を彩っていくうえでも重要な存在になっていく。それはセユンにとっても同じで、いい加減で父親を軽んじている母親と、病の床に臥せっていて目の離せない父親の見えない束縛に縛られている自分にとって、手を差し伸ばしてくれたテッキが頼りやすい存在でもあった。しかし、この恋愛も知り合えば知り合うほど、互いが都合のよい存在に相手になっていくのです。

そこで出てくるのはテッキの妻・ガンスンの存在。辛い不妊治療でも子に恵まれない不幸な毎日でも、明るく前向きなガンスンはテッキがいくらダメダメでも、彼の傍を離れない実は強いキャラクターなのです。そんなテッキの目がセユンに向くとき、彼女は激しく動揺するのですが、その動揺っぷりにテッキはいつもはウザい存在でしかなかったガンスンの深い愛を知るのです。そんなガンスンとセユンに挟まれたテッキが最後に下す決断、、、それは優柔不断なテッキが初めて見せた人生の決断であり、彼の新しい人生の始まりだったのです。

僕がこの映画を見て、一番最初に思ったのは自分の初恋のことでしたかね(笑)。詳しくは語りませんが、それは片想いで終わっていて、相手とは一言も喋ったこともないのに、近くにいるだけでウジウジしていて、言葉をかけることで物語をスタートさせなかったことに今思っても、すごく後悔しているのです。本作のラストシーンで、同性同士の恋という、やはり今でもマイノリティな恋の形を描いているとはいえ、テッキ、ガンスン、セユンと誰一人として、この恋愛が人生にとってマイナスになることはなく、むしろ人生のプラスにしている姿を描いているのがすごくいい。恋愛とはたとえ、それが最終的に叶わなくとも、人に好かれること、自分に何らかの形で関わってくれることに嬉しくない人はいないんじゃないかと思うのです(とはいえ、ストーカーとか、迷惑行為はNGですよ、、)。

人生はいつまでも青春。今恋している人も、これから恋する人も、恋愛することに勇気をくれる素敵な作品です。

<その他の2020年11月鑑賞映画の評価>

「靴ひも」(評価:★★★):一度は家族を捨てた男と、発達障害を抱えた息子の不思議な同居劇。いい話ではあるけど、んーー普通かな、そしてちょいと地味。

「TENET」(評価:★★★★☆):ノーランが仕掛ける逆回しの世界は見れば見るほど謎が解ける。この作品は傑作と知るのが、鑑賞後だいぶ経ってからというのが面白い。

「おらおらでひとりいぐも」(評価:★★☆):芥川賞を受賞した若竹千佐子の同名小説を、沖田監督が映画化。のんびりとした風情は沖田監督っぽいが、あまりに何もなさすぎないか。。

「生きちゃった」(評価:★★★★):石井裕也監督が仕掛けるダメダメ男のダメダメ出発劇。こんなに弱い主人公も初めて見たけど、仲野大賀&若葉竜也のダメ演技が光る。

「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」(評価:★★★★):ヴィクトリア時代の世界の謎に挑む英国紳士の冒険劇。スタジオ・ライカのストップモーションアニメの質の高さに目をみはる。

「ホテルローヤル」(評価:★★):桜木紫乃の直木賞作品を武正晴監督が映画化。原作も直木賞受賞時に読んだけど、こんな作品だったっけ? 波瑠の演技はなかなかだが、物語は全体にピンぼけ感。。

「STAND BY ME ドラえもん2」(評価:★★★☆):のび太としずかちゃんの結婚式に起こるドラバタ感動劇! 感動はたしかにできるのだが、短編4,5本のごっちゃ混ぜ感は原作ファンは怒るかも(笑)

「結びの島」(評価:★★★★):山口県周防大島で活動されている医師・岡原仁志に密着したドキュメンタリー。人に触れ合うことで、生きる糧を見出してく医療のカタチに感動。

「滑走路」(評価:★★):32歳で命を絶った歌人・萩原慎一郎の歌集「滑走路」に着想を得た物語。いじめから未来を見るまなざしは感動的だが、終わりが決まっているラストに希望はみえない。。

「佐々木、イン、マイマイン」(評価:★★☆):俳優を志しながらも上京して泣かず飛ばすの男に去来する高校時代の親友。イメージしていた作品とは少し違ったが、これから伸びていく若手監督の切れ味は感じる。

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