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相続する側/される側? ラジオCMで考える日本語の受身文
ラジオを聞いていたら,相続に関するセミナーのお知らせをしていて,その中に「相続する側,される側」という表現が出てきて「え?」と思ったのでそのメモです。
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「する・される」というのは言語学ではヴォイス(態)と呼ばれる関係のひとつで「される」が付いた形はまさに「受動態」とか「受身」とか呼びます。それに対して受動態・受身にしない通常の形は能動態と呼びます。能動態と受動態を書き換えるときは,「を」や「に」の付いた名詞(目的語)を「が」にします。
先生がヒカルを呼んだ(能動) ←→ ヒカルが先生に呼ばれた(能動)
先生がヒカルに感謝した(能動) ←→ ヒカルが先生に感謝された(受動)
目的語が2つのときはどちらも受動文で主語にできます。
総理が側近に手紙を渡した(能動) ←→ 側近が総理から手紙を渡された/手紙が総理から側近に渡された
この「相続」ケースでの対応関係はどうなるでしょうか。CMで言ってなかった部分も補うと「相続する」の能動文は次のようになるでしょう。
子が親から土地を相続した
つまりCMの「相続した側」は「子」になります。それに対して,「相続された側」は誰か,対応する受動態を作って確かめてみましょう。
土地が親から子に相続された
× 親が土地を子に相続された
上の「渡された」ケースと違って能動文で「親」には「から」が付いているので,受動文を作ると不自然というか容認されず,容認されるのは目的語である「土地」が主語になったときに限られます。
もちろんCMを作った側は「相続される側」は親の方を想定していることは察することができるのですが,このように文法のことを少し考えると関係がおかしいくなるのです。
じゃあどうすればいいかというのもちょっと難しいのですが,態だけで考えるなら,「子に相続させる」のですから,「相続する側/させる側」という使役になるかと思います。もっとも「させる」の持つ強制するという性質を嫌ったんだろうなとは思います。
余談
「される」には「恩師が文化勲章を受章された」のように「尊敬」の意味もあるので,「相続される」を尊敬と受け取れば,「親が子に土地を相続された」も自然になる…いや,難しいか。