インセイン シナリオ『誰も知らない"宮内くん"』
【序章〜ゆ め〜】
【警告】R15
※この物語はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係はありません。
※この物語には暴力、いじめ、猟奇的な記述等
一部残虐な描写が存在します。
ぽたり。ぽたり。
滴る雫。
ほわり。ほわり。
レモン石鹸の香り。
かなかな。かなかな。
ひぐらしの合唱。
木造の廊下沿いに連なる、所々割れた窓から斜めに世界を切り取る夕陽が
伸びきった蔦の影絵を落としながらも
陽の差さぬ場所を優しい黒に染め上げる。
切り取られたオレンジ色の世界は
セピア調にも似た優しい円みを伴いつつ、それでいてとても鮮明で、
浮かぶミクロの埃すらも美しく幻想的に見せてい
そんな誰もいない校舎のなか。
滴々と手洗い場の蛇口から落ちるもの以外に音がする。
ペタッ。キュ。ペタッ。キュ。
足音だ。聞いたことがある。
裸足でゴム製の上履きを履いている音。
ギシッ。ベコ。ギシッ。ベコ。
床の音だ。覚えてる。
この廊下で歩くと、後をついてくるように音が鳴るんだ。
スキップをしているのだろうか。
二つの音は軽く、楽しげに近づいてくる。
でも音の主はどこにもいない。
上の階なのだろうか?
階段を見上げてその音の主を待つ。
ペタ。キュ。ベコ。
“すぐ傍“でその音は止まった。
そう、直ぐ傍で。
ひたすらに無音が続く。
なおも暗闇に目を凝らして階上の踊り場を見つめる。
きっと、ちょうど真上に誰かがいるはずだ。(そう思いたかった。)
そいつはずっと動かない。
動いてはいけない気がした。
(___金縛りのように。)
動いてはいけない気がした。
(___待っていなきゃいけないから。)
動いてはいけない気がした。
(___なんでだろう。理由はわからない。)
動けないでいた。
(___指先までも命令が行き渡らない。)
動けない。
(___背中に百足が這うような、そんな悪寒に苛まれる。)
温かったはずの廊下が、いつの間にか月光で切り取られた寒い切り絵の世界に変わり
ただでさえ黒かった闇をこの世のものではないものに変える。
ナンデ、コンナニナルマデ待ッテイナイトイケナインダロウ?
ピクピクと、指先に力が戻り始めて小指くらいは動かせるようになった。
悪寒は治まり、じわじわと胸の内から体温と共に安堵が身体中を満たす。
意を決して、階段に向かおうとした時。
ピンと、後ろからシャツを引っ張られた。
再び、身体中が石へと変わる錯覚。
いや、これは錯覚じゃない。
だって、本当はずっとシャツが握られているのに気づいてた。
だめだゃちい動
首だけが、狂気的な強制力を伴って回る。
ゆっくり、ゆっくり、ひどく緩慢に。
だめだゃち見
耳鳴りが、どんどん強くなって
自分の呼気の音も、心音もかき消していく。
だめだゃちい聞
視界の隅にシャツを力強く握る子供の手が見える。
「これ以上は、見たくない。」と本能は只叫ぶ。
それでも声は出ず。足は震え、背中は玉の汗を浮かばせる。
まるで絶叫を震えと水にして体中からひじり出しているかのように。
そして“その顔”を視界に捉えてしまった途端。
脳はそれを映像として認識することを放棄して、意味を伴った情報の羅列を吐き出す。
耳鳴りはふっと途絶え、この世に聞けないものはないと思えるほどに聴覚は研ぎ澄まされた。
____________視界。
柘榴。火傷。炭■。出血。蛆。腐■。膨張。
口? 開。舌。爛■。■顎。■損。
『 イ カ ナ イ デ 』
「ひっ、ぎあああああああああああああああああ!!!!」
絶叫する。目の前にはいつも仕事に使うパソコンと、
驚愕の顔を浮かべる同級生たちの顔。
「びっくりしたぁ。おはよう。」
「え、いや、あのっ、あれっ?」
「どうしたの?悪い夢でも見たの?」
「打ち合わせ中に寝るなんて、フテェ奴だな。」
「まぁ私たちも、同窓会の打ち合わせより『おもひでポロポロ』してただけなんだけどね。」
「「「あははははははははは」」」
そうだった。
小学校の同級生と同窓会をしようと、
ウェブで打ち合わせをしていたところだったんだ。
「で?どんな夢だったの?怖い夢だったの?汗だくだよ?」
「えっと…………あれ?」
怖かった? いや、びっくりしたのか。
夢なんて曖昧なもので、もはや感想すら覚えていない。
でも、どことなく……。
「いや、そう、きっと懐かしい夢……だった気がする。学校に居たよ。旧校舎。」
「あ〜。先生に怒られないように隠れて行ってたよな。みんなで探検。」
「ええ〜、それ男子だけの話でしょ?」
「いやいや、女子も恋のおまじないだとかなんだとかしてたっしょ〜?2ーAの日直の話!」
「ああ!あったわ!やだ恥ずかしぃ〜!」
またも、思い出話に花が咲く。
確かに覚えてる。夕焼けに照らされる旧校舎。
立ち入り禁止になってたけど皆でよく遊びに行ってた。
よく遊んでたのは菊池と、郷原と、東と……。
立ち入り禁止だけどどうやって入ってたんだっけ?
