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あの星の隣で瞬く【あなたの声で決まる! 月刊アート・プロジェクト企画】

「月刊アートプロジェクト」は皆さんに決めて頂いたお題で私が何かしらの創作をするという企画です。

 前回の企画記事、ご好評いただきありがとうございます。
 第二回目のアンケート結果は以下のようになりました。

 テーマは「扉」になりました。
 モチーフは「プラネタリウム」です。

アンケート結果

 最後に、形式は「エッセイ」です。

 アンケートにご協力くださった皆様、ありがとうございました。またアンケートで前作のご感想をくださった方、お礼申し上げます。ありがたく拝見しました。

 ということで、「扉」をテーマに「プラネタリウム」をモチーフとした「エッセイ」です。お楽しみいただければ幸いです!


あの星の隣で瞬く

生い立ちのせいか、人に心を開くのが容易でない。

根本的に他人に対する信頼感を持ち合わせていないので、初対面なら相手に悪意があるかもという前提で隙を見せないよう構えている。観察の結果、悪意がないと判断しても、だからといって自分から距離を詰めることはあまりない。仲良くなりたいかどうかは別の話だからだ。

こう書くとただの人間嫌いのようだが、一方で、人を集めてイベントや勉強会を開くのは好きだ。自分が主催者であれば、他人にとって自分が価値を持つだろう、受け入れられるだろうと自信を持てるし、一人ひとりに対して深くコミットする必要がないので、気楽にコミュニケーションを取りやすいのかもしれない。

結局のところ私の心の扉は閉ざされている。薄っぺらい人間関係を続けながら、たまに誰かが扉の前まで来てくれても、追い返すばかりの偏屈な人間だ。

とはいえ、そんな私でも人を好きになることはある。今、一番仲の良い友達のことが本当に大好きだ。とあるきっかけで好意を持ち、私から近づいて仲良くしている。

彼女は以前同じ職場に別会社からの派遣で来ていた女性だった。同じプロジェクトを担当していたので職務上協力する場面も多く、年も同じでちょっと天然な性格だったので、当時から私としてはあまり警戒せず付き合える数少ない相手だった。

職場での楽しい思い出は枚挙にいとまがない。ランチで彼女だけ食べるのが遅すぎて危うく昼休みが終わりかけ慌てる彼女を爆笑しながら待ったり、帰りになぜか電車まで駆けっこすることになって置いていかれそうになったり、誰もいなくなった後のフロアで目障りだった机をこっそり二人で移動させて翌日知らん顔したり、彼女は面白い上に、いつも協力的でいてくれた。

彼女と一緒に働くのがあまりにも楽しかったので、上司に打診された新しいプロジェクトの話を一回蹴ったほどである。上司はまさか断られるとは思っていなかったらしく、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で10秒ぐらい沈黙していた。でも仕事は楽しいからやっているので、私が優先するのは楽しさだ。

この時点では「仲の良い同僚」でしかなかった彼女と「友達になりたい」と思ったのはまた別のきっかけがある。

当時、帰りの電車の方面が同じだったので、仕事終わりによく一緒に帰ることがあった。電車に乗った彼女は空いている座席があると、「YeKuちゃんの方が長く乗るんだから座ってていいよ」と言っていつも私に譲ってくれる。「いいのに」と言っても譲るのを譲らないし、しがない元引きこもりで体力もない私はありがたくお言葉に甘えていた。

そんなある日、いつものように私が座った席の隣に、奇声を発している男性がいたのである。まあ奇声と言っても大きな声ではなく、「ヒョウ」とか「ホウ」とか言いながらピクッと震えるぐらいである。何かの病気か障害だろう。触ってきたり暴れるわけではないので、私にとっては別に隣に座るのを避けるほどのことではなかった。

だがいつものように私に席を譲り、私の前に立った彼女にとってはそうでもなかったらしく、なんだか目をキョロキョロとさせ、挙動不審になっていた。

私は隣の奇声を無視しながら、彼女に高校時代の思い出話などを根掘り葉掘り聞く。

そのうちになぜか彼女の動作がどんどん大きくなっていき、目がキョロキョロと泳いだ。そしてついに両手を振り回しながら、「そう、それで高校の先生を移動して!」と突然言った。

いきなり何言ってるんだろう。普通はそう思う。

でも、私には何が起きたのかはっきり分かった。話しながら「横に変な人がいるから移動した方がいいんじゃないか」と考えたから、言葉と素振りが混じって先生を移動することになってしまったのだ。私は噴き出してしまったが、なんとか抑えて、「移動する?」と聞く。彼女は大きな目を見開いて、うんうんとうなずいた。

二人で車両の中を歩いて別のところに座り、それから目を見合わせて噴き出した。
「先生を移動ってなに??」
と二人で泣くほど笑った。
彼女は「YeKuちゃんが、YeKuちゃんが大変だと思って、つい」と言い訳する。

それを聞いた私の心がじんとぬくもった。

奇声の人の隣に座っていたのは私だし、彼女はすぐに電車を降りるから何の被害もないはずだ。それなのにあんなに取り乱すということは、私のことを自分のことのように考えて心配してくれたのだろう。

他の人からすればちょっとしたことかもしれないが、私には冬の日に灯る蝋燭のようなあたたかみをもたらした。

他人のことを自分のように感じて心配したり、慈しむことは誰にでもできることじゃない。少なくとも私にはできない。

彼女のその振る舞いから伝わってくる人間性を鑑みるに、恐らくこれから先も彼女が他人に害意を持つことは無いだろうし、何より私の敵になることもきっとないだろう。むしろ、ずっと味方でいてくれる人なんだろうと感じる。だから私はこの時、彼女のような人がこれからもずっと、自分の人生に居てくれることを心から願った。

それから彼女が転職して仕事の付き合いが無くなっても、仕事終わりに食事に行ったり遊びに行ったり誕生日を祝ったりと親交を続けている。コロナの期間は会えなかったが、リモート飲み会を開いて一緒に飲んだりしていた(彼女の家のWifiがカスだということが明るみに出るまでは続いた)。

そんなある日、仕事終わりに待ち合わせて、スカイツリーのプラネタリウムに誘った。私はプラネタリウムが好きなので、大切な人ができると誘っているような気がする。

最前列のクッション席が空いていたので取ってみたら、周りはカップルだらけで笑ってしまった。一緒にクッションに横たわり、星座や神話の物語について聞きながら、彼女が横で小さく笑ったり感想をつぶやくのも一緒に聞いていた。

こういう時、幸せだなあと思う。

彼女が与えてくれる喜びと同じぐらい、私もまた彼女に喜びを与えられる人間でいたい。

星と星がつながって一つの星座をなすように、私と彼女の運命も、ずっとつながっていますように。

もし流れ星のようにいつか離れていくことになっても、私の心の扉を開いてくれた彼女が、ずっと幸せでいてくれることをいつも祈るだろう。


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