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さくっと終わった例は無い

「もうナイスなミドルだなんて呼ばせない。『VTuber』がらみの話を仕入れてきたよー」

――私の改変ヘキはパパの血だね。VTuberさんって、あの顔出しNGで怪談聞かせてくれる人達のことだよね。

「順調に偏ってるねぇ君。けど今回ご自身の体験をお話ししてくださったのは、別ジャンルの配信者さんだな」

――別ジャンル。都市伝説系の人かな。

「君は本当にいい時代に生まれたな……ジャンルは伏せておく。というか話の本筋には関わってこない部分だからね。内容もわりとシンプル、さくっと終わる」

――本当かなあ。

「怪談界隈にもITの波が押し寄せてきてるってことじゃない? VTuber怪談が出てきてもおかしくはないかも」

――じゃなくて、パパの語りがさくっと終わった例なんて……いいや。長くなるだけだ。聞かせてください。

「じゃ始めまーす。今回お話を聞かせてくださった方は、それまでずっと音声のみで活動されてた配信者さんなんだけど、時流ってやつかな、VTuber活動にも興味が湧いてきたとかで、2Dモデルが欲しいなーと思い始めたんだって」

――ふむ。

「僕もそこまで詳しいわけじゃないけどさ、最近はアバター作りから動作付けまでやれるスマホアプリとかあるんだっけ?」

――私に聞かれても……いや、聞いたことならあるかも。でも確か相当簡易的なものだったはずだよ。配信者としてのキャリアがある人なら別の動画もたくさん見てそうだし、満足できるかな。

「やっぱそうなんだ。で、自作する技術もないとなると外注になるんだね」

――慣れないことはその道のプロに任せるのが一番なんじゃない。わかんないけど。

「なるほどねぇ。まぁその配信者さん……Vさんにしとこうね。は、どこかの事務所に所属しているとかではなく、あくまでご趣味として配信を行っていた」

「そして、彼女もおそらく君と同じような考えを抱いて、お知り合いのクリエイターさんに相談したらしいんだな。雑談交じりの見積もり未満って感じで、リモートにてやり取りしてたらしい」

――ふうん。

「Vさんは、そのクリエイターさんが提示する料金相場に、まあそれくらいかかるよねぇなんて溜息ついたりして。するとリモートの向こう側でクリエイター……の、Cさんが、カチカチカチってやりだして、画面共有してきたんだ」

「するとそこに映し出されたのは、可愛い女の子の2Dアバター。『この子でよければ、半額かそこらでいいよ』って」

――半額? 相場は知らないけど、半額?

「そう。Vさんも半額!? って驚いた。なんせめちゃくちゃ出来のいいモデルだったらしいんだよ。けどさすがに安過ぎるからVさん思わず、アバター納品にそんな概念があるかどうかはさておき、『返品というか、出戻りじゃないよね?』って若干無礼な質問を投げちゃったらしい」

「しかしCさんは憤るでもなく、『納品すらしてないし、他に流用できないほど細かな指定をもとに作った子だから、嫁入り先がなくてちょうど困ってたんだ』って返してきたそうだよ」

――パパの業界でもありそうな話だね。

「んー、注文住宅でそれやられたら、次は法廷で会いましょうって感じだな。まあそれはさておき、そんな理由を聞かされたVさん、自分の好みとかそれ以前にCさんとそのアバターちゃんが可哀想になってきたんだって」

「だから髪型とか衣装とか、そんなに手間ない部分のみ手を加えてもらうことを条件に、正規の価格の七掛けでお迎えすることにしたらしいんだ」

――VさんもCさんも3000のど飴ちゃん、じゃなくてアバターちゃんも良かったね。三方よしって言うのかな。

「君の知識は偏っているのではなく、まだらなんだな。……ほどなくして、Vさんのオリジナル要素を加えたアバターが納品された。うん、やっぱり出来のいい子だなぁって、さっそく専用ツールにデータ流し込んで動作チェックすることにした」

「需要は技術を進歩させるんだね。さほど難しい手順は踏まず、アバターはVさんとシンクロして、画面上を生き生きと動いてくれた」

――へぇ、すごいね。

「Vさんも大満足だよ。あとは環境をじっくり整えてーとか、わくわくしながら、画面上でふわふわ笑ってるアバターを眺めてたら」

「不意に、アバターの片腕が、Vさんの動作とはまったく関係のない動きを取り始めたんだ」

――えっ。

「こう、頭に手を突っ込んで、ぐっ、ぐっ、って下に動かす。かと思えば自分の胸や腕に両手を這わせて、しゃっ、しゃっ、て擦るような仕草をする。極めつけは指をかぎ爪みたいに折り曲げて、首のあたりをがりがりがりっ! って掻きむしる。それらの動きを満面の笑みで行った」

――うわうわうわ。

「Vさんもうわうわうわだよ。けどそんな異常動作も十数秒ほどで収まって、あとは再びのシンクロ状態。動作不良というのかバグというのか、にしてもあまりにも気味が悪いからさ、専用ソフトの取説確認するより早い! と思って、その道のプロであるCさんに即連絡したんだ」

――う、うん。

「そしたらCさん、待機してたんじゃ? って思えるくらいすぐに通話繋げてくれて。Vさんのテンパリ報告をひと通り、うん、うんって聞いてから、はぁ、って小さく肩を落として」

「『コピーデータいじったやつでも、ダメなんだなぁ』って呟いたらしい」

――えっ。

「で、『ごめんね。入金はしなくていいから』と続けた。そう言われてもVさんとしてはわけがわかんないじゃん。えっ何? どういうこと? って詰めたんだけど、Cさんは『納品してないのは本当。だから、こっちとしても説明できることは何もない』みたいなことしか言わない。言ってくれない」

――うへぇ。

「そう返された上でさ、お金もいらないって言ってる相手に、Vさんも言えることは何もなくなっちゃったわけよ。わかりましたって通話を終えようとしたら、Cさん、最後にこう言ってきた」
 
「『アバターデータはすぐに消去して。消せば何も起こらないはずだから。残しておく方がまずいと思うから』って」

――ウォウ。

「Vさんは言う通りにした。そして今のところ、おかしなことは起きてない。けどVTuberとしての活動については、自分の中で一時凍結してますって言ってたな」

――トラウマだろうねえ、そんな目に遭ったら。

「でも今後、VTuberの活動を始めることがあるとしたら、アバターはやっぱりCさんにお願いしたいらしいよ」

――えっなんで。

「とにかく出来がいいんだってさ。『気持ちはわかります』って言ってた。誰の気持ちかはわかんないけど」

――たまげた……。

「けどさぁ、正直気になる存在だよねぇ。その特注美少女アバターちゃん! できればオリジナルに一度お目通り願いたいもんだよ」

――今の発言切り取られたら「こと」だよ、パパ。

「えー、いくら世代が違うったってさあ、『ピー』人形を知らない君じゃないでしょ? それに今なら相場の半額以下で、VR『ピー』人形のコピーが手に入るチャンスかもなんだよ? 僕、実はやや本気で、Cさんに直接連絡取ろうかと思ってるんだよねぇ」

――ベランダのガジュマルとパパが入れ替わって終わりな気がするなあ。ね、ママ。

「……てなことを僕が言い出したらそれはきっと魅入られてる兆しだから、迅速にその道のプロを呼ぶように! 頼んだよ! ね!」

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