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「書く」という冒険(古賀史健さんの『取材・執筆・推敲』をたどる)2/3


2021年5月、古賀史健さんの『取材・執筆・推敲』を読み終えました。
この本にどのようなことが書かれてあるのかを紹介していく全3回の、今日は2回目になります(よろしければ、こちらの1回目もご覧ください)。

3 「わかったこと」を書くには、どうしたらよいか。(『取材・執筆・推敲』第4章から第7章までより)


本当にありがたいことに古賀さんは、そもそもなにをどうしたら「わかったこと」や「驚いたこと」が「コンテンツ」の形になっていくのか、その具体的な技術(精神論ではどうにもならない、コツやプロセス)をわかりやすく教えてくださっています。

(1)「なぜ」を伝える。(『取材・執筆・推敲』第4章)


「話しことば」は、話をしているその瞬間に五感がとらえたことがら(目の前に現れた景色やふと感じた風、耳に入ってきた他の人の話など)や、普段から考えていること、これまでに経験してきたことなどからのふとした「連想」に、押し出されるようにして進んでいきます。

ここで気をつけなければならないのは、その「連想」を引き起こした「なぜ」は、いちいち語られることがないということ。

ライターの仕事とは、そうした特徴を持つ「話しことば」を「書きことば」に翻訳することだと古賀さんはおっしゃいます。つまり、「なぜ、それがそのように語られたのか」ということを、その場にいなかった、そして話し手のこれまでの文脈を知らない読者に、「ああ、なるほど」と納得してもらえるように書き起こすことがライターの仕事なのです。

「納得」のできないことは、「自分ごと」にはなりません。
読者をエンターテインするためにライターは、話し手の背後にある「なぜ」がきちんと伝わるよう、これを「翻案(話の筋道が通るように正しく補足し改変すること)」しなければならないのです。

古賀さんはこの「翻案」の技術として、「このことについては一般に○○と言われているが、Aさんはこれを××と語っている。それはなぜか。それはAさんの△△の経験とそこからくる□□の洞察に裏打ちされているのだ」といった表現例を紹介してくださっています。

つまり、Aさんの主張の「希少性」を、一般的に言われていることとの対比によって浮き上がらせ、それによって読者を「驚かせ」、驚いて「なぜ」と思った読者にその主張の背後にある根拠を伝え「納得」してもらう。そんな「文章構造」を教えてくださっているのです。

(2)設計図を引く。(『取材・執筆・推敲』第5章)


古賀さんは、頭の中で考えていることはひとたび文字にして外に出したとたん「木工用の接着剤」のように硬化し、「それが駄文であるとわかっていても、それ以外の姿が考えられなくなる(p.211)」とおっしゃっています。

自分の書いたものが「硬化した駄文」になるのを防ぐにはどうしたらよいか。
「設計図を引いたうえで書いたほうがいい(p.211)」というのが古賀さんの教えです。

「設計図」とは、文章の骨格を明らかにすることをいいます。
文章の「章立て(目次)」をつくり、話し手の主張の「希少性」を際立たせるのに必要な事項を押さえ、読者にたのしんでもらえるよう、「バスの行き先(p.260、この話が読者に何を伝えようとするものなのかを冒頭で伝えること)」と「場面転換」を組み立てる。それらの総称を「設計図」と言うのです。

(3)本には本の、インタビューにはインタビューの書き方。(『取材・執筆・推敲』第6章)


古賀さんは、「本には本の書き方や組み立て方があるし、インタビューにはインタビューの、対談には対談の、コラムやエッセイにはまたそれぞれの書き方がある(p.320)」として、こうした「スタイル」ごとの特性と自分の得意分野とを照らし合わせる必要を訴えています。

「100年前に生きた人」にもわかってもらえるような「賞味期限の長い」文章を、自分はどの「スタイル」であれば書けるのか。そういう問いかけが必要なのです。

この「スタイル」について古賀さんは、まず、「本」というスタイルの本質は「没頭」にあると指摘しています。
長いページを次々とめくっていくたのしみこそが、本の価値。冒頭に惜しみなく「世界観」を書き尽くし、その話に十分引き込んだところで、途中、専門的な話も織り込みながら、最後には読者とともに「ここまで来たね」と語り合うような終わりを迎える、そんな構成を理想的に持つのです。

そして、「インタビュー」の本質は「取材相手のファンになってもらうべく、その人の人柄を描き出すこと」に、「対談」の本質は「AさんとBさんの話が予測不可能な方向にどんどん転がっていくたのしさ」に、「コラム」の本質は「斬新な切り口で世界を捉える視点」に、「エッセイ」の本質は「論理ではなく感覚によって、日常生活に起った驚きの事実を拾い上げること」に、それぞれあると古賀さんはおっしゃっています。

(4)「コンテンツ」に向けて。(『取材・執筆・推敲』第7章)


「なぜ」を伝える構造を整え、文章の骨格を「設計」し、これから書こうとしているものの「スタイル」を確認したのちにやることは、それらの形に沿って文章を書き出すことです。

ライターとして文章を書くための「エンターテインの必要要件とその技術」とは、どのようなものか。

(1) 読み手が「読んでいて心地いいな」と思う、「乱れのないリズム」があること。
(2) 読み手の理解を、きちんと「後押し」すること。
(3) 読み手の没頭を妨げないための、止まらない「場面転換」をきちんと設計すること。

古賀さんはこの3つを具体的に為すための技術を、次のように教えてくださっています。

(1)「乱れのないリズム」について。

これをつくる工夫として「音読」があります。音読をすることにより書くだけでは見落としてしまう「音的リズム」の違和感を見つけることができるのです。

また、接続詞が「and」だらけの「小学生の作文」のような形態(○○しました、△△しました、と続いていく文章)になっていないかと見直せば、ここで「because」を使おうとか「but」を使おうといった具合に、原稿のありようを変えていくことができます。

改行やカギカッコなどによる「スペース」が読みやすいものになっているかを確認することも、リズムを整える上での重要事項です。

(2)「わかろうとすることの後押し」について。

これには「比喩」や「類似」を使った説明が非常に有効です。これらを古賀さんは「想像力の補助線(p.347)」と読んでいます。

(3)「止まらない場面転換の設計」について。

古賀さんはライターの書くものと小説家の書くもののストーリーラインの違いについて、前者を「論文的ストーリー」、後者を「小説的ストーリー」と区別し比較しているのですが、「小説的ストーリー」が「これからなにが起こるのか」を期待させるものであるのに対し、「論文的ストーリー」は「これからなにがわかるのか」を追うものだとしています。

その上で、この「論文的ストーリー」を止めることなく次々と展開していくコツについて、古賀さんは、起伏をつけていこうともがくより、始発点と着地点の距離を「遠くする」ほうがはるかに設計しやすいと教えてくださっています。

第3回へつづく)

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