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雑記 249 里の秋

稲刈りが終わり、柿が実り、里も山も、すっかり秋めいてきた。
そんな時、ふと思い出されるのか「里の秋」という童謡。
育つ頃、馴染んで、今も、口には上るが、
「背戸」も「いろり」も「夜鴨」も、
既に、その歌を知った時から、私の日常にはない、昔話の中の情景である。

たまたま、エルンスト•ヘフリガーが、日本の歌曲(主に童謡)をドイツ語でかなりの数レコーディングし、それらが、とても日本の歌とは思えない、という話題に接した。
日本の童謡が、元からドイツの童謡であったかのようだ、と言うから、どのような歌われ方をしているのか、と興味を持ち、聴いてみた。
今は、有難いことにYouTubeにアップされているので、幾つかは手繰り寄せて聴くことができる。

しかし、そもそも、元になった日本の曲が、何のことをどう歌っているのか。それを、私は知らなかった。

♪♪♪

静かな静かな里の秋 
お背戸に木の実の落ちる夜は 
ああ母さんとただ二人 
栗の実煮てますいろりばた 

明るい明るい星の空 
鳴き鳴き夜鴨(よがも)の渡る夜は 
ああ父さんのあの笑顔 
栗の実食べては思い出す 

私は、今まで、この歌に出てくる、
母さんとふたりで、囲炉裏端で栗を煮る子供を、
女の子だと思っていた。
「お背戸」とは、裏木戸のこと、と解説にあったが、「お」がつくことから、家の裏手にある雑木林のこと、とも考えられるそうだ。
裏山にある栗の木から、栗の実が弾けて、転がり落ちてきて、裏木戸のあたりに転がっている。
それを拾って、囲炉裏で煮るのだ。

何十年も、
おかっぱ頭の女の子が、お母さんと囲炉裏端で、栗の実を焼いている(煮るのではなく)、そんな状況だけを、一枚の絵のように、イメージとして持っていた。

ところが、歌は2番で終わらず、次に続いていく。
この部分は、聴くことがないから、知らないでいたし、敢えて放送しなかった部分だと思う。

♪♪♪

さよならさよなら椰子(やし)の島 
お舟にゆられて帰られる 
ああ父さんよ御無事(ごぶじ)でと 
今夜も母さんと祈ります 
           【作詞:斉藤信夫】

♪♪♪

終戦後に作曲された曲だと言う。
なぜ、突然「椰子の島」か、と言うと、

この子の父親は、戦争のため南方に行っている。
戦争が終わった後、少しずつ、兵隊が船で帰ってくる状況であったことが分かる。

無事でいて下さい、
と母と息子が夜の囲炉裏端で栗を煮つつ、
父親に思いを馳せている歌、というのが、より正確な状況把握。

長く知らなかったが、
曲が出た途端、大変な反響があり、放送局が対応に追われたとあった。
その後、演奏される時には、
戦争を思わせる3番以下を省略して、歌われた。

私が知らないのも尤もだと思うが、
そういう状況を知れば、
この長閑な秋の情景を歌った歌も、また別の味わいがある。
また、知っても知らなくても、
誰が聞いても、良い歌は良い、
と言うことでもあると思う。


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