見出し画像

黄金色の幸福

だいすきなあの子が夢にでてきた。
二度と会えないあの子。
でもこうして一緒に過ごせるあの子。
夢の中は今まで行ったことも何かで見たこともない新しい世界だった。

弟がサラダを作ると言った。
わたしはカレーを作ると言った。
冷蔵庫を開けると、出かけた母が帰ってきたらすぐ作れるようにと分量分ラップに包んだ野菜が目に入った。
「帰ってきたらもう完成してるなんてびっくりするだろうな」
にやにやしながら弟と料理をした。

外にでると、そこは駅のホームだった。
駅の外の道路の向こうに三角屋根の、木造の大きなお家が並んで見えて、屋根の三角の辺りに黄金色のイルミネーションが巻き付いていた。
と、駅のホームの階段の上に、
こちらを見つめるあの子がいる。

階段の下の私たちを見て、それから階段の段差を恐る恐る見て。4つの短い足で爪をかちゃかちゃ鳴らしながら、一段ずつ、初めはゆっくり段々早く。
そして降りてきたかと思うとホームの端っこまでひょこひょこと走り抜けて行った。
遠くに駅員さんらしき人影が見えた。
待って、危ないから。ちょっと。待って!

慌てて後を追いかけ、ホームを越えて道路を越えて。追いついて抱きしめた時、目線の先に黄金の光の数々があった。
この子はこれを近くで見たかったのだ。
腕の中のあの子から懐かしい臭い匂いがした。
穏やかで美しい冬の夜だ。

というところで目が覚めた。
ねぇ、なんて幸せな夢なの?

しかし、
不思議なのは、それらの駅もイルミネーションの飾りもお家も行ったことも見たこともないことだ。大体あの子がホームの階段のような、あんな幅の広くて段差の多い階段を降りてくるところなんて、見たことあるはずがない。

無意識に自分の五感をもって夢のような時間を過ごせるあの世界は…、4.5次元?5次元?
もっと技術が発達したらスマホのアプリの設定なんかで、寝る前にその日見る夢を自在にコントロールできたりしちゃうのかしら。

今は、嘘のような幸福に巡り会える偶然を疑わず、欲を言えばこれからもまた時々、あの子とこうして新しい世界で同じ時を過ごしたい。

#エッセイ #愛犬 #夢 #彼女のやり残した仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?