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ある問屋さんの立腹

昔、松下電器が四、五百人ぐらいの町工場に成長し、信用も増やしつつあったころのことです。

ある日、店員の一人がお得意先回りで、ある問屋さんへ行ったところ、そこのご主人がたいへん立腹していたのです。「おまえのところの品物を小売屋さんに売ったら、評判が悪いといって返されてきた。せっかく売ったのに返されて、わしは憤慨しているのだ。けしからん。だいたい松下が電気屋をするなどとは生意気だ。電気屋というのはむずかしい技術がいるものなのだ。こんな品物をつくるくらいなら、焼きいも屋でもやっておけ、それが松下には手ごろな仕事だ。帰ったらオヤジにそういっておけ」

店員はそのとおりに私に報告しました。それで私は、「ああそうか。そんなに怒っておられたか。それなら近いうちに行って誤っておこう」と言ったのです。そして、自分でその問屋さんを訪問しました。「このあいだはたいへんなご立腹で、申しわけありませんでした。店員に聞いたのですが…....ほんとうにすいませんでした」

私がそう言うと、問屋さんのご主人は、「いやおそれいった。立腹ちまぎれに強く言ったのだが、お宅の店員がまさか焼きいも屋になれということをそのままあなたに伝えるとは夢にも思わなかった。失礼した。腹を立てないでくれ」と言われるのです。そこで私も、「いや、腹など立てはしません。これから注意して、なおいいものをつくりますから」と言うと、先方も恐縮してあとは笑い話になったのです。このことが転機となり、その問屋さんとは非常に親しくなり、いわばひいきにしていただくようになったのです。

これはうまくいったと言う話をしたいのではありません。実はこれが下位上達の姿だということです。店員が言われたとおりに私に伝えたのは、日ごろ常に、私がたとえいやなことでも話してくれよと言いきかせていたからです。

そうでなかったら、どうなっていたでしょう。おそらく店員は、そのようなことをおやっさんに報告したらいやな顔されるだろう。だから怒っておられたという程度にしておこうということになるでしょう。あるいは番頭に相談する。すると番頭が、焼きいも屋のことだけは言わないでおいたほうがいいという場合もあるのではないでしょうか。それでは主人公である私には、実際のことがわからなくなってしまいます。

首脳者、経営者たる人がいやなことを聞いて、いやな顔をしたり、機嫌を悪くしたりするようでは、いやなことは伝わらないようになります。いやなこと、いやな話ほどみずから反省すべき点、改善するべきところを含んでいることに思いをいたすべきだと思います。

だから会社でも商店でも、外部に対して手を打たなければならないような情報がすぐに首脳者に伝わるような雰囲気を、絶えず内部につくっておくことが、事業なり商売を進めていく上で肝要だと思うのです。


★今日の気づき★

『下位上達の姿』”首脳者、経営者たる人がいやなことを聞いて、いやな顔をしたり、機嫌を悪くしたりするようでは、いやなことは伝わらないようになります。いやなこと、いやな話ほどみずから反省すべき点、改善するべきところを含んでいることに思いをいたすべきだと思います”

まさにここがとても大事だと気づかせていただきました。良いことはニコニコして当たり前ですが、『いやなこと』を聞いたときの方が重要だと感じました。ここは意識できていなかったのでさっそく実践していこうと思います。

今日も感謝感謝 拝 

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