BUMP OF CHICKEN「Iris」に寄せて

アルバム発売、聴くにあたっての思い

BUMP OF CHICKENの新作「Iris」が店着日となった、2024年9月3日。

CDドライブをひさびさに出してCDから聞きなれた曲たちを聴いた。

藤くんがインタビューで語った「五年間の馬鹿正直なドキュメンタリー」という言葉のとおりで、ほとんどの曲はこの五年の間にリリースされてきたシングル曲。聞いたことのない曲はたった一曲「青の朔日」(+もう一曲)だけ。

BUMPをずっと追いかけ続けているファンにとっては、モヤっとする出来事だろう。でも音楽を聴く人の中には、BUMPは数ある好きなアーティストの中のいくつもあるうちのひとつだったり、名前は知っているけれど曲はあまり知らなかったり、いろんな人がいるはずだ。

そういうリスナーはきっとアルバム発表という用意された格好の機会に喜ぶだろう。

そんな人にも届くように、「Iris」はやってきたのだと思う。

そして、その人の大切な1枚になるかもしれない。

この五年間、身の回りになんの変化もなかったという人はいないんじゃないだろうか。とくにコロナ禍というのは本当に大きなできごとだったし、五年たてば小学一年生は小学六年生になり、中学二年生は大学一年生か、社会に出て働く歳になる。

ぼくらBUMPファンにとっては、その長い時間の中に、折に触れてBUMPの曲とライブが彩ってくれた時間があるだろう。

アルバム「Iris」も、ツアー「Sphery rendevous」も、きっとそんなぼくらとの五年間の軌跡を形にして、思い出を宝箱に仕舞ってまた前に進ませてくれるような、記念碑になる感じがする。

自分がこんな穏やかな想いをつづっているということは、近年のBUMPには何度も何度も失望しているし、運営のダサさには目も当てられないという思いがある上で、「それもそれとしてBUMPが大好きだよね」という境地に達してきたということだ。
きっと彼らもたくさん悩んで、いろんなものを背負ってぼくらに音楽を届けてくれているはずだから、文句ばかり言ってはダメだよねぇ。

全曲レビュー

というわけで、BUMPへのデカい思いを消化するために、この五年間沢山聴いてきた「Iris」の収録曲について一曲ごとに簡潔なレビューをしていくよ!

M1.Sleep Walking Orchestra

アニメ「ダンジョン飯」のために書き下ろされた一曲で、藤くんのアイリッシュ、ケルトを始めとしたワールドミュージックへの愛が「ダンジョン飯」の世界と絶妙にマッチした珠玉の一曲。

これまで、ワールドミュージック的なアプローチを取り入れた曲はBUMPの一つの持ち味としてキャリアを彩ってきた。
「車輪の唄」「孤独の合唱」のように、カントリー、ブルーグラス的な曲があり、「分別奮闘記」「Merry Christmas」「月虹」などにはケルト風の音階が用いられている。「ハンマーソングと痛みの塔」や「morning glow」は異国の民謡のような旋律がメインリフに採用されている。
「窓の中から」もそうだが、「angel fall」などゴスペルへの造詣を覗かせることもある。

この「SWO」は「ダンジョン飯」の世界とも通じる、「世界のどこのものでもない民族音楽」を目指して工夫されたものだというが、それこそがかつての藤原少年が夢中だったドラクエ、FFなどのゲーム音楽との共通点なのかもしれない。

歌詞についても、近年のBUMPの曲では珍しく、明確に「何かへのあこがれや情熱」について書かれていることが、個人的には熱いポイントだった。
インタビューでも語られているが、彼ら四人にとって音楽は「おそらく悪魔」で、いつの間にかどこか知らないところまで来ていたのだった。

自分も音楽を作ることを選んだ人間なので、こういうテーマの曲については、どうしても自分のことに思えて仕方ない。
「ダンジョン飯」のアニメ最高でした。

誰が消えても星は廻る 明日が今を過去にしていく
残酷なまでに完璧な世界 どこかでまた躓いた蟻

M2.なないろ

朝ドラ「おかえりモネ」の主題歌として作られた曲。
イントロのフレーズ、サビ前の八分音符のフレーズなど、派手ではないものの印象的なメロディが楽曲を彩っている。「Aurora」や「GO」にみられるようなキラキラした世界で四つ打ちのリズムが跳ねる、2015年から2020年くらいのBUMPの定番サウンドで作られた曲だなという印象。

この曲はどうしても「おかえりモネ」のイメージが強い。個人的にとても好きなドラマだったので、併せてとても大切な曲になった。
この五年の中で、自分の生活の中に朝ドラがあった時間はとても大きく、「おかえりモネ」は特にコロナ禍のなか大学に頑張って行ったり耐え切れなくなってクネクネしていた時期と重なるので、この「なないろ」は苦しい毎日に少しだけ勇気をくれた曲だった。

