地域とともに、お寺をつなぐ
お寺は地域のもの――。豊橋市西部にある浄土宗の養福寺の歩みを知ると、改めてそう感じさせられる。無住となっていたお寺をなんとかしようと、住民が住職を探して就任を懇請。その意を汲んだ住職が、墓地や山門、本堂などの整備を、地域とともに進めてきたという。そんなお寺の住職を10年前に継いだ38歳の立松康輝さんも、地元のみなさんと一緒にお寺を守り、新しいことにも取り組もうとしている。
無住で荒れたお寺を再生
――養福寺について教えていただけますか?
「開山は1595年です。豊橋市川崎町は豊川と豊川放水路の間にあって、住宅や田畑が広がるのどかな地域にあります。住所は豊橋市ですが、豊川市に近い地域なので、浄土宗の組という区分けでは豊川組に入っていて、豊川市のお寺のみなさんと一緒に活動しています。父から2013年に住職を引き継ぎました。
父が養福寺の住職になったのは1974年、26歳の時でした。豊橋市の市街地にある悟真寺にいたのですが、住職のいなかった養福寺でお葬儀などをつとめた縁で、総代の方から住職になってほしいと強くお願いされ、通いですることになったそうです」
――ご住職が生まれる前のお話ですね。
「父が住職に就いた当時、かなり荒れていて驚いたそうです。庫裡の南側は竹や雑木が生い茂った雑木林で、納屋は崩れかけ、手洗い鉢の横からヘビのアオダイショウが迎えてくれたとか。どこから手を付けようかと途方に暮れていたら、地域の方が無償で重機などを使って雑木林を伐採して、広場をつくってくれました。それが再生のきっかけになって、檀家さまのご協力をいただいて整備を進めました。墓地を整理して、山門を造り、その集大成として、270年ぶりの建て替えとなった本堂が完成したんです。そのタイミングで、私が住職になりました。父が本当に一生懸命にやってきてくれたおかげで、いま、僕がやらせてもらっています」
税理士事務所と兼業
――住職を継ぐことは考えていたんですか?
「父はそうしてほしいだろうなと思っていました。大学はどこへ行ってもいいが、僧侶の資格だけは取るように言われていましたので。サラリーマンになったらお寺を継ぎにくいので反対されるだろうと思って、税理士の資格を取りました。去年からは豊川市内で知人の税理士と事務所を共同経営しています」
――税理士と住職の兼任となると、お忙しいでしょうね。
「やはり確定申告や決算とか忙しい時期はありますが、時間的に融通がきく仕事ですので、資格を取っておいて本当によかったと思います。急にお葬式が入ることがありますから。檀家さまもすごく協力していただけるので、今のところ両立できているかなと思います。本当にいろいろとお寺を盛り上げていただいています」
避暑で遊んだお寺の住職に
――檀家のみなさんが協力的なんですね。
「父が養福寺に通って住職をしていたので、私も子どものころはよく父について行っていました。当時住んでいた豊橋市の中心部から郊外の養福寺へ行くと、夏は涼しくて、夏休みには泊まったりしていたので、地元のみなさんに声をかけていただいていました。
檀家さまとの昔ながらのつながりが残っている地域で、お彼岸やお施餓鬼といったお寺の行事にみなさんが参加していただいていましたし、昔は一緒に旅行も行っていました。お盆には迎え火をするんですけど、お施主さんがみなさんにお菓子をふるまって、集落の方たちがみんな来てくれます。コロナの影響で、そうした行事も簡素化されていましたが、久しぶりに今年の春のお彼岸は以前のように開きました。何人来てくれるんだろうかと思っていたら、本堂に入りきれないくらい集まっていただき、すごくうれしい気持ちになりました。地域の一体感がありますね」
総代は「ブロックさん」から甥に
――かわいがられていたんですね。
「長く総代をされていた『ブロックさん』には特にお世話になりました。コンクリートブロックの会社をやっていらした方だったので、竹田忠弘さんとおっしゃるんですが、父もそう呼んでいました。私に住職をやってくれと言ってくださり、自分に務まるかと悩みもしたんですが、受けさせていただきました。ブロックさんは残念ながら去年亡くなられたのですが、その甥っ子の竹田源太郎さんが新しく総代になってくださって、インスタグラムでお寺のことを発信しようとか、いろいろ新しい提案をしてくださるんです。とても心強く感じています」
――どんなお寺にしていきたいですか。
「ひとつは、昔からやっていた良いことを、これからもみなさんに続けていただけるようにしたいと思っています。今でも月に1回、お参りをさせていただくお宅もあるんですけど、おじいちゃん、おばあちゃんから、お孫さんまで、ご家族がみんなで集まって手を合わせている姿ってすごくいいなあと思いますし、継承していきたいなと思います。
一方で、新しいこともやんなきゃいけないし、変えていかなきゃいけない部分もあると思います。矢田石材店さんと一緒に運営する豊橋川崎はなえみ墓園は、今後のお寺のことを考えるいい機会をもらえました。お話をいただいて、すでにはなえみ墓園を開いていらっしゃったお寺を見学させてもらったら、雰囲気がとても明るくなっていたのが印象的でした。駐車場も整備して広くなったので、お寺の行事のときだけではなく、みなさんに来ていただけるようなお寺になると、もっと明るい雰囲気になるんじゃないかと思います。
コロナ禍でしばらくはなにもできなかったのですが、今年に入って月例法要や、本堂でのヨガ教室を始めました。お盆の迎え火の日にはかき氷とポップコーンを、私の妻と総代さんの奥さん、友人とで、檀家さんに振舞ったところ、大好評でした」
新世代も地域とともに
――新しい世代で動き始めていますね。月例法要にはご住職のお嬢さんも参加するそうですね。
「昨年、娘が生まれて、私も父親になりました。自分の父の姿を見ていると、人柄とかで頼りにされているなあと感じます。自分が父のようになれるかどうかはわかりませんが、そういう住職になれたらいいなあと考えています。これからも温かい雰囲気でみなさんをお寺にお迎えしたいと思っています」
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式を提案する「お寺でおみおくり」。
不安が少なく、心のこもった、供養の形を、矢田石材店とともに考える、お寺のご住職のインタビューをお届けします。
毎月の第2、第4月曜日に更新する予定です。