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月明かりに妬く


月明かりに妬く (Look up the moon )を公開しました。聞いていただけたでしょうか。今回はインスト曲です。
聴き心地や音の配分により気を配れたと思います。ヘッドフォンで聴きながら作業をしていると寝てしまうことが何度もありました笑。

夜に聴きたくなるような寂しくもあったかな曲を何か作れないかずっと思っていて、やっと形にすることができました。

曲と「シャイニング」

以前2作目にも大好きな漫画作品「veil」をテーマに「オレンジの体温」という曲を作ったことがありましたが、今回は大好きな“映画“をテーマにして曲を作りました。


シャイニング」(1980)は「it」や「スタンドバイミー」を書いたスティーヴンキング原作、スタンリーキューブリック監督のホラー映画。冬の間ホテルの管理人をすることになった男ジャックが家族と一緒に山のホテルに行くと、徐々に精神が崩壊してしまい、ついには妻と子供を追いかけ殺そうとするというサイコスリラーです。

私が「シャイニング」を初めて見たのはちょうど1年ほど前、たまたまおすすめに出てきたその強烈なビジュアルに引き込まれ、見てみると、それはホラー映画でありながら節々に貫徹された美意識を感じる美しい映画でした。

それを感じるのは例えば、頭のおかしくなったジャックが廊下を腕を震わせて叫びながら歩いているシーン。どこからともなく流れ始めた音楽に吸い寄せられるようにジャックが廊下を進むと、行き着いたのはダンスホール。滑るようなカメラワークで壁を越えるとそこではいるはずのない客がお酒を飲み交わし、談笑している。タバコと思われる煙、シャンデリアの明かり、まるで蜃気楼のよう。観客もそのパーティーに誘われているような感覚になる。見えない手に引っ張られていくような。キューブリック監督の作品はいつでも魅力的です。

そんな映画で私が気になったのはホラーシーンでもジャックでもなく、ダニーでした。

ジャックの息子ダニーはときどき幻聴や幻覚を見ることがありました。ダニーはその幻にトニーという名前をつけ、会話をすることがありました。家族でホテルに行く朝、トニーはダニーにこれから不吉なことが起きると忠告します。そしてそれから何度も恐ろしい幻覚を見せるようになります。水色のワンピースを着た双子の少女が廊下に立っていたり、エレベーターから血が溢れ出したり。それはどれもダニーを恐怖させるものでした。しかしそれらは全てダニーへの警告。一刻も早くホテルを立ち去るよう促すトニーの、「シャイニング」の能力でした。

シャイニングとは簡単に言えば命の輝き、生命力。それは人ならば誰しもがもつものですが、多くの人はその使い方も、存在すら知りません。一方で使い方を知っている人間は透視、念力、予知など不思議な力を使えるのです。俗には霊能力と言われるような力。

(以降は「シャイニング」の続編「ドクタースリープ」の内容です。)

ジャックがホテルで死に、逃げた母とダニーは街で新しく生活を始めました。しかしダニーはシャイニングのせいで悪夢にうなされるようになり、それは次第に強くなっていきました。なんとか乗り越えるため、彼はその力を悪霊ごと封印することにします。悪霊を封印すると幻覚を見ることはなくなり、彼にも平穏な生活が訪れました。

月日は経ち、大人になったダニーは酒に溺れていました。自分を見失い、暴力を振るう彼はまるで父ジャックのよう。気付かぬうちに一番なりたくなかった自分になっていた。彼はシャイニングをしまい込んでしまったことで、同時に自分に自信が持てなくなっていたのでした。ありのままの自分でいられない窮屈さを感じていました。

そんな時、自分より遥かに強いシャイニングを持った少女に出逢います。彼女は強いシャイニングを持っていることでその扱いに困っていました。しかし襲われそうな人がいることを知り助けようとします。それを見たダニーは「力は隠すべきだ」と言います。「力は不幸を招く」と。
しかしそれでも行動する少女に動かされ、ダニーは少しずつ自分の力に向き合い始めます。

そして最後、シャイニングを解放し身を挺して少女を守ったダニーは少女に
“When I met you first time, I told you that you should hide.
That you should keep your head down.
Keep your shine out of sight. 
But I was wrong. Shine on. You shine on.”
という言葉を贈ります。

輝きを、自分の美しさを隠すのではなく、ありのままでいることの大切さに気づくことのできたダニーから少女に贈られたこの言葉が私に強く刺さりました。

長くなりましたが、
「皆各々に輝けるものを持っているがそれに気づいていない。可能性や美しさに気づいていない。見ないふりをしないで、自分自身を受け入れて自分らしく輝くこと」そんなメッセージを私もみなさんに贈りたいと思います。

曲のタイトル「月明かりに妬く(やく)」は迷うダニーの心を映した言葉です。本当に目を向けるべきは「月」ではなく「自分」ではないか。

イラストは私のイメージを大きく広げてくれるものでした。今回イラストを描いてくださったsekudaさんは私の憧れの作家さんです。イラストが纏っているオーラに品があって美しい世界観を作り出しています。描かれる男性の目にはいつも力がこもっていて、命を感じます。形のないイメージを具体的な形にできる作家さんを私はとても尊敬しています。私もそうありたいと思っています。

改めまして今回は曲を聞いてくださりありがとうございました。これからも優しく寄り添える音を作っていきます。作品を楽しみにしていただけたら嬉しいです。

やとわ

余談

サイコスリラーでは他に「ゲットアウト」「ミザリー」「ヘレディタリー」がおすすめです。「ヘレディタリー」のアリアスター監督のホラーはそのジャンルでも異彩を放っていて、見ているうちにその緊迫感と鳥肌の立つような不気味さが伝ってきて本当に居心地が悪くなります。つまりいいホラー映画です。彼は長編映画の前にYouTubeにいくつか短編のホラーも出しているので気になった方は見てみてください。後味は最悪です。責任は持ちません

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