相変わらずの猫背でもいいよ 僕が僕を笑えるから

M3.Gravity

三曲目にくるのは意外だった。ゆっくりめのビートの中に熱い思いが燃えるような曲。

自分的な「Iris」の好きな曲ランキングではかなり上位、というか一番好きな曲。言い表せないのだけど、メロディが格別に美しいと思う。

「思い、思われ、ふり、ふられ」は見ていないのだけど、子供の頃の風景と、好きな人との記憶がよみがえってくるような歌詞はきっと作品とマッチしていたんじゃないだろうか。

ツアーでは日替わり枠になってしまう気がしているのだけど、ぜひ聞きたい曲。カラオケでもよく歌います。気持ちいいのでお勧め!

君の影の君らしい揺れ方を眺めているだけで
泣きそうになったよ

M4.SOUVENIR

アニメ「スパイファミリー」の主題歌になった曲。
わかりやすくライブでのリスナーとの関係を表した曲に思えるこの曲だけれど、新婚の人とか子供が生まれた人とかもかなり共感できるような普遍性のある曲なのではないだろうか。

ぼくはそういうものと無縁なのでこの曲にはあまり感情移入できないけれど、単純に盛り上がる曲だよね。
好き度はこの13曲の中だとあまり高くないけど、ライブで聞きたい一曲。
「スパイファミリー」はジャンプラで最初の方だけ読んだけど面白かった。

それにしても覇権アニメのOPなのに全然流行らなかったねぇ。「ミックスナッツ」が強すぎたか、そもそも初めて聞いたときカップリングみたいな曲だなと思ったし。流行るような曲調ではないか。

おそらく気づいてしまったみたい あくびの色した毎日を
丸ごと映画のように変える タネと仕掛けに出会えたこと

M5.Small World

「すみっこぐらし」の映画の主題歌。
「すみっこぐらし」は見ていないので、とくになんの先入観もなくきいたが、間奏のギターがかなり気持ちのいい歪み方をしていて驚いた。

昨今のヒロのギターの音は結構太めのいなたい歪み方をしていてすごく好みだ。独特のタメ(リズムがずれているだけのようにも聞こえる)で演奏するフレーズにはどこか深みが生まれているように思う。
「ホームシック衛星」の映像で確認できる最新の音色は本当に素敵だった。

この曲については割と地味というか、自分としてはギターの音色がすごくリッチでいいなぁとか、間奏のすこしメトリックモジュレーションぽいアルペジオのフレーズとか、ギターに耳がいってしまう曲だなと思う。
イントロチャマがアコギを弾いて四人で奏でるのもすごくいいよね。

「変わりたいのに変われないままだから苦しくて」ではなくて、「変われないのに変わりたいままだから苦しくて」なのが個人的にツボです。
これって結構違うと思うんですよ。

叶わないままの夢はどんな光より綺麗で
変われないのに変わりたいままだから苦しくて

M6.クロノスタシス

劇場版名探偵コナンの主題歌。
コナンの映画は2012年くらいまでの奴はほとんど見ているのだけど、そのあとキャラが増えてきてから全く見ていない。
なんとなくR&Bっぽくて、最初聞いたときは「宇多田ヒカルみたいだなぁ」というゴミみたいな感想を持ってしまった。

歌詞は難解で、よくわからないというか、自分がよくわかろうとしてないのかもしれない。なんとなく東京って感じがして、都会的な感じがして、それが都会的なサウンドに後押しされて、僕の中で「宇多田ヒカルみたいだなぁ」になったのだろう。こういう曲BUMPだとすごく珍しいな。

この曲以降、BUMPの「定番」なサウンドから抜け出して、さらに自由な音作りが増えたように思う。結果的に「Iris」はとてもカラフルなアルバムに仕上がった。

この曲のイントロのアルペジオはすごく複雑で、コピーしてみると弾くのがとても難しいのだけど、癖になる。
「voyager」のアルペジオのような少し機械的な、でも不思議と親近感のある印象的なフレーズ。

BUMPって歌詞や歌声ばかりが取り沙汰されるんだけど、藤原基央のつくるギターフレーズは常軌を逸しているとおもう。
ギターを持っている人はぜひBUMPのアルペジオを全部コピーして下さい。
アカシックレコードに接続したような気分になること請け合い。

ライブではアウトロがかっこいいよ。

大通り 誰かの落とした約束が 跨がれていく

M7.Flare

「木漏れ日と一緒に」と並んで二曲のみの「ノンタイアップソング」である「Flare」。バンド結成から25周年の節目に公開された曲だが、「リボン」のようにアニバーサリ―を祝う曲というわけではないようだ。

