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久しぶりの現地開催でやる学会なのでコミュニケーションを重視するスタイルに変えてみた(または委員長はつらいよ)

もうすぐ言語学会だね

メインの学会となる日本言語学会(略して言語学会)は年2回大会があります。大会はこの2年ぐらいオンライン開催だったのですが,この春から現地開催(オンラインの対義語としての対面って言い方はなんかムズムズする)です。というか今週末です。

こう書くと他人事ですが,私は春から大会運営委員長を仰せつかっており,まさに仕切っている側の人間です。

言語学会(の大会)が変わった

言語学会は口頭発表(発表20分+質疑10分)がメインで,多いときは8会場で計50件ほどあった一方,ポスター発表はあっても5〜6件でした。今回,現地開催に戻すにあたり,口頭発表は3会場計15件,残りをポスター発表にしました(結果的に29件)。これはけっこう大きい変化でSNSでもざわつきを目にしました。

もちろん委員会で決めたことですが,主導したのは私です。総会など説明する機会はあるのですが,来ない人も多いので備忘録代わりにその背景を(他にもあるけど長文になりそうなので)少し書いておきたいと思います。

現地大会の機能としての軽いコミュニケーションの機会

コロナ禍でオンライン開催が増えてから,口頭発表はzoomなどのオンライン会議ツールでやるスタイルがかなり浸透しました。これは現況でもウェビナーが盛んなことからも分かります。実際,オンライン学会などで特に口頭発表に関してはもうずっとこのスタイルでいいんじゃないかという声もありましたし,現地開催に関しては相当の理由がないと厳しいという印象を受けるには十分な意見も耳にしました。

たしかに,いくら感染症法上の位置づけが変わったとはいえ,現地開催のほうがオンライン開催よりも感染のリスクは上がるわけですし,地方在住者などは交通費だってかかるようになるのですから,現地開催にするなら現地でしかできないことを重視する必要があるだろうというのはひとつの意見として傾聴に値するでしょう。

そこで,現地開催の持つ参加者・発表者間のコミュニケーションの機会作りという機能を活かそうと考えました。特にポスター発表という形式は,このコミュニケーションを活発にするものだと判断しました。もちろん口頭発表にそれが「ない」とは言いませんが,ポスターの方がその機会が多くなるのはほとんどの方に認めてもらえると思います。

ポスター発表の場合,口頭発表と異なり「ちょっと覗いてみる,話を聞いてみる」というような参加ができるので,軽いコミュニケーションがやりやすいです。また,ポスターがあることそのものが話すきっかけになります。さらに,発表者と聴衆以外にも,ポスターは時間が長い(今回は1時間半)ので,参加者同士の交流の時間も多くとることができます。

これは言い換えれば懇親会の機能を少し持たせた形になります。今度の言語学会では参加者交流会という形で小規模・短時間の会を設定しており,懇親会の代替物はあるのですが,ポスター発表と合わせることで,懇親会が持っていた機能がより強化されると言ってもいいと思います(そして懇親会と違って別料金は不要)。

これは完全に予断になりますが,今年の序盤に開催方法の検討をした時点で懇親会の開催は断念しました。というより,「当然なしだよね」ぐらいの感じでした。それから特に年度が替わってからの世間の雰囲気の変化は私にとってかなり驚きでついて行けてないところもあります。

ぜひ耳学問を

口頭発表は基本的に同じ時間帯に別の発表を聞くことはできません。一方,ポスター発表を多めに設定することで,色々な発表を聞くことができます。もちろん学会ですから自分の狭い意味での専門分野・関心のある発表が聞ければ十分という方もおられるでしょうが,せっかくの機会なのでいろんな発表を聞いてほしいという老婆心に近い気持ちもありました。

いろんな分野の発表を聞くことで自分の研究に新しい方向性を得られることもあるでしょうし,すぐにそういった利益に結びつかなくても,「言語学」という幅広い分野でどういったことが行われているのかを俯瞰的に知る機会になるんじゃないかと思います。

もちろん,自分の興味・関心のある発表だけを聞いてもいいわけで,その辺は縛られるものではありません。うまく時間を使ってもらえればと思います。

試行錯誤でしかありません

正直,コロナ禍を雰囲気として脱しつつある(アフターコロナ?)中で学会をどうやって開催するのか,そのスタンダードはできていません。上に書いたことの繰り返しですが,コミュニケーションの機会作りを前面に出した学会がうまく行くのか(そもそも「学会がうまく行く」って何?)分かりません。研究の進展を阻害することになるかもしれませんし,口頭発表の機会を奪ったという見方だってできます。

こんな言い方はズルいのですが,今回の変更を通じて,学会(大会)がどうあるものなのか,何を自分が求めているのか,何を提供するものなのか,それは所与のものではないので,考えてみてほしいと思います。

(でも,僕は小心者なので,ご意見の際はご配慮ください)


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