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佐久間宣行 インタビュー 〜表現において重んじていること〜 後編

*前編はこちらより

インタビュー・大東駿介/テキスト・長畑宏明/写真・岩渕一輝

佐久間宣行
テレビ東京プロデューサー。2005年から続く名物深夜バラエティ『ゴッドタン』の仕掛け人。「キス我慢選手権」や「マジ歌選手権」などリアルイベントも大盛況の人気企画はまさに佐久間さんの代名詞とも言えます。現在、ニッポン放送『オールナイトニッポン0』で水曜日のパーナリティを担当。

芸人さんには「困ったらこっちに行っていいですよ」っていうオチを用意するんですけど、そうすると心ある方は意地でも違うことをやろうとしてくれる。

大東 佐久間さんってラジオで番組の裏側について話すじゃないですか。あれってあんまりないことだと思うんですけど、それをやる理由って何です?

佐久間 マジックがなくなるっていう意味で良し悪しはあると思っていたんですが、世の中の流れを見ていった時に、もう「語れないコンテンツ」は終わっていくんだなと、これが一つです。あと、日本だと番組の数字が悪い時に、主演俳優とか司会のせいにされることが多いんですが、あれは明らかにプロデューサーの方に責任がある。どう考えても企画と演出とストーリーが悪いからハネないわけで。だから、誰が制作しているのか世の中に分かった方が良いという意味で、僕は積極的に表へ出るようにしています。

大東 佐久間さんの現場ってとにかく自由で、編集の段階できちんとパッケージしていきますよね。

佐久間 はい、キャスティングの時点で演出は決まっているから、そこに掛け合わせるお題さえあれば面白くなる。で、芸人さんには「困ったらこっちに行っていいですよ」っていうオチを用意するんですけど、そうすると心ある方は意地でも違うことをやろうとしてくれます。何も言わない時と比べて倍くらい努力してくれて(笑)。

大東 佐久間さんの中でこれから「映画」っていう選択肢はあるんですか?

佐久間 これまでは好きすぎて手を出していませんでしたが、もちろん興味はある。映画っていう2時間集中して観てもらえるフォーマットでしかできない笑いは確実にあると思うんですよ。つまり、テレビだとできないこと。

大東 それでいうと今後のテレビはどうなっていくんですかね?

佐久間 ビジネス上、「ドラマは一本当たりの予算を増やして再放送前提で作ったほうがいいんじゃないの」みたいなことは思う反面、面白いものはまだちゃんとある。フォーマット上便利じゃないから「テレビ離れ」と言われてしまうだけで。だって、実際AbemaTVは若い人たちに観られているわけでしょう。日本のテレビ業界は他の国に比べて巨大になりすぎたんですよね。韓国なんてもう3局しかないし。こっちは地上波の広告モデルが優秀すぎるがゆえに恐竜になって進化できていない。あとユーザーも我慢強い。新しいサービスになかなか移行しないんです。

大東 佐久間さんって本当に変な人ですよね(笑)。オールナイトニッポンもそうですけど、局員なのに他局で見るでしょ。なんでそんなことが許されるんですか?

佐久間 これは本当に偶然で……外に出ていったら、僕がやった番組の見逃し配信の視聴者数が倍になったりして、番組宣伝としてすごく機能したんですよ。それでだんだんテレビ東京が許してくれるようになりました。

大東 今や「佐久間宣行」っていうブランドがありますよね。芸人さんからもよく名前が挙がってくるし、新しいテレビの形を体現している。次のテレビの展望としては何がありうると思いますか?

佐久間 今はテレビ局の優秀なプロデューサーたちがどんどん制作の方に移って好きなものを作り出しているので、コンテンツの部分ではまた良い流れができる気がしています。

当人に覚悟があれば、何でもかんでもNGというわけではない。

大東 ワイドショーみたいなコンテンツは残っていくんですか?

佐久間 実は今、ワイドショーの数自体はどんどん減っていて、その弊害はネットですね。ネットメディアは玉石混交なんだけど、一般の人たちからすると事実を言っているメディアと嘘ばっかり言っているメディアの区別がつかない。それは、例えばゴシップ誌からとってきた情報なのに、それをもっともらしい情報に見せたい時は「ビジネスなんとか」っていうサイトにメディア側が出元を差し替えたりするから。そこでみんな「あいつはCM激減するんじゃないか」みたいな情報を信じてしまうわけです。

大東 僕も芝居をやっている中で感じるのは、ここ10年くらいの間に「これやっちゃいけない」が一気に増えたんですよね。ヤンキーの役なのに罵る言葉が使えないとか(笑)。メディアのコンプレックスでいうと、バラエティの世界にもそれはあるんじゃないですか?

佐久間 人を傷つけない表現なんてない。これは西加奈子さんが僕の番組の出演してくれた時におっしゃったことです。僕はこれを座右の銘にしているんですけど、つまりそれって、引き受ける覚悟さえあれば世の中は許容してくれるということ。逆に、何の覚悟もないのに悪口言ってるんじゃないよとは思います。当人に覚悟があれば、何でもかんでもNGというわけではない。

大東 それはまさに「バラエティで笑いとりにいく時は真剣にやる」っていう話と通じますね。

佐久間 一緒ですね。マジじゃないと薄ら寒くなる。キャラを作ってくるアイドルだってどこかに真剣さがないと、全部ウソではどうしようもないでしょう。

大東 お話を伺っていると、佐久間さんのやることなすこと全てにロジックがありますよね。

佐久間 小さい頃から例えば漫画を書くにしても、キャラクターの顔を書くんじゃなくて、物語の設定資料を作るのが好き、っていう子供だったんです。この世界は半分ロボットに支配されていて、みたいな(笑)。

僕の立場であれば、せめて「お笑いで更生できるんだ」っていうことは肯定していかないと。

大東 その観点で今一番熱狂しているコンテンツは何ですか?

佐久間 配信ドラマですね。最近だと『このサイテーな世界の終わり。』かな。シーズン1で完結したのかを思いきや、シーズン2のエピソード1で「うわ、そんな方向からいくのか」と。そういうのが好きです。

大東 最後の質問です。ご自身の作る番組の影響力が増していく中で、社会に対してどういう風に届けるかっていうのは考えますか?

佐久間 ちょっとは考えますよ。例えばEXITの兼近(大樹)くんの逮捕経歴のことがバーンと週刊誌に出た時に彼の番組出演がいくつかなくなったので、それには抵抗しようかな、とか。僕の立場であれば、せめて「お笑いをやってるなら、人は変われる」ことは肯定していかないと。これは大々的には言わないですけど、笑いの根本には「大丈夫、あとから取り返せるから」っていうのがあると思うんですよね。

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