配信当時、チャマの不倫騒動があって三人での活動になっていた。そのうえでのこの曲は邪推を呼んでしまったが、「コロナ禍の閉塞感や孤独感」が根底にあり、騒動を直接歌ったわけではないとのこと。

チャマの不祥事は、彼らにとって本当に大きな出来事だったはずだけれど、音楽の解釈を一つに狭めてしまうことはその曲自体が求めていないよね、というのが藤くんの出した答えなんでしょう。
三年以上が経った今、この曲はシンプルな命の炎を歌った歌だなと思う。

サウンド面はシンプルなバンドサウンドで、ユグドラシル以降のBUMPの定番サウンドといった感じだが、サビのギターは動き回る裏メロを奏でていてかなりかっこいい。この感じは「ギルド」を彷彿とさせるし、単純にこういう凝ったアレンジは大好きだ。
ギターフレーズは数珠繋ぎにつづいていくが、途中途中同じメロディがアコギで重ねられていてアクセントになっている。これはなかなか面白いアレンジだなと思ったけれど、音源だとあまり聞こえないのが残念。

自分にしかできないことってなんだろう
終わったって気づかれないようなこんな日々を
明日に繋ぐことだけはせめて
繰り返すだけでも繰り返すよ

M8.邂逅

アルバムは折り返し、「陰陽師0」の主題歌。
(「陰陽師」で「ゼロ」…?それって…!?)

この曲を初めて聴いたときはかなり衝撃的だった。
たぶん今までのBUMPの曲の中で一番複雑怪奇な、オルタナティブな一曲じゃないかなと思う。このくらい尖った曲が、ふつうに映画の主題歌なのだから、タイアップばかりと嘆くこともない気がする(SOUVENIRもBUMP以外が提出したら却下だとおもう)

間奏のコーラスのきいたギターフレーズは「ブライアンメイっぽい」とも言われているが、かなり独特のものになっていて、まだ新しい扉開くんだ…。と思ったし、普通の八分音符と三連符を行き来する独特のリズムも新しい。

そして明らかに「死別」を歌っている曲。
「RAY~Butterflies」あたりまで、明らかに「喪失」を歌うことの多かったBUMPに、別れの唄は本当にたくさんあるし、そのどれもと共通した部分のある歌詞だが、サビの部分はその純度が最高点に達したもののように思えた。
最近、「アンナチュラル」を見て米津玄師の「Lemon」をよく聞いていたので、この曲も同様に、自分の中でタイムリーなテーマを歌っていて、心に強く響いた。

インタビューでは、身近な人の命に関わる出来事があり、そのようなことを考えることが多かったという。
藤くんって、リスナーが曲の解釈を狭めてしまうのが嫌で、インタビューではぼやかしたことを言うし、実際、曲に込めた感情を普遍化することに注意を払っている人ではあると思うんだけれど、
同時にとても正直な歌詞しかどうしても書けない人なんだなと改めて分かった。

RAY期は本当に大きな別れを経験して、それしか歌えなかったんだろうなとか、今はリスナーとライブができることが本当にうれしいんだろうなとか、「aurora arc」期の曲は本当に奥さんへの愛情からくる歌詞もあったんだろうなと思ってしまった。(よくないですね)

あなたに穿たれた心の穴が あなたのいない未来を生きろと謳う

M9.青の朔日

完全新曲。
BUMPらしいギターロック。本当に気持ちのいい曲で、ライブで聞くのがとっても楽しみ。

個人的に歌詞がかなりワンピースに合っている気がしている。アニワン主題歌説ないですか?ないですか。
くまのテーマソングと思って聞くとマジでエモいです…。
でもくま過去編よりも前に書いてるっぽいよねぇこの曲。be there ツアー中なので、2023年上半期ですね。

すこし珍しい転調の仕方をしているみたいだけど、まだちゃんとコードを追っていない。それにしても最近のBUMPは転調ばかりしている気がするなぁ。

まだあまり語ることがない。この先たくさん聞いていくんだろうし、聞いていくときっと沢山語りたいことが生まれるんだろうなと思う。

間違いかどうかなんて事よりも あなたのいる世界が続いてほしい
ならば私は戦える たとえその時 側にいないとしても

M10.strawberry

個人的なイメージなんだけど、コーラスのかかったクリーンなシングルコイルのギターで弾かれたアルペジオやカッティングに色がついているとしたら絶対にピンクだなと思っていて、(THE1975の2ndのイメージなのか?)なのでこの曲が「strawberry」なのはとても共感覚的にしっくりくる。
「西園寺さんは家事をしない」の主題歌。
ぼくも家事をしないのでとても共感できる。ドラマは見ていません。

