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佐久間宣行さん取材を大東駿介と振り返る

今回は、前回まで二週に渡って掲載してきた佐久間宣行さんのインタビューを大東さんと振り返っていきます。

例えば、「宇宙」というものを描く時に、宇宙の知識だけを掘ればいいわけじゃない。

長畑宏明(担当編集) 佐久間さんの記事はかなり多くに人に読んでいただけたみたいで。たしかに読み返すたびに発見の多い内容でした。

大東駿介 佐久間さんは積極的に「番組の裏側」の話をしていて、この前のインタビューでも「語れないコンテンツは終わっていく」とおっしゃっていましたけれど、あの記事は、そのことを早くから察知してラジオで話し始めた「佐久間さんの裏側」っていうことですよね。どんな質問をしても、佐久間さんの頭の中ではちゃんとロジックが立っていて、ぜんぶ話してくれるじゃないですか。だからこそもっと深く聞きたくなる。制作者が裏側を語っていくとオーディエンスはどんどんその中を掘りたくなって……それってすでにコンテンツに夢中ってことでしょう? あと、裏側を語るっていうのも、エンターテイメントに対して真摯に向き合っている人じゃないとできないアプローチですよね。

長畑 エンターテイメントに対して真摯、というのは具体的にどういうことを指すと思われます?

大東 自分もこの仕事をしていて……これは僕がこのメディアを立ち上げた理由ともつながるんですけど、「俳優である自分の内側の容量」について考えてしまうんですよ。現場で監督に信頼してもらえる自分であるために必要な容量、といいますか。で、それって俳優業以外から得ることが多いんですよね。それが自分と自分以外の人に対する信頼にも直結してくる。佐久間さんも土俵はバラエティなんだけど、インプット先はバラエティだけじゃなくて、例えばSFとかアニメがあったりすると。例えば、「宇宙」というものを描く時に、宇宙の知識だけを掘ればいいわけじゃない。それには色んな領域に枝分かれした知識が必要で、それでやっと広大な「宇宙」になる。「この人ものすごい真面目なんやけど、なんか違う……」っていう人たちって、他の方面の知識がないことが多いんですよね。ただの悪口になっちゃうんですけど(笑)。

長畑 たしかに、それは佐久間さんのインスタを見れば一目瞭然ですよね。インプットのレンジがとにかくすごい。

大東 マイナーな漫画から何からいろんなものをキャッチして、さらにそれをちゃんと配信して。インプットとアウトプットの循環が理想的な人だなと思いましたね。情報収集に関して、仕事で佐久間さんレベルのことを「おれもこれくらいやってるから、お前もやれ」って言われたらめっちゃキツいと思いますよ。それを当たり前にできてしまう好奇心はすごいですよね。

長畑 お2人がそこまで共振した理由は何ですか?

大東 そもそも僕の片思いかもしれませんが(笑)。いやー、だから完全に僕側の興味ですよね。一昔前のイメージだと、これは単に僕の主観なんですけど、深夜番組って昔は「寝られへんから観る」感覚だったんですが、今は面白い番組がどんどん増えて深夜枠の価値が上がった。それには、佐久間さん、テレビ東京の功績も大きいと思います。

長畑 逆に佐久間さんは大東さんのどこに共振していたんですかね?

大東 それはわからないです。この前のインタビューでも「あ、嫌われた」と思いましたもん。あの方、腹の内が分からなくないですか? 「これで佐久間さんとの関係も終わってしまうんやろうな〜」って思ってましたもん(笑)。

人の関係性においても、まずは「仕事をどう成立させるか」。

長畑 そういえば前回の取材終わりに大東さんから「何度も会ってるはずなのに、なんで毎回『初めまして』みたいな感じなんですか!?」「ああ、それは周りからもよく言われるんですよね」っていうやり取りが(笑)。

大東 そうそう。普通は回を重ねると距離が縮まっていくし、実際はそうじゃなくてもそう見えるじゃないですか。なのに、佐久間さんは常に「やんのか」っていう感じだから(笑)。ただ実はその後すぐにオファーはいただいたんですけどね。だから、意識的にそういう姿勢を貫いてらっしゃるんだとは思います。

