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「最後に乗る車」の文化を守る

 全国で2番目に大きな霊柩車の会社が愛知県にあります。約100台の霊柩車を保有している名古屋特殊自動車株式会社(本社:名古屋市中川区)。矢田石材店が、お寺の本堂で開くお葬式をサポートする「お寺でおみおくり」でもお世話になっています。下村康範社長に、時代の要請に合わせながら、「大切な人が最後に乗る車」の運行を年中24時間体制で預かる取り組みを、教えていただきました。


地域の霊柩車が集められ83年目

 ――霊柩車の会社ということですが、会社の紹介をしていただけますか。

 「昭和17年に、この地域の葬儀会社が持っている霊柩車を集めてつくられた会社です。戦争が始まったため経済統制が行われて、ガソリンの供給をまとめた方がいいということで、国によって統合されました。創立から83年目になります」

洋型リムジンなど約100台を保有

 ――霊柩車にはいろんな種類があるんですか。

 「うちのフラッグシップ、会社の顔となるモデルがセンチュリーリムジンです。新型センチュリーが出た時に日本で最初に車両の作成に取り掛かりました。ベンツ、キャデラック、クラウンなど、多くが『洋型』といわれる霊柩車で、車両を改造してのばしたリムジンです。

センチュリーのリムジン

 荷台部分のサイドにSの字のような装飾がされていますが、あれは幌馬車の金具をなぞらえたものです。

幌馬車の金具がデザインされた装飾

 あと、『宮型』といいまして、後部の棺を乗せる部分が、木彫りや金細工などで装飾されて、寺院のようにつくってある霊柩車が4台あります。
 ワンボックスカーで、パッと見では霊柩車とは分からない車もあります。
 運転手と助手席以外に、後部座席に棺と一緒に人が乗れる『サンク』という霊柩車もご用意しています。5人乗れるので、フランス語で『5』のサンクと、英語で『感謝する』のthankから、私が名付けました」

 ――全部で何台くらいあるんですか。

 「約100台が、中川区の本社と、県内4カ所の営業所に分かれて待機しています。いつ依頼が来るのか分かりませんので、約90人のドライバーが交代で365日、24時間、対応できるようにしています」

一年中、365日体制で待機する社員

人の尊厳守るため、被災地へも

 ――24時間体制ということで、たいへんな仕事ですね。

 「みなさん、あまりご存じないと思いますが、大きな災害や事故の現場へも行きます。
 今年のお正月の能登半島地震へも、2週間ほど、霊柩車と社員が交代で行き、金沢市と能登の被災地の間を往復して、ご遺体を搬送しました。
 会社が所属している全国霊柩自動車協会からの要請などで派遣するのですが、過去には御岳山の噴火や阪神・淡路大震災、中華航空機の墜落事故、飛騨川バス転落事故などにも派遣しています。
 そうした現場はとても混乱していますが、トラックなどでご遺体が運ばれるのは、ご遺族としては耐えられないと思います。ですので、業界が協力して、亡くなられた方をできるだけきちんと搬送しています」

 ――人の尊厳を守るための大切な役目ですね。

 「そうした霊柩車ですが、実は“絶滅”しそうな霊柩車があります。先ほど『4台ある』とお話した『宮型』の霊柩車です。年々、減っております。葬儀の世界の文化遺産と言っていいものだから、いまの4台をなんとか残せないかと考えています」

宮型の霊柩車

“文化遺産”宮型の危機

 ――貴重な車両ですね。

 「歴史的なことからお話しますと、かつて日本では『野辺の送り』という風習がありました。葬儀の儀式が終わった後、墓地や火葬場まで、柩を乗せた輿(こし)を中心に葬列を組んだのですが、それが宮型霊柩車の起源です。
 柩を乗せるのが、その後、大八車、自動車と変わり、自動車には立派な装飾をほどこすようになりました。屋根があって、木彫りや金細工などで装飾されて、内側は極楽浄土をあらわすような荘厳さがあります。

名古屋特殊自動車で保管されている、
奈良で昭和30年代まで使われていた「棺車」

 4台のうち、2台は屋根が銅板葺きで、高級木材の黒檀が使われています。
 車両の低い部分から『輿』になっているのが『名古屋型』の特徴で、同じような霊柩車はほかにはないと思います。
 あとの2台は四面に金箔張りの彫刻がほどこされている特金車です」

 ――なぜ絶滅しそうなんですか。

 「宮型のように、ひと目でお葬式と分かる霊柩車が入れない火葬場が増えているんです。火葬場の周辺に住んでいるみなさんからの、ご意見があるようです。
 出番が減っていく車をかかえておく余裕もなく、昨年も泣く泣く、宮型を1台、廃車にしました。装飾をする職人さんも、もういませんので、新たに造ることも難しく、減っていく一方です。
 だから、いまの4台だけは残しておきたいんです」

YouTube『霊柩車チャンネル』

 ――いい案はあるんですか。

 「特別にいい案はないのですが、この霊柩車に興味がある方もいて、写真を撮らせてほしいと来社される方もいます。
 もっと知っていただこうということで、2年前からYouTubeを始めました。『霊柩車チャンネル』といって、社員が霊柩車ジャーナリストに扮して、撮影、編集もしています。マニアックな内容だ、と評判はいいようです」

YouTube『霊柩車チャンネル』のから。
「野辺の送り」を説明する“霊柩車ジャーナリスト”(右上)

大切な故人の想いも運ぶクルマ

 ――今後、なにか考えていらっしゃることはありますか。

 「霊柩車を使っていただくため、『ラストトラベル』というのを考えています。例えば、お通夜が終わった後、故人とご家族で思い出の場所を車で巡るというものです。
 霊柩車は、亡くなった大切な方が最後に乗る車です。なんでもいいから運べばいい、というのではなく、亡くなった方の想いをくんで、どういう気持ちでおくるのかということを大事にしていただきたいです。
 直接、ご相談に乗ることもできますので、ご連絡をいただければと思います」

下村康範社長

名古屋特殊自動車株式会社
〒454-0843 名古屋市中川区大畑町2-5-2
https://www.nagoya-hearse.jp/


永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式を提案する「お寺でおみおくり」。
役目を終えた墓石を再利用につなげる「愛知県石材リサイクルセンター」。
矢田石材店のさまざまな事業でご一緒しているみなさんにうかがったお話をお届けします。
随時、月曜日に更新する予定です。

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