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老化は進化とする

「ウィーン。」「ガーガーキーン」

白い小さな部屋で鳴り響く音
何度聞いても耳に障る音

「我慢。我慢。
 一生自分の歯でご飯を食べる為だ。」

「はーい。終わりましたよ〜。」
「綺麗になりましたね〜。」
繊細な作業を軽快な声かけをしながら
仕上げる尊敬すべき人の声かけでホッとする。

「ありがとうございました。」
「あの...先生に質問をしたいのですが....」

頭の上で大きな風を感じた。先生の御成だ。

「先生、私は最近歯が伸びて来ました」

一瞬時が止まった様な感覚の次に
笑い声が飛び交う

「あはは。そんな事言う人初めてだよ。
 面白い事言う人だね。お腹痛いよ。
 歯が伸びる訳が無いですよ。」

その言葉に恥ずかしいよりも次の言葉を
聴きたくて仕方ない

「年齢と共に歯茎が痩せるからですよ。
 いやぁ〜、今日は愉快だ。あはは...」

年頃のお嬢様ならばここで頬は桃色になるの
だろうか。残念ながら桃色にならず青醒めた。
「老化ですか...」
「若い頃に、お爺ちゃんの歯が長いから
 カッコいいと思った時がありました...」

頭の上の方で一瞬人の気配が消えた
次の瞬間に笑い声が複数になった

「もうやめて下さいよ〜。これからまだ次の
 患者さんなんですよ。あはは。」

無知の発表会を終えてクリニックを出た。
口の中で綺麗な歯を戸惑い喜ぶ自分の舌を
遊ばせながら爽快に空を見上げた

歳か..アラフィフ?
思わず呟いた声がもたつきフの音が笛の様に
鳴ってしまった。
言いにくい。そうだ、言いにくい。
これは口元の老化では無いと慌てて修正する。

アラフィフの次はなんだ?アラカン?
アラカンのおかん(母)か...

字余り無しだし、言い易いし...良い。
次は何を書こうかと心で鼻歌を歌うそんな日
の報告である。
老化は進化である。

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