長畑 大東さんも人間関係だけで仕事したくないとは常々おっしゃっていますよね。

大東 うん、僕もカメラの前以外でプロデューサーとか監督に媚びを売るみたいな距離の近づけ方はしたくないタイプで、ちゃんと仕事で認められた上で「またこいつとやりたいな」って思ってほしい。だから、そこは2人が似ているところかもしれません。人の関係性においても、まずは「仕事をどう成立させるか」。佐久間さんは何よりご自身の作品に対して愛がありますよね。

長畑 佐久間さんの番組に出演する際、大東さんがもっとも細かく神経を使うところはどこですか?

大東 それは舞台で意識していることと似ています。滑舌やメッセージのことは一切考えずに、「役の生命力をどれだけ届けられるか」だけを考える。「今この瞬間、この役はこう生きている」っていう熱量を届けたいんです。それが佐久間さんの現場でも同じで、「バラエティだから笑いをとりにいこう」とかじゃなくて、とにかく真剣に生きていることを証明しようと。もちろん佐久間さんは笑いが起きるように最低限の仕組みは用意していくけれど、僕は役で笑いをとりにいこうとはしない。あと、佐久間さん自身が芝居通・舞台通なのも僕は知っているから、僕も役者として呼ばれるっていうことは、役者としてのアプローチをそのまま使っていいんやな、っていう安心感があります。

佐久間さんが毎回「初めまして」ってくるから(笑)、その緊張感もあって全体のバランスがいい。

長畑 逆に役者としてのパーソナリティをブラさないことが重要ということ? 

大東 まさにそうですね。あとは、それこそ佐久間さんが番組について別の場所で語られているので、こちらも最初から何となくやることが分かっているんです。で、こっちの遊び心も自由に持ち込める感じがして、場にスッと入りやすい。でもそこで佐久間さんが毎回「初めまして」ってくるから(笑)、その緊張感もあって全体のバランスがいい。現場に入った瞬間からキュッとしてる。

長畑 おそらくそれが大東さんの性格にも合っているんですよね。

大東 僕自身も舞台のライブ感がすごく好きなんで。

長畑 そういえば大東さんは舞台がなぜそこまでお好きなんですか?

大東 どっちがどう、という話でもないんです。ただ、映画やドラマはカメラとかアングルでも人物を描けるじゃないですか。仮に役者が無表情で立っていても、カット割りで感情が表現できる。一方、芝居はつま先から頭の先まで全てをオーディエンスに観られている状態で、そこで「生きている」のがお客さんにダイレクトに届けられる。なんですかね、飛び出す絵本みたいなことじゃないですか。

長畑 おお、なるほど。

大東 お客さんは劇場の入り口で何千円っていうお金を払って、「さあ、これからフィクションを体験するぞ」ってもう準備万端なわけですよ。で、芝居が始まって「これ、ほんまに起きてる!」って直に感じられるアトラクションって、エンターテイメントとしてめっちゃ面白いじゃないですか。たとえ同じ演目で50ステージあったとしても、お客さんにそれを感じさせたらダメ。僕が一回一回役の生命力を燃やせたら、その空間がより異次元になると思うんです。とてもファンタジックな、夢みたいな体験ですよね。もともと現実と虚構の間みたいなことがすごく好きなんで。

長畑 最後に、佐久間さんへのインタビューの中で特に印象に残ったフレーズはありますか?

大東 「人を傷つけない表現はない」が佐久間さんの座右の銘っていうのは、いいですよね。ご本人の覚悟の表れだと思います。「この表現良くない、あの表現良くない」みたいなことを言う人って、作り手の覚悟まで見えてないことが多い。そりゃ、ものを作るためには痛みを伴うわけだし……人を傷つけたとしてもやり通す覚悟があるのか。もちろん傷つけることが目的ではなくて、結果としてそうなってしまうことを背負えるか。「傷つける可能性があるからやめましょうよ」って周りの人がいたとしても、自分の中にしっかりした理由があれば、それはやり通していいんだって、僕はそう捉えています。

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