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間隙書庫

間隙書庫という名前の書庫を作りました。これはwish you were hereの書庫です。

書庫のなかには生きのびるための糧となるような本を集めていて、それぞれの本のなかから私が好きな言葉を紹介しています。自死を扱った本が多いですが、そうではない本もあります。本だけではなくて、歌や詩の言葉を紹介することもあるかもしれません。

なぜこういう書庫を作ったかというと、私自身も本や音楽や詩のなかの言葉を拾い集めることで日々を生きのびてきたからです。

今でこそ自分の苦しい気持ちを少しずつ人に話せるようになりましたが、それもごく最近になってからのことです。以前は人にどう話せばいいかも分からなかったし、自分と同じ言語を話す人はこの世のどこにもいないと思っていました。

自分が大切だと思うことを話してみてもそれは周囲の人には関心のないことで、いつも噛み合わない会話に疲弊しては疎外感を募らせるだけでした。言語が通じない場所でどうにかやっていくには、周りの人々の文法に則って空虚な会話をするか、その文法から全くの埒外で生きている破天荒な人間のふりをするしかありません。

そういうことに疲れたとき、私は本を読んだり音楽を聞いたりしました。そしてぽっかりあいた心のすき間を言葉で埋めました。すると、世の中には自分と同じ言語で喋る人がいるのかもしれないということに気づくことができるのです。それはもう死んでしまった人であったり、遠い国の人であったりもしますが、それでも誰かがかつて発した言葉が私の頭のなかにある言葉と繋がったというだけでとても嬉しかったのです。

間隙書庫は、今まさにそんなふうに思っているあなたのために用意した書庫です。

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最後に、私がとても好きな宮沢賢治の言葉を紹介します。これは『注文の多い料理店』の序文に記された言葉です。

わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
…わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

宮沢賢治『注文の多い料理店』新潮社(1990)p.9

誰とも言葉が通じないとき、喋るのをやめて、心の間隙に誰かの言葉を注ぎましょう。それはあなたが生きのびるための「ほんとうのたべもの」になるかもしれません。

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