「転ばぬ先の杖」となる
江戸時代に栄えた尾張名古屋の寺町に高顕寺はある。大きな寺院や歴史ある神社など、多くの神社仏閣が集まる地域の一角で生まれ育った、38歳の加納慈孝副住職は、「仏教は面白い」という。「仏教離れ」「寺離れ」などと言われる昨今、仏教は「転ばぬ先の杖」と穏やかに語り、お寺にいろんな人たちを迎え入れたいと考えている。
清州越と尾張徳川家
――高顕寺は伏見通に面して、西大須交差点のすぐ南と、名古屋市の中心部にありますね。
「この辺りは寺町として整備された地域で、高顕寺はその中ではちょっと外れになります」
――お寺の成り立ちを教えていただけますか。
「慶長遷府(1610年)に伴い、清州城下を名古屋に移転する『清州越』が行われた時に、東輪寺というお寺が清州から、今の高顕寺の場所に移転しました。
廃寺となった後に再興し、さらに曹洞宗から黄檗宗に改宗しましたが、元禄2(1689)年に尾張藩2代藩主の徳川光友の命で曹洞宗に戻り、元禄5(1692)年に同名の黄檗宗東輪寺が建立されたため、翌年に高顕寺に名を改めました。ですので、高顕寺の創建は元禄年間です」
――記録が残っているのですか。
「戦争で焼けてしまい、残ったのはご本尊の観世音菩薩坐像と木造の山門くらいです。ご本尊の胎内にあった千手観音菩薩坐像は取り出されて、今は厨子の中に安置されています。
記録がないので、私が図書館で調べた内容と、現住職、先代住職から聞き取った内容です。あと、先ほど話した東輪寺は、小学校の同級生のお寺で、その子のお父さまが歴史に詳しかったので、遊びに行った時に教えていただいたこともあります」
仏教の広さ、深さへの興味
――寺町なので、同級生にはお寺のお子さんが多かったのですか。
「そうなんです。地元の小中学校は、お寺の子が3、4人は周りにいるもんだ、という感じでした。高校は北海道にある曹洞宗系の駒澤大学岩見沢高校、大学も東京の駒澤大学の仏教学部で、全国からお寺の息子が集まって、授業後に部活みたいに仏教を学んだり、1限目に座禅を組んだりしていたので、ずっとお坊さんが珍しくない環境でした。大学時代に料理屋さんでアルバイトをした時に珍しがられて、初めてそうなんだと思いました」
――高顕寺のご長男で、お坊さんになるのは当然だと思っていたんですね。
「当然というより、昔も今も仏教的なものが好きだったんですよ。母方の祖父母が滋賀県彦根市に住んでいて、お盆など忙しい時期に預けられて、おばあさんが京都や奈良に連れて行ってくれました。そこでお寺や仏像を見て、かなり好きになりました。小さいころは大仏やお寺の柱の大きさとか迫力が単純に面白かったのですが、高校や大学で仏教を学んで、思想とかが面白いなと思うようになりました」
――どんなところが面白いですか。
「2500年ほど前のインドで、バラモン教のカウンターとして誕生した仏教が、インドの外に出てさまざまなほかの考え方を吸収して大きく広がっていき、中国、朝鮮半島を経て日本に到達した。その中で曹洞宗も誕生したのですが、曹洞宗以外の仏教に触れるたびに、仏教の持つ守備範囲の広さや思想の深さには驚かされます。
昨年まで北海道の根室市のお寺のお手伝いに2年ほど行っていたのですが、南アジアで生まれた仏教が雪と氷の街で信仰されている、という現実は、お釈迦さまでも想像されてなかっただろうと考えると、楽しい気分になります」
違いで自分が分かることも
――仏教や宗教への関心の低下が言われていますが。
「仏教に限らず、宗教って杖みたいな存在だと思うんですよ。なにかあった時に頼れるもの。いらないときは別に置いておいたらいいんです。いざという時に頼れるものがないと、転んだり、変なものに頼ったりしてしまう。平時から知っておいた方が得だと思います。
要な時に仏教の思想は使えるはずなので、その入り口としてお寺を講演会などにお貸ししています」
――どんなイベントを?
「例えば、伝統芸能ですね。落語は今年5月26日にも上方落語寄席が開かれます。歌舞伎のツケを浪曲で打ったらどうなるのかというイベントや、私も仏像や枯山水など仏教美術の講演をさせていただきました。
ほかの宗派のお坊さんの講演会が開かれることもあります。気にされる方もいますが、私はまったく問題ない。共通した部分を知ることができるし、違うからこそ自分の宗派がよく分かることもあって、面白いと思っています」
――お墓参りもお寺へ行くきっかけですよね。2020年に高顕寺と矢田石材店で開園したはなえみ墓園も含め、名古屋市のお墓の多くは平和公園など共同墓地に集められています。
「お墓参りが便利になる部分も大きいですが、私としてはお墓とお寺が切り離されるのは少し残念です。お寺に来る機会が減って、お寺とか仏教とか面白いものに触れるチャンスが減ってしまうので。うちの父の前の先代住職は寺子屋を開いていたそうです。そういう雰囲気を取り戻して、またみんなが集まってくれるような場所になって、存在感を出していきたいと思っています」
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式をサポートする「お寺でおみおくり」。
不安が少なく、心のこもった、供養の形を、矢田石材店とともに考える、お寺のご住職のインタビューをお届けします。
毎月の第2、第4月曜日に更新する予定です。