この曲の印象は超J-POPだなということ。とても分かりやすい藤くんの手癖っぽいコード進行に手癖っぽいメロディ。
そして圧倒的にシンプルで凝ったギターワーク。ドラムやベースもとてもシンプルだけれど洗練されていて、とても力が抜けている。

「Iris」では一番新しい曲になるわけだけれど、この曲は新しいBUMPの「力の抜けたバンドサウンド」にたどり着いた曲な気がする。

そして「今日までの日々をひとりにしないで」という歌詞は、この「Iris」というアルバムの曲たちとともにあった五年間には、ずっとこの曲たちがついているよというBUMPから我々への最高のメッセージになっているように思う。

分かり合いたいだとか 痛みを分かち合いたいだとか
大それた願い事がかなってほしいわけじゃない
ただ沈黙の隙間を吹き抜けた風に
また一緒に気づけたらなって

M.11 窓の中から

アルバム最大の盛り上がり。「18祭」のために作られた曲。

この曲は本当に珠玉のポップソングだなと思う。
テレビで放送されるライブの映像で初めて聴くことになるというのも、とっても新鮮だった。

藤くんは「ずっと同じことしか歌ってない」と自分を評価するが、本当にそうで、だからこそ、その純度がどんどん高まっていくんだなと感じる。

「窓の中から」で描かれているのは、BUMPの音楽を窓の中から見つけて、夢中になって集まった「みんな集まって全員ひとりぼっち」の我々そのもので、「自分のために歌われた歌などない」はずなのに、「自分の唄」だと確信してしまった「愚かなビリーヴァー」たちだ。

本当に名曲、大切な曲になりましたね。(7分くらいあるのとんでもない)

他の誰とも分かち合えない全てで
宇宙を震わせろ 今

M12.木漏れ日と一緒に

25周年記念ライブ Silver jubilee at幕張で演奏された新曲。
一日目に参加した自分は世界最速でこの曲を聴くことができた。

メロディも歌詞もギターのアルペジオや音色も気持ちがいい、清々しいほど爽やかな曲だけれど、歌詞はとてもリアルな心の疲れを淡々と歌う。

「選ばれた小さい輝き」「削れて砕けて届く光」と木漏れ日を描写する歌詞には脱帽だ。そしてサウンドはそんなキラキラした木漏れ日をそのままスケッチしたような感じがある。

今年はこの曲をいろんなプレイリストに入れて聞くことになるだろうなと感じる。アルバムの中でもトップクラスに好きな曲。

最初を知らない映画のように過ぎる 窓の向こう

M13.アカシア

この曲がラストなのではないかと何となく予想していた。
ポケモンのスペシャルMV「Gotcha!」のテーマソング。

ポケモンだいすきな自分からすると、ポケモンとBUMPのコラボなんて、本当に最高でしかない。

この曲は「相棒」「パートナー」といえるような存在に対する力強いラブソングだ。きっと藤くんにとってはBUMPメンバー三人がそうで、サトシにとってはピカチュウで、そんな関係に聞く人それぞれが共感して、憧れる。
ポケモンをテーマにした音楽でいうと、ポケミクの企画があり沢山の曲が作られたが、「アカシア」はそのどれにも負けない最高の一曲であることは間違いない。

ポケモンにまつわる直接的な言葉を使わずに、こんなにも寄り添った曲を作り上げる藤原基央の作詞能力は本当にすさまじい。

個人的には、「太陽がなくたって歩ける 君の照らす世界が見える」の部分は、イワヤマトンネルをひでん技「フラッシュ」で照らして攻略した思い出を歌っている説がかなり熱いです。わかる人にはわかる。

ポケモンSVは、この「アカシア」があまりにもピッタリすぎるストーリーになっているので、もしプレイしていない人がいたらぜひプレイしてほしい。

アルバムを締めるのにふさわしい爽やかで本当に気持ちのいい曲。
「Butterflies」の「ファイター」と同じくらいラストが似合う曲だなぁと思う。
きっとライブもこの曲で締めるのかな。

ついに辿り着くそのとき 夢の正体に触れるとき
必ず 近くで 一番側で 君の目に映る景色にいたい

最後に「Sphery rendevous」のセトリ予想!


ぼくが予想するセトリはこんなかんじです!

1.Sleep Walking Orchestra
2.なないろ
3.ギルド / 宇宙飛行士への手紙

4.Gravity / クロノスタシス
5.Strawberry  
6.SOUVENIR

7.Flare / Small World
8.涙のふるさと / 時空かくれんぼ
9.花の名
10.邂逅

11.beautiful glider / グッドラック(島)
12.木漏れ日と一緒に(島)
13.ガラスのブルース(28 years round)(島)

14.青の朔日
15.窓の中から
16.ray / 天体観測
17.アカシア

どうだ!!!
こんな感じなら満点!

楽しみ~ おやすみなさい。

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