バードビュー・シリーズ③「鍵の学校」
2015年5月
夜の22時になると彼は決まってラジオをつける。すると、エレキギターの音で学校のチャイムが流れる。
そのラジオの名前は「SCHOOL OF LOCK!」。TOKYO FMをキー局に全国で放送されている、中高生向け番組だ。"校長"と"教頭"が軽快なトークで進行し、お便りを読んだり、時にはリスナーと電話をつないでトークしたりもする。
そして何より、SOLは、中高生のための音楽番組だった。いわゆる邦ロックと呼ばれる曲を積極的に流し、人気ミュージシャンが担当するコーナーまである。そんな番組が、時代の流行の担い手である中高生に絶大な影響を与えていたことは言うまでもない。
彼はラジオがこんなにも面白いものだと知らなかった。ラジオと言えば車内とか店内で何となく流れてるもので、意識的に聴くようなものだと思っていなかった。兄に勧められ何となく聴きはじめ、気が付けば毎日のルーティーンになっていた。
他の人と違うなにかでありたい。
この時間にラジオ聴いてるの、周りで俺だけ。
そう思っていた。
他の人々が知らない自分の世界を、そのラジオに見出していたのかもしれない。「この時間にラジオを聴いている自分」に酔っているにすぎなかった。もちろんリスナーは日本中に何十、何百万人といる。彼の友達だって普通に聴いていたと思う。だが、狭い世界に住む彼にとっては「自分だけ」と思える余地があるだけで十分だった。
中学生にもなると、自分が周りからどう思われているかとか、自分らしさとか、そんなことを考え出すものである。そして、例外なく彼もそうだった。
私と、それ以外。私以外。私以外私じゃないの。
彼がラジオで聴いたそのフレーズは頭の中で何度もリピートしていた。曲のフレーズが独特で耳に残るのはその原因の一つだが、彼にとって、その歌詞に何か思うところもあったのかもしれない。
その曲はいつしかコーラのCMソングになっていた。
「私以外私じゃないの」/ゲスの極み乙女
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