バードビュー・シリーズ②「遥か彼方」

2015年3月

冬が終わり、穏やかな春が来た。

ロックバンド・カルチャーと出会った彼はというと、いよいよ色々なバンドのCDを集めなくてはという気持ちで春休みを過ごしていた。

だが、明確にこのバンドが好きだとかこんなジャンルが好みだとか、そういう指標を彼はまだ持ち合わせていなかった。

「好きなバンドのCDをコレクションする」という行為を自分もしてみたいという、それだけだった。他の人と違うなにかでありたいという、それだけだった。

衝動だけで電車に乗り、TOWER RECORDS静岡店へ。現在はB1階のその店舗は、当時7階にあった。特に目当てなど無く店を見回り、これだと感じたCDを買って帰った。

日本のロックバンドについて色々調べていた時にどこかで耳にした長い名前のバンドのCDだった。「BEST HIT AKG」というタイトルからして、そのCDはベストアルバムなのだろう。最初はやはりベストから入るのが無難だ。

誰もいないリビングに置かれたプレイヤーにCDをセットし、わくわくしながら再生。ど頭のベースリフが彼の心臓を揺らした。

ギターはめちゃくちゃ歪んでいて、ビートで疾走する感じ。暑苦しいとも言えるパフォーマンスとは裏腹に、爽やかさも間違いなくそこにあった。例えるなら、夏手前の藤沢あるいは鎌倉の海みたいな爽やかさだった。

そんなわけで、彼の手元には1枚のCD。おまけに部屋の片隅には赤いエレキギター。彼の、あまりにも青春な1年のスタートだ。


BEST HIT AKG/ASIAN KUNG-FU GENERATION

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