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reportはレポートかリポートか?

大学で学生が教員をハサミで刺すという事件が起こりました。被害に遭われた教員の無事を祈ります。

ところで,この見出しにある「リポート」というのはちょっと気になります。報道を見る限りほとんどが「リポート」になっています。

ところがNHKやCBC(中部日本放送)は「レポート」を使っています。

私の場合,「レポート」の方がなじみがありますし,勤務先の大学でも「レポート」という言葉を使います。ためしにGoogleでac.jpに含む件数を検索してもレポートは約360万件,リポートは約63500件と圧倒的に「レポート」の方が多くなります。

かつて似たような事例で「リファレンス」と「レファレンス」の使い分けについて調べたことがありました。

このときの結果はジャンルの違いを反映しているというものでした。そこで同じようなことが「レポート」と「リポート」にもあるのか,調べてみました。

刊行年代による違い

まずは刊行年代を見ていきます。刊行年代については国立国会図書館サーチという「国立国会図書館をはじめ、全国の公共図書館、公文書館、美術館や学術研究機関等が提供する資料、デジタルコンテンツを統合的に検索できる」(同ページ)データベースを使いました。ここでタイトルに「レポート」または「リポート」を含む刊行物を検索した結果を約10年ごとに分けてまとめたのが以下になります。

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表は上が実数,下が比率になります。これを見ると,1970年代以降は安定して「レポート」優勢ですが,1950,1960年代は「リポート」が増え,1930年代以前はリポートが優勢に見えます。

ちょっとここにはわけがありそうです。1930年代に38件出ていますが,ほとんどは1939年に刊行された朝日東亜リポートという刊行物です。全体の数が少ないのでここだけ歪んだとみる方がよさそうです。また,1940年代は「マッカーサー元帥レポート関係文書」というのが大量に刊行されていることによって割合が多くなっています。また,1929年以前の13件あるリポートは「フローランス・アンリ・ポートフォリオ」の「リ・ポート」が検索されたことによるものなのでノイズになります。

まとめると,どの時代も総じて「レポート」が多く,それは1970年代から特に強化されてきていると言えそうです。

ジャンルによる違い(NDC分類)

国立国会図書館サーチでは日本十進分類法(図書館でよく見る番号)に基づいてジャンル分けされた結果を見ることができます。そこでその分類によってジャンルの違いを見てみましょう。

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これを見ると「歴史」でリポートがやや多く,「言語」は「レポート」が特に多いように見えます。「歴史」が多いのは先ほど出てきた朝日東亜リポートが「歴史」に分類されるためでこれを除くと15.4%まで落ちます。「言語」が多い理由はおそらく「レポートの書き方」のような本がここに分類されるからでしょう。

ジャンルによる違い(CiNiiによる検索)

しかし,ジャンルによる違いは本当にないのでしょうか?データベースを変えるとちょっと違った結果が出てきます。論文検索サイトのCiNiiを使ってみるとやはり「レポート」が多数(109821件(82.52%)vs. 23260件(17.48%))です。しかし,「リポート」の関連刊行物を見ると,経営や経済に関するものが目立つことが分かるかと思います。

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そこでいくつかのキーワードとともに検索してみました。結果を見ると,機械,土木,農学など工学系,生物学系のキーワードと会計,財政など経営学,経済学系のキーワードが上位にあります。ただしこれも工学や化学などそのままなキーワードは低い割合なので大雑把な分野ではうまくいかないように思えます。

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学術分野の分類は文部科学省による細目表というのが有名です。ここにある細目と組み合わせると分野による傾向がもっと鮮明になりそうです。また,言語資料も現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)のようなバランスの取れた大規模コーパスを使うことなどでより実態が分かってくるのではないかと思います。


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