ポスト1GbE時代の自宅ネットワーク構築

 2019年も暮れに入り、ポツポツとWIFI6、801.11 ax規格の家庭向けwifiルーターが国内メーカーからも出揃い始めた。無線アンテナ一本に付きおよそ600or1200Mbpsの規格なので8or4本束ねた上位機種では4800Mbps、すなわち4.8Gbpsの速度が理論上出るわけである。

 翻って有線LANはというと、あいも変わらず1GbpsのLANポート。これではなんとも寂し過ぎるのでは?ということで2019年11月現在のネットワーク環境を調査してみた。他にも多くのblogがあるが、状況は刻々と変化しているので無駄にはならないと思う。

状況確認

 まずはじめに、そもそも1GbpsのLAN(1GbE・1ギガビットイーサ)とはどれぐらいの速度なのか?というところから確認していく。MB(メガバイト)に直すには8で割ればいいので、

 1Gbps=1000Mbps=125MB/s となる

これがどれぐらい速いのか、参考までに他のデータ転送速度と比較する。面倒なのでこれからの速度計算は全て理論値で行う。

グラフ

 最も馴染みがあると思われるUSB2.0は60MB/sである。おおよそjpeg写真1枚10MBとすると一秒間で6枚送れることになる。USB3.0ではこれが10倍ほどになり(600MB/sとなるところ、やや符号化で枠を取られて500MB/sまで)、体感でもわりと速いと感じられるレベルである。

 パソコンの内部配線で使われるSATA3.0は600MB/sの転送速度を確保している。およそ500~600MB/sで読み書きできるSSDがメインストリームとなっているため、ほぼ理論値での運用がなされている。

 さて、本題の1GbEである。もうお察しだとは思うがたった125MB/sでは上記のような規格とは到底張り合えない。ネットで情報収集するのであれば十分な速度ではあるが、ファイル転送といった分野では大きく水を開けられていると言っても過言ではない。

 例えば自宅にあるパソコン2台の間で10GBのデータをコピーするとする。USB3.0に対応した外付けSSDを使用する場合、2回コピーが発生するので接続タイムラグを無視すると20秒x2の40秒で作業が終わる。ネットワーク越しにデータを転送した場合は80秒なので倍の時間がかかってしまうのである。

10GbEはおいくら?

 もちろんネットワーク業界も指を咥えてみていたわけではない。10GbE、つまり現在の10倍の速度が出る規格が存在するのである。これならばSSD同士でも最高速度でバンバン通信ができる。USBなど屁でもない、これからは10GbEの時代だ!

「でもお高いんでしょう?」

 ...10GbE環境を構築するにあたって最もネックとなるのが価格である。一つでもボトルネックがあるとそれに引きづられて1GbEになってしまうので上から下まであらゆる機器をリプレースしなければならない。宅内ネットワークを構築する場合最低でも

・10GbE対応LANポートを備えたスイッチングハブ
・10GbE対応のカテゴリー6A以上のLANケーブル
・10GbE対応のネットワークカードを各PCに一枚ずつ

 これに加え宅外も10GbE化する場合は回線工事とルーターも必要となる

宅内のみの場合

 例を挙げてみよう。自宅には作業用パソコンとデータ保管用NAS、ブロードバンドルーターがあり、一般的なプロバイダの光回線1Gbpsプランを利用しているとする。参考としてAmazonで格安の商品を貼り付けておく。

 まずはスイッチングハブを導入する。ルーターの下につけて、そこにパソコンとNASをぶら下げる形をとる。これでデータ保管のためにPCからNASに接続する分には10GbE、ネットサーフでは1GbEと使い分けられる。2ポートしかない安いものだと3万円台で手に入るが基本的に5万円以上の業務用がほとんどである。PCの台数が増えると2ポートで済ませる選択肢はなくなる。

 GS110MXは右側2つが10GbEなのでPC1NAS1の場合ギリギリ間に合う。

 次にケーブルである。カテゴリーの数字が増えるほど高性能で、10GbEでは6A以上のケーブルを必要とする。とはいえ、6Aのケーブル自体販売されてかなり長く、5eや6とほぼ大差ない値段まで落ちている。5000円ほどでお釣りが来るだろうし、知らぬ間に6Aを使っていたというケースも多いだろう。

 地味に曲者なのがネットワークカードである。今までの10倍の速度を扱う以上、PCIe x1などでは帯域が足りないためx4のレーンを必要とするのだ。ミドルクラスまでのマザーボードは割とx4の本数が少なく、M.2 NVMeスロットと排他利用になっているものもあるため人によってはマザボごと買い替えである。カード自体は1万円台で手に入るが台数分必要とする。

 既に一万円を割るモデルも存在する。レビューでは問題なさそう。

 今回の例ではNASを使用しているためNASも10GbE化する必要がある。最初からついてるものや後付できるモデルもあるが、エントリークラスにはほぼないので買い替えを迫られる。最初から業務用を使っている人はスルー。

 素で10GbEを持つものの中では安い。SynologyやQNAPに比べると地味

 2019年11月現在ではおおよそ8万円程度、NASを省くと4万円ほどで済むようだ。

宅外も更新する場合

 ネット契約を見直して完全10GbE環境とする場合、プラン変更に伴う工事やルーターの買い替えが発生する。

 最も有名なところではau光10Gプランがある。首都圏かつ戸建て限定ながら月額は6000円と少し。工事代無料キャンペーンなどもあり少々の出費でお手軽にステップアップが可能である。

 問題はルーターである。一般的なルーターは極めて安価であり3000円程度でも揃えることができるが10GbE対応だとそうも行かない。WAN側(インターネットポートとも呼ばれる)LAN側両方に10GbE対応しなければならないので値段が跳ね上がる。

 国内最大手のバッファローからでているこちらは10GbEが1+1で標準装備

 また更に困ったことに、先程買ったスイッチングハブは2ポートしか10GbE対応していないのでPC,NAS,ルーターの3ポート分が搭載されたスイッチングハブが必要となる。

 こちらは10GbE x4 ポートで5万円を切るモデル。個人で使うには丁度いい

 総括すると全てひっくるめたお値段はおおよそ10万円(NAS込で15万円)であった。数十万円かかっていた時代を考えるとパソコン一台分のお値段で済むというのは割とお安いとも言えるが、実はここまでやってもファイル転送速度は3~4倍程度に落ち着くことが多いようだ。

ジャンボフレーム問題

 通常、パソコン同士で通信する際には大きなファイルは分割されて送られていく。この一区切りをフレームと言うが、10GbEは何分超高速で通信しなければいけないので、処理の量が半端ない。そこで区切り方をもっと大雑把にして大きなコンテナで運ぼうというのがジャンボフレームである。

 このジャンボフレーム、使うと10GbE本来の性能が発揮できるのだが、実は後方互換性に問題がある。対応していない機器がこのジャンボフレームを受け取るとエラーだとして弾いてしまうのである。

 1GbE接続と10GbE接続が混在している場合、例えば先程の環境にジャンボフレーム非対応のプリンタが繋がれた場合はパソコンからの通信を弾いてしまい、居ないものとして扱われる。フレーム制限で1500に合わせるとこれは直るのだが、速度向上の恩恵は薄くなってしまうのである。

 ジャンボフレームに関しては各社が好き勝手に実装しているため統一したプロトコルが確立されておらず、ジャンボフレームを保ったまま1GbEを混在できるようにする取り決めなどがない。一般人は多少の速度を犠牲にして後方互換性を確保するかジャンボフレームで最速を目指すか選択を迫られるのである。

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