「ピンチはチャンス」 広い視野でアピールを
愛知県一宮市の妙泰寺、松永寿康住職(42)は「ピンチはチャンス」と語る。繊維産業で栄えた尾張の中心都市でも若者の市外流出で檀家離れがある。一方で、ベッドタウンとして増えている新しい住民を迎え入れようと、広い視野でお寺を守っている。
眼病の守護、妙見菩薩
――創建は1495年ですね。
「室町時代です。地元の村を興した一族の方が、日蓮宗の教えを広めたいと発願されたのがきっかけのようです。
総本山、身延山久遠寺(山梨県)の法主だった行学院日朝上人のお弟子さん、智運院日性上人を招いてお寺をつくったのが1495年で、住職は私で47代目になります。
日朝上人は頭がよく、たいへん多くの書物を残されていますが、勉強に熱心すぎたのが災いして目が見えなくなってしまいました。ただ、勉強だけでなく、信力も優れており、南無妙法蓮華経のお題目の力で視力が回復したという謂れから、目を治すという信仰があって、妙泰寺でもお祀りしています」
――本堂のほかにお堂がありますね。
「開運北辰妙見大菩薩といいまして、北極星を神聖化した神様です。全国に妙見山信仰はあるのですが、うちは大阪の能勢町にある妙見山から御分体をいただいてきたものです。お講という、お坊さんを抜きにした信者さんの集まったグループが本山へのお参りなどをしていて、御分体をお寺に持ってきたようです。
境内にある日蓮上人の石像もお講のみなさんが建てたものです」
――熱心な信者さんがいらっしゃる土地柄なんですか。
「日蓮宗では昔、尾張千人講というのがありました。妙泰寺のある定水寺という地域では、私が子どものころ、お講が四つありました。今は一つが名前だけ残っている状態ですが、コロナ禍で消滅寸前です。全国的にほとんどお講は解散しているので、逆に残っている方が珍しいかもしれません」
人口増えて、檀家は減少
――檀家離れやお墓じまいは妙泰寺でも増えていますか。
「はい、檀家さんのお子さんは一宮の外で生活をしている方も多く、実家で親のお葬式をしたけれども、自分が住み続ける家に仏壇はないし、お墓を買うつもりもない、お骨をどうしようか、とご相談を受けることもあります。
一方で、一宮は名古屋のベッドタウンとして新しい家も建っています。人口は増えているけれど、檀家さんの数は減少という傾向です。
お寺が、住民の方と新しく関係を結ぶのはなかなか難しいのですが、矢田石材店と一緒に運営している『はなえみ墓園』には助けられています」
――2021年オープンの一宮はなえみ墓園ですね。
「ご案内会の新聞広告が入ると、それを見て、ちょっと妙泰寺に行ってみようか、という方が何人かいらっしゃいます。お墓を買う気はなくても、話だけ聞いてみたいと。近くに住んでいながらお寺の横を通り過ぎていた方が、足を踏み入れてくれたのはありがたいですね」
――イベントを開かれるお寺もあります。
「以前に音楽イベントをやったことがあるんですが、駐車場確保や騒音問題を考えると、やれることは限られます。でも、そこまでやらなくても、はなえみ墓園の案内会でお寺の存在を知ってもらえて、足を踏み入れてもらえる。それで十分。あとは、さらにワンアクションがないと続けて来てもらえません」
「寺」以外の人たちと作戦会議
――なにか考えていらっしゃいますか。
「今後、『終活』の相談会みたいなことができないかと思って準備しています。たまたま知り合った遺品整理業や保険業の方と、相続や遺言状、遺品整理って前もってやっておけば、そんなにお金がかからずに済むのにね、という話になったんです。事前にできる手続きとか、葬儀のやり方とか、それぞれの専門的な知識を集めて知ってもらえる機会をつくれないかと、話し合っている段階です。
お坊さんじゃないところからもらえる知識ってすごくありがたいと思います。狭い世界なので、自分から広げていかないと」
――広い視点を持つきっかけがあったのですか。
「大学、大学院を卒業して妙泰寺に入り、25歳のころ100日間の荒行に参加したのですが、体を壊して中断し、2か月ほど入院しました。出鼻をくじかれて、落ち込みました。
体力を回復させて、もう一度学び直そうという時期に、たまたまネパールで法華経のお経典を翻訳している日本のお坊さんと知り合い、1か月、ネパールへついて行きました。
帰国して1年後、今度は3ケ月行き、ネパールにある日本のお寺の別院に身を寄せて、うちわ太鼓を叩いて南無妙法蓮華経と唱えて行脚する日々を過ごしました。
そこでお世話になったお坊さんは元々旅行者で、まったく仏教とは縁のない人生を送って日本を飛び出し、世界を旅してまわる中、アフリカでという衝撃的な方でした。その人と出会って、経験談やお坊さんに対する熱意を、身をもって感じることができました。日本でちょっと病気してつまづいている自分がとてもちっぽけで、また私はお坊さんとしての熱量がとても少ないことに気づかされたのです」
身近で親しみやすい存在に
――最近、住職を引き継いだばかりだそうですが、どんなお寺にしていきたいですか。
「散歩ついでにお参りして帰るか、という感じの、身近で親しみやすい存在にしたい。人としても、お寺としても。
檀家離れの話を聞くと最初は寂しかったのですが、逆にこれはチャンスかも。お盆とかの行事は檀家さんばかりで、新しい住民の方は入りづらいかもしれない。一方で、40年前からやっている一日参りは檀家さんでなくても入りやすいので、半分は檀家さん以外です。
常にピンチはチャンスと思うようになりました。
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式を提案する「お寺でおみおくり」。
不安が少なく、心のこもった、供養の形を、矢田石材店とともに考える、お寺のご住職のインタビューをお届けします。
随時、月曜日に更新する予定です。
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