ああ、そうだ。
「そうそう、“宮内くん“が鍵をどっかから拾ってきてて、それで裏口開けて入ったのが最初だったよね。」
「……………ん?」
ごめん、聞こえなかったと。
たった一文字で表現したかのように
にこやかに尋ね返される。
「あれ?違ったっけ?どうやって入ってた?」
「……確かに、あの立ち入り禁止の旧校舎にどうやって入ったか覚えてないけど。」
「…………。」
旧友達は皆一様に呆然としている。
「どうしたのみんな?ほら、それで最初の日は“宮内くん“がガラス割っちゃってさ!やばい怒られるぞって一目散に逃げ出した時は大変……だったよね?」
こんなに鮮明なのに、
どんどん自信がなくなってきて、最後には尻すぼみになってしまった。
「ほら、他にもさ、どこの鍵かわからない鍵があって、それも宮内くんが拾ってきて…………。」
怪訝な顔をするものもいた。言葉の意味がわからないと。
目線を下げて、眉間に皺を寄せるものもいた。思い出そうとするかのように。
意味ありげに皆の目線が泳ぐ。まるで居心地が悪いかのように。
画面越しにもわかる、空気の凍った気配。
「なんかまずいこと言っちゃったかな。ごめん……。」
「あのさ。」
元委員長が声を上げる。
「“ミヤウチくん“って…………ダレ?」
「…………えっ。」
乾いた声しか出なかった。
窓から夕陽が差す。
“あの場所“と同じように。
日の差さぬ場所にいる自身を、黒く染め上げるように。
かなかな。かなかな。
ひぐらしの合唱
ちっちっ。ちっちっ。
秒針の進む音
ぽたり。ぽたり。
止まらぬ汗の、落ちる音
『誰も知らない“宮内くん”』
【シナリオ概要】
同窓会の打ち合わせ中に見た白昼夢。
その果てに、とある一人の同級生“宮内くん”を思い出した主人公。
__だがその場にいた誰もが“宮内くん”を覚えてはいなかった。
同窓会の余興として催された肝試しの会場は
謀ったかのごとく“宮内くん”と遊んだ廃校舎。
当然の如く惨劇の幕は上がった……。
開かない校門。 て
鳴り響く予鈴。 おね
明けることのない夜。 てけ
明るみになっていく惨劇。
血まみれになっていく下駄箱。 す が
校舎を■■する■■の断末魔。 た い
果たしてあなたはアナタノママデ、
ここから出ていけるでしょうか?
廃校舎、七不思議。
真夏の深夜、肝試し。
禁忌、呪い、儀式、怨嗟、殺意、罪と罰。
ジャパニーズホラーの全てのお約束を詰め込んだ
おどろおどろしくも、悲しいまでに美しい、
とびきりの狂気と恐怖と絶望をあなたに。
「怖くても大丈夫。
痛くても大丈夫。
悲しくても大丈夫。
忘れて、忘れて、忘れて、忘れて。
『なかったことにしましょうね?』
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忘れてしまったことは、
忘れたままでいいのでしょうか?
思い出せないことは、
思い出さなければならないのでしょうか?
誰の記憶にもない“モノ“は、
もウこの世二無い“モノ“でしょうカ?
__あなたはきっと“忘れている“ことに恐怖する。
TRPG『インセイン』用シナリオ 『誰も知らない“宮内くん“』
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